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綾沙かへる
綾沙かへる
novelistID. 27304
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Flash Memory ~あの日見た朝焼け~

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「…多分、また、泣かせるからさ。」
 あんな事しといて、言える訳ねぇじゃん、と続けて苦笑を零すと、漸く眉間に寄せた皺をとった友人は、そこを解すように指先で揉みながら、何をしでかしたか知らんがと言って溜息を吐いた。
「…それで?猶予は三日、だったか?それまでなにをするつもりだお前は。」
 ただ逃げてきた訳じゃないだろう、と言いたげな視線に、唇の端を少し上げた。
「そ。折角だから、落とし前くらい自分で着けるかと思ってさ。」
 このまま時間が流れたら、失ってしまいそうな気がした。
 とても大切なものを。


 かたかたかた。
 灰色の壁に囲まれたそこに、ただその音だけが響く。
 モニタに向かう青年は背中を丸めて、近過ぎる程画面に顔を近づけて一心不乱に何かを打ち込んでいる。時折だらしのない笑みを浮かべては、勝手に吐き出されるディスクを抜いては新しい物を押し込んで。
「…あと、二日…」
 さあ、カウントダウンだ。


「近い内に、動きがあると思う。」
 ほとんど勘だけどね、と言ったら、親友は不思議そうな顔をした。
 あの日、ベランダの下にいた青年。今日、メールボックスに入っていたクライアントからのメール。
「気付かなかったって言うのがマヌケなんだけどさ。」
 思えば、随分と前に相手は自分の事を知っていたのだと言う事になる。小さな情報産業会社からのメールは、確かに自分を、キラ・ヤマトだと知った上で送られて来たもの。
 その会社は巨大な複合企業の傘下にあった。主産業を情報通信に置き、幾つものプログラミング会社を所有する知名度の高い企業。それこそ、子供でも知っているほど。
 この企業の仔細な情報をここ数日辿っていたキラは、彼らが密かに飼っているテロリストの集団を探り当てた。実行犯と当たりを付けたグループは、巨大企業と細い糸で繋がっていた。
 表向きは経済界の一端を荷う企業として名を馳せていても、闇を持たない企業は皆無だ。巨大であればあるほど、後ろめたいことはすぐに切り捨てられる専門の集団に押し付ける傾向が強い。
 その後ろめたいこと専門の集団は、戦後解体しかけたブルーコスモスの残党を巧みに操って取り込み、感情を利用して煽りたてた。周到に張り巡らされた計画は、ついにキラを引っ張り出す事に成功した。計らずも引き摺り出されてしまったキラは苦笑混じりに上手くやったもんだよねぇ、と呟く。
「資金の流れが分かれば一発だよね。あーあ、すっごいマヌケ。」
 ある程度の集団が行動する為には、それ相応の資金が要る。現実問題として、資金がなければ何も出来ず、逆に金で動く人間はいくらでもいる。
「…それを突き止めるのにここまで掛かったんだろう?」
 テーブルの上に山ほど積み上げられたディスクのラベルをひとつずつ眺めながら、アスランは答えた。一体どのくらいあるんだ、と溜息混じり、と言うより既に恨みがましく続けて。
「それも、あるけど。もっとストレートに疑ってみるべきだったかな、と思ってさ。」
 アスランが時折選り分けるディスクをノート型のマシンに押し込んで中身をチェックする、という作業を繰り返しながらキラは向いてないからさ、と言って薄く笑う。
「…元々、回りくどいこと嫌いだしね。アスランの方がそう言う細かい事向いてそう。」
 くすくすと小さく笑いながら呟くと、親友は眉を寄せたままオレンジ色に光るディスクをまたひとつ山から抜き出した。
 メールを確認した直後から始めたのは、この企業から受けた仕事内容のチェックだった。お得意様、とまではいかなくとも、何度か仕事を受けた記憶があったから、今更ながらその内容を改めて確認し始めた。
 何がしたくて、彼らはキラを探しているのか。本当に欲しいのは自分なのか、禁断の力なのか。
 戦争終盤に最悪の形で流出した技術は、ユニウス条約を以って半永久的に利用を禁止された。エネルギー不足に陥った地球の、ごく一部の特例を除けばその技術を手にすることは現在不可能に近い。恐らく、その唯一の例外がフリーダムの存在。所有者はキラ個人の名前になっていて、保管を任されているオーブの国営企業、モルゲンレーテ社の誰も触る事はおろか、存在すら気付かない程巧妙に隠されていた。
 その技術の欠片を、どんなに小さな事でも流してはならない。それが、あの機体を託された時からの約束。
「…あのさ、アスラン。」
 内容をさらっていて、不意に思い出した事があった。
 自分の手で最後に壊したもの。自身の駆る機体と同じ、核融合炉で動く恐ろしいほどの力を持った機体。その、独特の装備を。
「プロヴィデンス、だっけ…か、あの人が乗ってたのって。」
 突然変わった話題に、アスランは首を傾げた。
「…それ…あのシリーズの、最後の機体の事か?」
 返って来た答えに頷いて、キラは続けた。
「そう、あれ。確か量子通信って、ザフトの独占技術、だったよね?」
 そう言いながら、キラはモニタに映し出される文字を追う。
 あの戦争がなければ、恐らく実用化はまだ先の話だった筈の技術。試験的な意味合いが強かったその技術を応用した、無線式の兵器。高度な空間認識力を要するそれは、かつてのフラガの愛機、メビウスゼロの有線式ガンバレルを遥かに凌駕する力を持っていた。
「流出していない、とは言い切れないな。あれも、どこかの企業が技術協力…」
 言いかけて、そうか、とアスランは思い当たったように呟いた。
「…欲張りだよね、人間ってさ。」
 一つでは満足しきれずに、あれもこれもと求めてしまうのは、人間と言う生き物だけが持つ感情だ。発達した脳を持ち、その知力で以って生態系の頂点に立つ生き物の、特徴のひとつ。自分を生み出した、実の父のように。
 結局、全ては自分の為なのだと。
「…これ、イザークさんに。多分、ザフトの中にも内通してる人間が、いると思う。」
 マシンから取り出したディスクを差し出すと、親友は少し険しい顔をして携帯端末を弄り始める。
 繋がりを示す証拠と、その他多くの自分が生きる為の手段にしていたマシン語の詰まったディスク。深く考えずにこなしていた仕事は、戦争に巻き込まれるきっかけを作ったプログラムと同じ。
 進歩がないなあ、と薄く笑って、溜息を吐いた。
 全ての行動は、最後に自分にとっての損得に基いている。何も考えることなくそれを実践していた自分が、吐き気がするほど嫌になった。

 折角やる気なら手伝え、と言って押し付けられた山ほどの情報に端から目を通していく。書類の細かな文字を追い、補足するように時折隣のモニタを追う。脳が働くために必要としているのか、向かいのデスクで同じことをしている友人は引っ切り無しに丸い缶から焼き菓子を摘んでいる。油染みつかねぇのかな、と関係ないことを思いながら、変わらない友人の好みに少しだけ笑みが零れた。
「…なあ、キラってどんなパイロットだったんだ?」
 訊きそびれていた事を思い出したからそう訊ねると、イザークは書類から顔を上げ、微かに目を細めた。秀麗なその顔の、眉間から鼻筋を通って右目の下辺りまでを指先で辿り、不意に笑みを浮かべる。
「ここから、ここまで…あいつには傷を貰ったな。」