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綾沙かへる
綾沙かへる
novelistID. 27304
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Flash Memory ~あの日見た朝焼け~

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 行き先も目的も、判っている。そして恐らく、キラが最後に取る手段も。
「…もう、なくさねぇよ…っ」
 二度と、あんな思いはしたくない。させたくも、ない。
 なによりも誰よりも大切なものを、二度となくさない為に。


 透明な音が響き渡る小さなホール。
 補って余りあるほどの滑らかな歌声に聴き入る聴衆は、ごく少数だった。その一番後ろの席に、キラはいる。
 時間が流れて、彼女の歌はより洗練され、慈愛に満ちていた。自分とは違う時間を過ごし、確実に人間として成長している彼女は、ステージの上と言う条件を除いても眩しく映る。
 ちらりと確認した警備の配置を頭の中で反芻しながら、彼等とは違う種類の訓練された人間を弾き出す。人間一人殺すにしては随分と人数が多い。それは、彼等の目的が自分の命ではなく別のものだと言う証拠。
 首に下がった細いチェーンの先に、不恰好な金属の欠片が揺れている。見つけて下さい、と言わんばかりに晒されたそれを見れば、キラの顔を知らなくても目標の判別が出来る筈だと思った。
「…さて、どうするかな。」
 歪んだ愉しみ、と表現するしかないにしても、今のキラは彼等と大差ないだろう、と思う。警備の隙を付いて、姿を晦ます。その上、テロリストの中に巧く入り込まなければならないのだから、少し難しいかな、と苦笑を零し、響き渡る音が途切れた僅かな時間で席を立つ。
 ステージの、眩しいばかりの明かりが消えた一瞬。予めさり気なく手薄にしておいた警備の穴に当たる出口から、キラはホールを出る。少し配置を眺めていれば当然そこしかチャンスが訪れる事はない、と予測した通りに、柱の影からすぐに彼等は現れた。
「…キラ・ヤマト、だな?」
 確認するまでもない、と思ったけれど、軽く首を傾げるに留める。その反応に素早く詰め寄った男達は手の中に握った銃口を突き付けて、ただ歩け、とだけ言った。
 まるで兵士のように訓練された集団。黒幕に当たる人間が密かに作った私設軍隊のような集団は、終始無表情を通すキラにはお構いなしに建物を出て、黒塗りの車に押し込んだ。余計な口を一切開かずに、車は何処かに向けて走り出す。
 そっと盗み見た腕時計に、キラは微かに笑みを浮かべた。
 時間通り、だ。
 狂うことなく進んだ計画は、今の所キラの勝ちだった。これだけお膳立てをしたのだから、さっさと黒幕まで辿りつくに限る。そうして、なにもかも終らせる。
 文字通り命を賭けた掛け引きは、ここからが勝負だ、と思った。


