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綾沙かへる
綾沙かへる
novelistID. 27304
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Flash Memory ~いつか見た夕暮れ~

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 かつて、コーディネイターの排斥を掲げ、各地で過激な行動を取り、あまつさえ先の戦争で地球連合軍を操り、多大なる犠牲者を生み出した組織。彼らはコーディネイターを『人の形をした化け物』だと言い、その存在全てを否定した。最初は確かに、命の誕生を操作すると言う行為に、倫理的な問題を提起する集団だったのかも知れない。いつしかそれは、妬みや羨望を煽り、全てを滅ぼさなければ自分たちが危ないとまで偏った思想へと走り始めた。
 先の戦争で虐殺を煽ったかつての盟主は既に亡く、現存するその組織はとても小さなものだった。なにより、戦争で疲弊しきった上に指導者を欠き、自然消滅するかに思われていた。
 けれど、確かにそれは巨大な組織だったのだ。その名残のような集団が、かつて標的と定め、滅ぼした筈の恐ろしい存在が今もなお生きている事を知ったら。彼らの盟主を亡き者にし、全てのナチュラルに潤いを与えるべき技術を隠していると知ったら。
「…解り易いね。」
 思わず苦笑を零した。クリップで止められた紙片を捲る度に、人が愚かなのかそれともあの人が言ったように自分と言う存在が許されざるものなのか解らなくなって来た。
 誰も、自ら望んでコーディネイターとして生まれてきた訳ではないのに。子供は、親を選べない。我が子をコーディネイターにと望むのは、ナチュラルである両親だ。だから全てのコーディネイターは「望まれて」この世界に生み出されて来た。望まれる一方で、化け物と罵られ、生命を脅かされて生きる生活に、どうやって希望を見出せるというのだろう。
 何が正しいのか、何が正義なのかは、人それぞれだ。いつでも自分が正しいと言張る事の出来る人間は、どうしようもなく愚かで、おめでたいのかも知れない。
 ともかく、そのブルーコスモスの残党で、一際過激な集団に目をつけられたらしい、と言うことは理解した。何処からどうやって調べ出したのか分からないけれど、キラの生活する範囲内で騒動を起こした、ということは誉めてもいいかな、と思う。
 キラがその手で消し去ってきた痕跡を辿ったのだとすれば、それは既にナチュラルの技量を越えている。コーディネイターが与しているのだとすれば矛盾してるな、と思うとやはり苦笑が零れた。
「…僕が一人で世界を滅ぼせるとでも思ってるのかな。」
 いくらなんでも、突拍子もない話過ぎる。それでも、そうと思い込まなければここまでしつこくキラの事を追ったりしないだろう。
 細かな文字の羅列を追っていた眼球が疲労を訴える頃、ようやく紙の束をデスクに放り出した。イザークから渡された資料はとても役に立つ。直接手を出すな、と何度も繰り返してくれた優しい人。オマケ付きでも良いから、地球に降りろと言ってくれた人。
「…ごめんね。」
 それでも、その優しい人達をこれ以上傷付けない為に。
 逃げてしまった自分に、けじめを付ける為に。
「後始末くらい、なんとかするよ。」


 ここが君の部屋、と言ってキラがバッグを降ろす。日の当たるベランダと、整然と並んだ何処か冷たい印象を受けるモノトーンの家具。随分ちぐはぐだな、と感想を零すと、キラは苦笑した。
「…うん、急だったから。向こう、僕の部屋だから。なにかあったら声掛けて。」
 悪いんだけど、仕事あるから、と言ってさっさと自室に消えて行く背中を見送ると、とりあえず足元にあったバッグを拾い上げて部屋の中をしげしげと眺め回した。弾力のあるベッドに腰を降ろすと、なんだかとても疲れたような気がした。
 この世界に慣れるまで、ね。
 病院を出てこの部屋に来るまでの間に、車の中で告げられた言葉。戦争は終っていて、暫定的とは言え世界は平和になったのだと。
 自分が、モビルスーツを動かしていたのだと言うことは、なんとなく身体が覚えているような気がした。例え頭が否定しても、両手を見れば一目瞭然だった。そうやって兵器を操り、今まで生き延びて来たのだと。
 キラと名乗った青年は、ディアッカとの関係を『ただの知り合い』だと言った。それが多分嘘なんだろうと言う事も、漠然と感じている。けれど、どうして嘘をつく必要があるのだろう。あの外見では彼がコーディネイターであると言うことは疑いようもなく、アカデミーに入る前の記憶には残っていないからおそらく戦争中に出会った筈なのだ。
「ただの知り合い、がここまで面倒みる訳ねぇだろ。」
 そもそも、どうして自分は事故に遭ったのだろう。そのとき、現場に居合わせたのはラクス・クライン。それこそ国民的アイドルを知らないはずがない。けれど、どうして自分と彼女がそんなに親しくなったのだろう。同じ評議会議員を父に持つ、とはいえ彼女と自分ではとてつもなく住む世界が違いすぎる。
 かいつまんで説明するよ、とキラは言った。
 戦争中に、ラクスはひとつの組織を立ち上げたのだ。互いに滅ぼしあう愚かな人間たちすべてを救うために。綺麗ごとだけではなく、かつてザフトのエースと呼ばれたアスラン・ザラも、オーブの獅子の娘、カガリ・ユラ・アスハをも賛同させて、志と、実践しうる力を兼ね備えた組織。その中に、ディアッカも居たのだと。
 つまりそこに居た、ということは、ようやく入ったザフトを捨てた、ということだ。
「…君は、ちゃんと自分の意思で戦って、戦争の終わりを見たんだ。」
 流されるように時代を見てきたのかと問いかければ、キラは少し懐かしそうに目を細めた。そこから先は、僕はわからない、そう続けて。
「最近の経緯は、イザークさんに訊くと良いよ。僕…は、ちょっと君たちとは離れていたから。」
 その横顔は、どこか寂しそうだった。そうして、この青年も戦争の真っ只中を駆け抜けてきたのではないかと思った。
「…アンタ、さ…もしかして、パイロットだった?」
 その質問には、曖昧に笑みを浮かべて。けれど、否定も肯定もしなかったのだ。
 わっかんねーな、と呟いて、スプリングの効いたベッドに転がる。緩く弾んで揺れる視線を天井になんとなく漂わせて、ディアッカは溜息を吐いた。
 キラは不思議な感じがする。とても目立つ容姿をしているのに、印象が薄い。意識して認識しなければ記憶に残らないような、そんな儚さを持ち合わせている。するりと自分の中に入ってくる癖に、抜け落ちて行くのも簡単だ。そんな気がする。
 今の自分、と言うより、事故に遭う前の自分は、ザフトの軍人だったのだと聞いた。一度は離れた筈の組織に再び戻るまで、何があったのだろう。その間に、とても大切な事があったような。自分の人生すら変えるようななにかがあって、今ここにいるのだと、それだけを漠然と感じながら。
 そうして、多くを語らないキラがそれに関わっているのだと、何処かで確信を持ちながら。

 仕事を口実に自室に戻り、ドアを閉めたところで力が抜けるように座り込んだ。自分で思っていたよりも緊張していた事に気付くと、薄く嘲笑う。