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綾沙かへる
綾沙かへる
novelistID. 27304
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Flash Memory ~いつか見た夕暮れ~

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 原因は、分かり切っている。だったら、それを打開してくれそうな人間に問い質す方が効率的だ。
 遅くなる、と言ったキラは宣言通りに戻らない。こんな時こそ、質問に答えてくれなければいる意味がないじゃないか、と刺々しく悪態を吐くと、ディアッカは目を開けた。
 何処へ行くでもなく、そのまま部屋を出る。
 夕暮れに向う空が、次第にオレンジ色に輝いていた。

 目前に迫ったつま先を、後ろに身を引いて避ける。耐えず繰り出された腕を片手で受け流すと、膝を深く折って目の前でがら空きになった相手の腹を目掛けて肘を突き出す。近かった距離が急に空いて肘が空を切ると、再び目の前に相手の膝が迫る。地面に片手を突いて横に転がってそれを避けると、膝を突いたまま睨み上げた。距離が、詰まる。立ち上がりざま、突っ込んで来た相手の腕を両手で挟み、受け流す力を利用して横倒しに投げた。投げられた相手は鮮やかに宙で身を翻して、綺麗に着地する。そこを狙って足払いを掛けると、更に向こうは身を引いて距離を保った。
 大したものだな、と唐突にイザークは呟いて苦笑を浮かべた。そこで、緊張していた時間は終りを告げる。
「…齧っただけでも、結構出来るんだね。」
 ふう、と詰めていた息を吐き出して、キラは汗ばんで張り付いた髪を掻き上げた。
「齧っただけで、出来るか。お前がおかしいんだろ。」
 突然別の声がして、椅子に懸かっていた筈のタオルが目の前に放り投げられた。視界が塞がれていて、声の主が見えない。それでも、聞き違える筈がない。
「…嘘…」
 呟く声に、驚いたな、と言うイザークの声が重なる。タオルで塞がった視界の向こうで苦笑を浮かべていたのは、久しく会う事のなかった親友の姿だった。
 戦争が終結を見て、間を置かずにアスランはプラントを離れた。それこそ、キラが姿を消すよりも前に。戦争中、最高責任者と言う立場に身を置いていたのはアスランの父親だった。その父親は、戦争終盤の第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦と呼ばれる戦いで亡くなり、終りを見る事はなく。その時、彼自身は戦争を止めようとする側に回っていた。確かにその任は果たしたのだろうけれど、アスランがパトリック・ザラの実子である事に変わりはない。顔も名前も知れ渡っている以上、いつまでもぐずぐずしているのは危険だった。公式にはオーブに亡命後、消息不明となっている。実際には、名前を偽ってオーブ連合首長国代表、カガリの傍にいた。
「よくこっちに来れたものだ。」
 皮肉混じりにイザークが投げた言葉に、アスランは苦笑を返した。それでも通じるものがあるのか、二人とも瞳を和ませる。
「…アスラン…」
 呆然とするしかないキラに親友はゆっくりと近付き、額を突付いた。
「キラ。いつまで呆けてるんだお前。そんなに不思議か?俺は幽霊じゃないぞ。」
 そう言って笑うアスランは、キラの覚えている親友のものと寸分違わずに。黙っていなくなったのはキラの方だ。それでも、なにも言わずに笑みを浮かべて。
「ご…めんなさい…っ」
 気が付いたら、謝っていた。

 カガリに全部聞いたよ、と言って微笑むその顔は、とても優しくなったように感じる。幼い時のように。
「これ…預かってきたんだ。それから、いつでも準備はしてあるし、絶対に守り切るって。」
 差し出されたのは、薄い金属の欠片。細長く、親指程しかないそれは、両側に幾つもの凹凸が刻まれている。見覚えのある金属の欠片をキラの手のひらに落としたアスランは、それごとそうっと握り閉める。
「…そっか…有り難う。」
 少し、声が震えた。
 出来るなら、二度とあれを動かす事のないように。そう願って、たった一つしかない起動キーを抜いた。あれを託した彼女は、国を復興させる時にひっそりと作られた格納庫で何を想ったのだろう。
「なくなった事にすればイイさ。これからの世界には、必要ない。そんな世界を、私達は作ろうとしてるんだろ?」
 その笑顔は、とても強かった。脳裏に浮かぶ彼女の眼差し。そっと感謝を呟いて。
「…なんだそれは。」
 口を挟んだイザークには、フリーダムがオーブにある事を告げてある。けれど、それが動く事がない、と言う事情までは説明していなかった。
「これは、核エンジンの起動キーですよ。」
 不思議そうにそれを見ていたイザークにさらりとそう言ったら、滅多に表情を崩さない彼が目を丸くした。それが可笑しくて、親友と顔を見合わせて同時に小さく笑う。
 フリーダムの事は、国家レベルの重要機密だ。一介のゲリラ組織が手を出せるような場所ではない。だから、その情報が洩れたとしても、彼女が絶対に、と言った言葉通り守り通すのだろう。
 キラが今手のひらに握っているキーは、たった一つしかない。フリーダムを動かすエネルギー、それは確かに半永久的に稼動する核動炉。けれど、それを動かす為の鍵は、ここにひとつしかない。
 未だニュートロンジャマーの影響下にある地球の、権力者達が躍起になってキラを探す理由はそこにある。その機体は、確かに未来を作る情報を持っているのだ。
「そんなもの、持っていてどうするんだ?」
 笑われた事に少し腹を立てたのか、不機嫌そうに眉を寄せてイザークは言った。その言葉に、キラは笑みを浮かべて、アスランは少しだけ視線を逸らして。
「…僕の手許にあった方が、狙い易いでしょう?」
 だから、カガリに頼んで届けてもらった。厳重に保管された、カガリの私室にある金庫からキラの手のひらへと。届けに来た人が、少し意外だったけれど。それとも、親友はこの先の事情を見越していたのだろうか。
「今の所、あの事故を起こした組織とおぼしき目処が付いたところが二つ、ある。」
 静かに、アスランがそう告げた。オーブ国内で密かに探りを入れた結果、ヒットしたからここにこれを持って来た。それはキラがそう頼んでおいたからだ。
「…今までの情報から、確率の高い方に賭けてみる事にしたんだ。」
 今の所、護衛が付いているとは言えただの一般人であるキラは、相手からすれば狙い易い事この上ない。
 腕を組んで何事か考えていたイザークは、囮か、と呟いて。
「そこまで、お前が危険に身を晒す事はないだろう。…第一、ディアッカはどうする?」
 なんの為にオレ達がいる、と最初から反対していた人はとても真剣な瞳をしていて。それでも、それを逸らすことなく受け止めたキラは、静かに微笑んだ。
「…だけど、僕のやるべき事だよ。」
 もう、あんな想いはしたくないから。
 それが恐らく、あの時生き伸びてしまったキラの、最後の仕事。

「…あんな顔で、笑う奴じゃなかった。」
 キラを乗せた車を見送って、ぽつりとアスランは呟いた。
「変わらないものなど、ないだろう。」
 そう言ったイザークも、違和感を持っていた。
 戦争がそうさせたのかな、と呟く友人は確かにその中で変わって行った。イザークですら、あの戦争で大きく変わったのだ。
 変わらないものなど、何もない。
 確かにそうなのだけれど。
「…キラが変わったのは…あいつのせいなのかな。」
 小さな呟きはしっかりとイザークの耳にも届いていた。けれど、あまりにもその横顔が寂しそうだったから、何も言わずにカーテンを閉めた。