君に、泣く
「お前なあ……」
呆れたような桂の声。
「なんだ?」
銀時は座布団に腰を降ろした。正座している桂とは対照的に、机の下に足を投げ出す。
「……いや、いい」
そう打ち消すと、桂は急須を持ち上げ、湯飲みに茶を注ぐ。八分目ぐらいまで入った所で、桂は急須を置いた。
桂が差し出すまでもなく、銀時は自分の湯飲みを取った。
「……なんかこれ、濃すぎねェ?」
「うっ……」
桂は言葉を詰まらせる。
自分でも確かにそうだと思っているのだろう。
仕方なく、銀時は湯飲みに口を付ける。
熱かった。しかも、苦かった。
けれども、銀時は文句を言わなかった。
しばらく、二人とも無言だった。
それは、気まずいわけではなく。
のどかだ、と銀時はぼんやり思った。
時間がいつもより、ゆっくりと、穏やかに流れているような感じがした。
けれども、それは、あっけなく破られる。
「……今日は、長居してもらっては困るんだ」
桂は銀時を見ずに、言った。
銀時の口の左端がわずかに上がる。それはかすかな笑み。
「それってさあ、さっきここの階段ですれ違った奴らとなんか関係ある?」
問いかける。
階段から降りてきた男たちは皆、穏やかな顔つきをしていたが、身体はよく鍛えられていた。着物に隠されていても、銀時には分かった。すれ違う一瞬、ぴりぴりとした緊張を感じたのだ。
桂は、銀時の眼を真っ直ぐに見る。
「お前には関係の無い事だ」
突き放すような言い方をする。
だが、桂がそんな風に言うわけが、銀時にはおぼろげながら分かっている。
「そりゃあ、そうだな」
分かっていても、銀時の声は乾いていた。
どうしようもなく沈む気持ちを誤魔化すように、銀時は勢いよく立ち上がる。
「帰るわ」
そう宣言する銀時を、桂は見上げた。ほんのわずかな間、桂の顔は曇った。けれどもすぐに、いつもの勝ち気な顔に戻る。
「突然押し掛けてきたかと思えば、急に帰るのか。慌ただしいな」
見送るつもりはないらしく、立ち上がりもしない。
それを気にせず、銀時は桂に背を向ける。
外へと、歩き出す。
そして、部屋から廊下へと足を踏み入れた時、銀時は立ち止まった。
振り返らずに、言う。
「桂。俺が昔、お前に言った事、覚えているか」
「なんの事だ」