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世界で一番遠い I love you(英米/R15)

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「呼んでみただけだよ」

「そうか。また腹でも減ったのかと思ったんだが」

俺の見当違いか。
独り言に小さい言葉を漏らしてイギリスは路傍に立つ店に視線を向ける。
アメリカもつられて視線を向けると若い女性がジェラートを売っていた。
アメリカに「少し待っていろ」と告げてイギリスは足早にその露店に向かう。
珍しい行動に目を瞬かせるとジェラートを二つ受け取ったイギリスは
今度はジェラートを零さないようにゆっくりと戻ってきて
そのうちの一つをアメリカに差し出した。

「・・・珍しいね。キミが買ってくるなんて」

ありがとう、と素直に言えなくてごまかすように言うと控えめにジェラートに
齧りついていたイギリスがアメリカに視線を合わせて言った。

「お前が好きだから」

さり気なく言われた言葉にジェラートに齧りつこうとしたアメリカは
口を大きく開いたまま固まる。
付き合い始めてから幾度となく甘い言葉をイギリスは囁いてきたが
まさか街中で言われるとは思わず、またあまりにも唐突だったので
アメリカは取るべきリアクションを見失ってしまった。
そのアメリカの表情を見て、自分が何を言ったのかようやく気付いたイギリスは
白目を剥きそうな勢いで言い訳を口にする。

「つうか俺がお前を好きなんじゃなくて、お前がジェラートが好きだって意味だぞ!!
 ・・・・・・いや、違うな。お前のことは、好きだ」

小さな声で付け加えられた告白に完全にアメリカは言葉を失った。
暖かい太陽の光でジェラートが溶けて手にかかっても動けない。
何を馬鹿なこと言っているんだい。
ここがどこだかわかっているのかい?と喉元まで言葉がこみ上げて来ても
今の真っ赤になった顔では説得力が無いだろう。

(いや、それよりも何で俺は照れているんだい!?)

せめてその顔を見えないようにと背けるとこちらをじっと見ていた子供と
視線がぶつかり合った。
それに気づいた母親が慌てて「見てはいけません」と子供を引っ張っていく。
そのやり取りが普段は他人などほとんど気にしないアメリカの心にも深く突き刺さって
何だか本当に泣きたくなってきた。

「おいアメリカ、零れてるぞ」

台詞と共に手を掴まれて、ぺろりと鮮やかな赤に手の甲にまで垂れた
ジェラートを舐めとられる。
その瞬間、何かが切れてしまったのだろう。
ぽろ、とアメリカの瞳から涙が零れ落ちた。

「え、あ、お、おい・・・・・・」

いきなり泣き出したアメリカを目前に明らかに狼狽しているイギリスの言葉にも
何も返せない。
目をぎゅっと瞑って涙を堪えようとしても涙は止まらなかった。
どうして泣いてしまったのかアメリカ自身にもわからない。
少なくともこの状態がとてもヒーローらしくないことだけはわかった。
どうにか涙を止めようと腹に力を込めたり、目を拭ってみたりしたが止まらない。
ぐしぐしと涙を拭っているとぐいっとイギリスに腕を引っ張られた。
いきなり引っ張られて驚いたのでジェラートを落としてしまったが
落としたジェラートに頓着せずにイギリスはアメリカを引っ張っていく。
二人が歩いていた裏通りよりももっと奥の、さらに人通りの少ないところに連れ込まれて
アメリカはぎゅっと抱きしめられた。

「泣くな」

子供をあやす様な声音でイギリスは呟く。
いつものからかう素振りなど無い優しい声音だった。
腰を抱く手とは反対の手がゆっくりとアメリカの後ろ毛を梳く。
イギリスに抱きしめられているせいで心臓は壊れてしまいそうなほど
脈打っているし、頭がガンガンと痛むのに何故か心が落ち着いてくる。

(俺、イギリスに振りまわされてばかりだ)

自分が他人を振りまわすことがあっても、他人に振りまわされたことのない
アメリカにとってイギリスは計算外の存在だった。
アメリカのことを好きだなんて言って振りまわして、弱点を握ろうとしている
アメリカよりも余程上手にやっている。

(付き合わなければよかった)

イギリスのことは好きじゃない。
それでも彼と付き合い始めたのは彼の弱点を握るためだった。
決して彼とこんな風に、本当の恋人のように付き合うためではなかった。
ぐす、と鼻を啜って顔を胸に押しつける。
鼻水でもつけてやろうとした仕草はイギリスにとっては甘えに映ったらしい。
よりいっそう穏やかに慈しむように撫でられて胸がぎゅうと締め付けられた。
涙も嗚咽も止まった頃、アメリカがイギリスから離れようとすると
イギリスがアメリカの両頬を包んで顔を自分の方に向かせる。

「・・・よし。泣きやんだな」

目尻に浮かぶ涙の名残を親指で拭ってイギリスはふ、と笑った。
付き合い始めてからよく見るようになった格好付けた笑い方だ。
そんな笑い方したって似合わないんだぞと思うのに何故か心臓がドキドキしてしまう。
動揺して視線を彷徨わせるアメリカに触れるだけのキスを一度してイギリスは
ようやくアメリカを解放した。

「アイスはまだ今度な。今日はもう帰ろうぜ」

そう言ってイギリスは歩き始めた。
その後ろを無言でとぼとぼ着いていきながらアメリカは唇に触れる。
イギリスに触れていた部分がじんじんとする。
唇だけじゃない。触れていた髪も身体もじんじんするのだ。

(俺・・・)

どうしちゃったんだろう。
小さく呟いた言葉は幸いにもイギリスに届かず、ただの独り言と処理される。
そのことにほっとしてアメリカは唇を引き結ぶ。
今、口を開けば何を言ってしまうかわからなかった。