「いない筈がないだろう!」
 部下に当たり散らしてみても、事実は変わらない。
 可能な限りの警備を敷いたホールから、何時の間にか警護するべき人間の姿は消えていた。守衛室の監視カメラに、妙な時間に走り去る車が映っている、と言う報告だけが残っていて。
「…やられた。」
 見取り図を睨んでいたアスランは、唸るようにそう言った。視線を投げると、険しい表情のまま何箇所かの配置を指してテロリストがキラを連れ出したと思しきルートを示す。
「最初から、キラが仕組んでいたとしか考えられない。あいつ、態と…!」
 最初から、本当に一人でなんとかするつもりだったのか、見事なまでに隙を縫ったキラの計画。元々アスランと共にこの計画を立てたのだから当然と言えば当然だった。
「行き先は?」
 苛立った様子を隠そうともせずに、イザークは促す。恐らく、確認せずとも互いに考えている事は同じだ。
「…多分、本社ビル、だろうな。車の持ち主、割れたか?」
 監視カメラに映った映像は、沢山の手がかりと証拠を残していた。そこまで計算していたのだとすれば、恐ろしく周到だ、と思うと背筋に悪寒が走る。
「じきに、出ると思うが。乗り込むにしても、迂闊に手出し出来る場所じゃないぞ。」
 証拠か、と呟いて額を突き合わせていると、後ろで何事か揉めているような騒ぎが聞こえる。どことなく聞き覚えのあるその声は次第に近くなり、急に割り込んで来た。
「…キラ、は…?」
 乱れた呼吸をそのままに、遠ざけていた筈のディアッカは当然のようにそこにいた。
「…お前、どうし…」
 言い掛けた言葉を遮る様に、声を荒げる。
「…だからっ、キラは何処にいるって訊いてんだよ!」
 掴みかからんばかりの様子に、イザークが落ち着け、と続ける。
「…最悪だが、拉致された、としか分からない。」
 一瞬硬直したディアッカの表情が、怒りのそれに変わって行く。あのくそジジィ、と悪態を吐いて、目の前にいたアスランに向かって伸ばし掛けた手のひらをテーブルに叩きつける。
「…やっと、会えたっつーのに…」
 あのバカ、と呟いて、ズルズルと床に座り込む。その様子に、アスランとイザークは顔を見合わせた。
「…もしかしてディアッカ、記憶が?」
 空白だったキラの記憶。飛ばしていた時間の全てを取り戻したのだろうか。恐る恐る、と言った様子で問い掛けたアスランに、ディアッカは苦い笑みを浮かべた。
「…ああ、つーか、悪ィ、二人とも。」
 それと、お姫さんにもと後ろに向かって続けると、いつの間に現れたのかラクスが後ろに立っていた。
「…それは、よろしかったですわね、と言うべきでしょうか?」
 ふわりと笑みを浮かべたラクスは、言い知れぬ憤りを纏っているように見える。言葉に詰まった二人を他所に、ディアッカは、ただ一人ラクスに向かってサンキュ、とだけ言った。
「全部、思い出した。だからもう、失うのはごめんだ。」
 ゆっくりと立ち上がったディアッカに、ラクスは軽く頷く。
「…当然、ですわね。それから、証拠になるか分かりませんが、理由にはなるかも知れない方をお連れ致しました。」
 ラクスの言葉に、彼女の後ろに呆然と立ち尽くす青年に一斉に視線が集まる。突然の出来事に困惑を隠せないと言った表情の青年は、件の巨大企業の代表を務める人間。
「お…叔父が、何をしているのかは、知りません…」
 怯えたようにそう始めた青年は、ゆっくりと居並ぶ人々に視線を移し、最後に俯いた。そうして、心当たりがある、と小さく言った。
「叔父が、個人で所有する邸宅が近くにあります。私は入った事もありませんが、そこに妖しげな人間が出入りしていると、部下に聞いた事があります。」


 こんな筈ではなかった、と老人は己の計画を愚かにも反芻する。
 部下から上がってきた報告では、計画通りにキラ・ヤマトを捕獲した、と言う事だけ。守備良くザフトの監視を掻い潜り、姿を見せなかった人間をようやく手の内に納める事が出来たのだと、信じて疑わなかった。
 囚われた筈の青年が、鮮やかとしか言いようのない動作で自分の部下を物言わぬ塊に変え、このドアの向こうから姿を現すまでは。
「…どういう、つもりだ…?」
 本能は危険を訴えている。それでも、優秀な経営者としてのプライドが、この場から逃げ出す事を承知しない。ここまで投資した金額は、最低限回収しなければ意味がない、と思った。
 本能の危険と、金儲けを秤にかける事自体が間違いだったのに。
 ゆっくりと、青年は笑みを浮かべた。
「…二度と、こういう事が起こらないように、と思って。」
 静かに笑みを浮かべたままの青年は、その口調と表情を裏切って氷のように冷たい印象を老人に持たせる。