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世界で一番遠い I love you(英米/R15)

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話し終えた日本はアメリカの感情を探るようにじっとこちらを見つめた。
深い色を湛えた眼差しは見ているだけで吸い込まれそうになる。
あまり視線を合わせることはしない日本にしては珍しく視線を逸らさない。
言葉を待たれているのだと気付いてアメリカは唇を噛んだ。
何と言えばいいのだろう。
何と言えば、彼の気持ちに報いることができるのだろう。
―――――イギリスは何時もアメリカに優しかった。
アメリカの独立宣言の後、イギリスは何十年にも渡ってアメリカと私的な交流を
持とうとはしなかった時代でさえ、アメリカが本当に苦しいときは
傍で寄り添って支えてくれた。
その支え方は皮肉屋の彼らしくとてもわかりづらいものだったけれど
振り返って考えてみれば、いつだって助けてくれたのはイギリスだった。
けれどアメリカはイギリスに助けられることや世話を焼かれることを拒んだ。
いつまでも子供扱いするイギリスに腹が立ったし、何よりも彼に甘えてしまう自分自身に
心底うんざりしたのだ。
彼の愛情を重い、うざいと振り払うくせに与えられなくなることはないと思い込んでいる。
そんな自分にうんざりして彼から独立を果たした。
だけど結局は彼から離れることなどできるはずもなく、アメリカはイギリスの手を
再び取った。
そしてイギリスは己の愛を踏みにじり、心に深い傷を負わせたアメリカを
愛するようになった。
彼の感情がどこから変わったかはわからない。
少なくともアメリカは告白されるまで彼に惚れたという意味での愛情を
抱かれているとは知らなかった。
告白されて、彼の弱点を探るために付き合い始めてからも彼の愛情を疑ったことは
無かった。
ロシアに指摘されるまで考えもしなかったのだ。
それほどアメリカにとってイギリスからの愛情は不変で当然のものだった。
だから考えようともしなかった。
どんな思いでイギリスがアメリカに愛を告げたのかを。
わかろうとも考えようともしなかったアメリカが今更好きだなんて言えるはずが無い。
だけど、気づいてしまった。
そんなわけがないと否定しても、無かったことにしたくても、生まれてしまった心は
完全に消すことなどできないのだ。
それは人ではない「国」であっても同じことで、アメリカも自覚してしまった恋心を
捨て去ることはできない。
せわしなく視線を彷徨わせて、一瞬目を伏せたアメリカは日本に視線を戻す。
なおも真っ直ぐ向けられる眼差しにきちんと向き合って口を開いた。

「俺、イギリスのことが好きなんだ」

きっぱりと言い放ってから言葉の内容に恥じるようにほんのり頬を朱に染める。
言葉にしたことでこの想いはその場限りの衝動で発したものではなく
自分の気持ちの中に在ったこともわかった。
ぎゅっと拳を握りしめて日本の反応を窺う。
黒い瞳を彼と同じようにじっと見つめると日本は深々と吐息をついた。

「・・・・・・難しいですよ」

「うん。わかってる」

日本の言葉にこくりとアメリカはあっさりと頷く。
日本の言葉は遠まわしに言い過ぎてよくわからないことが多いけれども
今の言葉の意味はそれほど考えなくとも理解できた。

臆病で怖がりなイギリス。

2枚や3枚で収まらない舌をもつ海賊紳士の元ヤンの下に隠れている彼は
抱きしめたら壊れてしまいそうなほど脆く柔らかい存在だ。
けれど、決して弱いわけではなくその意思は何人たりとも曲げられないほど
頑なで強固で・・・だから難しいのだ。
一度イギリスが決めたことをひっくり返すのは。
あのとき、イギリスはアメリカとの愛を諦めた。

『いいんだよ。いいんだ。・・・・・・俺は、幸せだった』

彼の優しさに満ち溢れた別れの言葉は過去形だった。
それは彼がアメリカとの関係を諦めてしまったからだ。
イギリスは日本にいつか別れが来ても受け入れられると言っていた。
そして、その通りにイギリスとアメリカは別れた。
彼はとても安堵しただろう。
ああ、やはりそうだった。アメリカは自分のことなど好きではなかったのだと。
それでもアメリカは付き合ってくれた。
それだけでイギリスは満足していたのだ。
アメリカに手酷く独立をされ、傷ついた心を抱えたままのイギリスは
愛することを、人を信じることを諦めてしまった。
慈愛を映しこんでいた綺麗なエメラルドグリーンの瞳はいつしか諦観の色を映しこみ。
いつだって優しく抱き上げてくれた手は血と怨念に塗れた。
そうなっても再びアメリカを求めたのは―――――愛していたからだ。
だから彼は、イギリスはアメリカを求めた。
けれどそんなイギリスの気持ちにも自分の気持ちにも全く気付けず
またイギリスを傷つけてしまった。
けれど、そんなヒーローではない行動は今から終わりだ。
やっと気づけたのだから、今度はアメリカがイギリスを求める番だ。
大丈夫、心配はいらない。
何故なら―――――

「ヒーローにはハッピーエンドしか待っていないから大丈夫なんだぞ」

自然と笑みが零れた。
自覚したばかりの想いはいつからかこの胸にあった想いだ。
彼に比べれば重ねてきた時間はとても短いし、浅い。
イギリスにこの気持ちを伝えても信じてもらえない可能性が高いだろう。
けど、だからといってこの気持ちを諦めたりなんかしない。
ベースボールだって9回裏2アウトからだって絶望的な点差を
ひっくり返したこともある。
奇跡は起こるのを待つのではない。自分で掴みとるものだ。
だからイギリスとハッピーエンドを迎える方法だって絶対にある。
そう自信たっぷりに胸を張ったアメリカに日本は呆気にとられそして同じように
笑みを零した。

「・・・・・・わかりました。では、私は逆転勝ちの為の策を練りましょう」

「Great!頼りにしているんだぞ日本」

興奮したアメリカは満面の笑顔を浮かべて日本の手を握り、何度も上下に振る。
それは腕が痛くなった日本からの控えめな抗議が告げられるまで続き
アメリカと日本の作戦会議が始まるのはさらに一時間後のことだった。