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さとがえり

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「おぬしは、いやお前達二人は今幸せで不安だろう。いつか来る別れの時を恐れて。だがな、鵺野どの。先ほどは色々と言うたが……そんな遠くの話は考えずとも良い。それはあやつ、玉藻の…そして我等の役目だ。だから今を生きるがいい。人間の生を、そして楽しむがいい。生きるのを楽しむのは罪ではない。せいぜい玉藻から可愛がってもらえ」
「……けっこう、楽しんでいると思いますが」
「まだまだ。私のいうことに一々狼狽えているようでは…な」
にやりと修行が足りんぞと笑う。
「『お前はそれほどにわたしが恋しいか。人間を捨ててもわたしと一緒に棲みたいか』―どうだ、鵺野どのの答えは如何に?」
何を言われたのか、すぐには分からなかったが、その一節は知っていた。夥しい妖狐の関連書籍の中でもそれはロマンティックな部類に入るだろう、鵺野が心を寄せる相手と同じ名前の、伝説のあやかしと人間の物語。九尾にとってはまさに戯れ言である。しかし只の戯れ言で片付けてはいけない言葉だ。
「俺は…俺は、人間は捨てない。捨てることは出来ない―どんなに恋しくても、捨ててでも一緒に居たいと思っていても。…でも、気持ちはわかる、と思います…」
「だそうだ、嬉しいか? 玉藻」
くすりと玉藻の方へそう言うと、玉藻は「知ってます」とだけ言った。
「まったく、あやつときたら意地っ張りというか見栄っ張りだ――ああ、もうこの喋り方も面倒。―明日、帰るの?」
口調の変化に驚くものの、それには何も言及せずに鵺野は頷く。
「はい、お騒がせしました」
「ほんとに、久しぶりに里全体が賑やかになって良かったわ…しばらくは活気づくでしょう」
心から幸せそうに微笑み、九尾は鵺野を見つめた。
「鵺野先生には、また玉藻のことで世話をかけますね。未完成ながらも人の心をもったあの子が、この先我らにとって幸いとなるのかどうかはまだ判らない。けれど」
妖狐の未来も大事だが、玉藻本人の幸せも同じくらいに大事なものだから。
「あの子…玉藻のことを、どうか」
お願いね、と。声に出さないまでも鵺野にはくちびるの形で分かった。
月夜の散歩に連れ出したのは、ただこの一言を、このたった一言を伝えんが為だと、鵺野は悟った。なんと遠回しな愛情表現だろうか。
「また、いつか。…鵺野先生」
「…また、いつか」
九尾が鵺野に近づき、ほほに口づけをしたのは、ほんの一瞬のできごと。
「またな、鵺野どの」

作品名:さとがえり 作家名:さねかずら