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世界で一番遠い I love you(英米/R15)

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世界で一番遠い I love you act2


(いけない。・・・流されるな)

流されそうな思考と感情に歯止めをかけて唇を噛み締めた。
忘れてはいけない。
今、アメリカがイギリスと付き合っているのはアメリカの本意ではない。
なかなか弱みを見せないイギリスの弱みを握るためだ。
その為に今までにしなかった彼の手伝いをしているのだ。
勘違いしていけない。

「・・・メリカ。おい、アメリカ」

「わ」

扉に手をかけたまま意識を飛ばしていたアメリカは肩をぐいっと引っ張られて
間抜けな声を漏らしてしまった。
そのままの姿勢で振り返れば、眉を顰めたイギリスが大丈夫か?と声をかけてくる。
どうやら不審を抱かせてしまうほどぼんやりしていたらしい。
大丈夫だよと扉を閉めながら返事を返せば、ますますぶっとい眉毛は寄せられた。

「お前、寝不足なんじゃねえか?」

「そんなことないよ。気のせいじゃないかい」

「・・・・・・本当か?」

「っ」

確かめるように頬を触られて反射的にびくりと身体が震える。
イギリスの指先は庭弄りが趣味のせいか、少しささくれが目立っている。
触れられるとその荒れた皮膚が痛いことがある。
けれど愛情に満ちた優しい仕草がその痛みさえ忘れさせてしまう。
イギリスの触れ方はアメリカが幼かった頃とあまり変わらない。
可愛い、と言葉にしないもののイギリスがそう思っていることなど
触れ方や表情を見ればすぐにわかる。
子供扱いするのは止めてくれよと苛立つ気持ちとどうしてかわからないけれど
安心する気持ち。
その二つの気持ちがせめぎ合って受け入れることも反発することもできない。
頬を撫でてアメリカの顔をじっと観察したイギリスはため息をついて手を外した。

「無理するなよ」

「俺はヒーローだから平気だよ」

「お前なあ」

イギリスは呆れたように言葉を零したがそれ以上は言わなかった。
これ以上、説教をされてはたまらないとアメリカはさっさとリビングに移動をする。
ご飯を食べるために中断しておいたゲーム機を手に取り
ソファーに寝っ転がろうとすると遅れてリビングにやってきたアーサーが
薄手のジャケットを手にしていることに気付いた。

「あれ?どこかに出かけるのかい?」

「ああ。注文した物が届いたって連絡が来たからな。ちょっと行ってくる」

「・・・・・・ふーん」

「冷蔵庫に入っているアイスは食ってもいいけど全部は食うなよ」

「俺も行く」

「コーラも飲み過ぎ・・・は?」

「俺も行くって言ったんだよ」

ジャケットを着込んだイギリスが不可解なものを見るかのように胡乱気な視線で
アメリカを見下ろす。
電源を再び切ったゲーム機をソファーの端に置き、アメリカは身を起した。
いつもはきらきらと鮮やかなグリーンが見下ろしているせいか、少しだけ翳って見える。
そのグリーンを真っ直ぐ見返しながらアメリカは口端を持ち上げた。

「それともキミは恋人を放っておくのかい?」

「来たって面白いものは何にもねえぞ」

間を置かず返された答えは素っ気ないものだった。
それでもアメリカは気にもせずにジャケットを取りに行ってくるよと告げて
立ち上がり、リビングを出る。
その背中に呪詛のような独り言が聞こえたけれどアメリカはすべて無視をして
ジャケットを取りに行った。

◆ ◆ ◆

「キミがノッティングヒルを歩くなんてね」

「馬鹿にしてんのかコラ」

「うん。まあね」

「テメエ・・・・・・」

ギギギ、とまた不穏な呻き声を上げたイギリスを尻目にアメリカは不思議そうに
こちらを見ている小さなレディに手を振る。
手を振られた少女は恥ずかしそうにしながらもはにかんでこちらに
手を振り返してくれた。

「オイコラ。人んちの国民に手を出すんじゃねえぞ」

「手を振っただけだろ。キミやスペインじゃあるまいし、小さな子に手を出す
 なんてことするわけないだろ」

「スペインの野郎と一緒にするんじゃねえよ!」

先ほどから怒ってばかりのイギリスが目を剥いて怒鳴る。
目立つから怒鳴るのは止めて欲しいなと思うアメリカはその原因が自分にあることには
思い至らない。
アメリカにしてみれば、ちょっとした軽口にどうしてここまで怒ることが
できるのか不思議でならなかった。

(ここにしては珍しく晴れているのになあ)

心の中で呟いて空を見上げる。
昨日まで立ち込めていた分厚い灰色の雲は欠片も無く、見渡す限り広がる青。
さんさんと降り注ぐ太陽の光は秋の終わりを告げるロンドンをここ最近の寒さを
忘れるほど温めている。
今、怒り狂っているイギリスと歩いているのは大通りではなく裏通りに近い小道なのだが
暖かさにつられてか行きかう人は多い。
イギリスが頼んでいた品物を取りに行ったのは馴染みのデパートではなく
小さな布地屋だった。
もっともアメリカが知らないだけでその店とは長い付き合いだったらしく
「アーサーさん」と親しげに呼ばれていた。

(アーサー、か)

イギリスにアーサーという人名があるようにアメリカにも
アルフレッド・F・ジョーンズという人名がある。
使うのはもっぱら「人」に対する時で「国」同士の付き合いで使うことはほとんどない。
外出する時やオンラインゲームなどで使うときもあるが、やはり基本的には国名が多い。
だからというわけではないが妙に印象に残ったのだ。

「アーサー」

「なんだよ」

試しに呼んでみると訝しげに視線を向けられる。
瞳には先ほどまで宿っていた怒気は無く、いきなり名を呼ばれた疑問しかない。