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綾沙かへる
綾沙かへる
novelistID. 27304
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ずっと好き?きっと好き、もっと好き!

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 「まーまー、忙しい事くらい判ってるって。ついでだよ、用があったから寄ってみただけ。」
 変わらずに軽い口調でそう言ったディアッカが、何処か気落ちしているように見えるのは気の所為ではなく。
 「…もしかして、またか…」
 その理由がすぐに思い当たるくらい頻繁だと言う事で。どうしてしょっちゅうケンカしてまで続いているのか、イザークは常々疑問に思っているくらいだ。
 はっきり言えば、イザークはキラが苦手だった。
 過去、と言ってしまうには記憶が新しすぎる。顔に残った傷も、結局そのままで。それは自分に対しての、過ちに対してのけじめとしての意味もあるけれど、恐らくあの掴みどころのない性格そのものがイザークの理解の範疇を越えているから苦手なのだと思う。
 だから、ディアッカがキラと衝突する度に愚痴につき合わされているこっちの身にもなってくれ、と言いたくとも言えない。
 「…どうせ、向こうに来ているんだろう、あいつ。」
 こんな所で油を売っていないで、さっさと迎えに行けば済む問題だ、と言って書類にサインを走らせる。
 アスランと同様、母親が引退してしまった所為でこっちは目が回りそうなほど忙しく、いくら友人と言えどもそんなに律儀につき会っていられる時間はない。
 そう言う意味で、いずれは父の後を継ぐだろう友人が、自分で選んだ道を歩いている事を羨ましく思ったりする事もある。
 「…冷たいな、お前。」
 デスクを離れようともしないイザークに向かって、恨みがましそうにディアッカは呟く。
 「いる事ぐらい判ってるよ。けどさ…折角久し振りに会ったってーのに、あいつ、アスランの話しかしないんだよ。」
 それなのに、その話題に上った当時者の所にのこのこ顔を出せるか、と言って眉を寄せた。
 「まがりなりにも、一応離れてる恋人が会いに来た時くらい、優先してくれてもいいじゃんか。」
 子供かお前は、とその言葉にイザークは長い溜息をついた。
 「…幼馴染だろう、あいつらは。」
 そもそも、傍に居たいのなら軍に残れば良かったのだ。キラの選んだ道は、どちらかと言えば軍に近い。だからこうしてアスランとも頻繁に会おうと思えば会えるし、生活している場所も近い。ラクスが代表に就任したことによって、ディアッカの脱走兵と言う不名誉な扱いすら白紙に戻ったと言うのに、結局は退役して別の道を選んだ。それは納得して選んだ道の筈なのに、こうして未練がましく愚痴を言う。
 「それに、あいつには婚約者がいるんだから今更嫉妬しなくても良いだろうに。」
 むしろ本当に嫉妬深いのはキラのほうだと言う認識がイザークにはある。比較的女性受けの良い顔と性格をしているためか、ディアッカには女性の友人も多い。こと、ザフト軍内部でも人気があるし、本人もそれを知っているはずだ。
 それなのに、自分の事は棚に上げて、相手にばかりそれを求めるのは無茶だろう。
 「んなこと判ってるよ。でも仕方ないだろ、気に入らないもんは気に入らないの。」
 ぶっきらぼうにそう言って、乱暴にカップをテーブルに置いた。無意識なのだろう、壁を睨んだまま左の頬を擦る。
 「…だったらそう言えば良いじゃないか、本人に。」
 大体、平手を貰うほど何を言ったと言うのか。キラは普段温厚な分、キレると豹変する。手が出た、と言うことは、よほどの失言を友人はしたのだろう。
 「…オレに関係なければ別にいいんだがな。」
 そう言いながらも充分邪魔をされているので、イザークの機嫌も傾いている。
 「…お前、本当に最近冷たいぞ…」
 その呟きに、溜息混じりにディアッカは言った。
 「まあ、悪いとは思ってるさ、一応。でもこんな情けない事、他のヤツには言えないだろ。」
 ありがとな、と言ってどこか諦めたように笑う。
 「…決心がついたら早く行ったらどうだ。」
 結局、ディアッカがキラとケンカする度にこうして自分の所に来るのは、気持ちの整理をつけて謝る勇気を奮い立たせるためなのだと言う事を、イザークは良く知っている。今の所、それを促してやるのが自分の役目で、キラの方はアスランが上手く宥めてくれるだろう。
 「…そう言えば、お前の方はどうなんだよ?えーと、シホちゃんだっけ?」
 殊勝な言葉を吐いたと思ったらすぐこれだ。イザークは自分の額に青スジが浮かぶのを自覚する。
 「…人の事は構うな。それに、あいつはただの部下だ。お前が期待するような事はなにもない!」
 こうしてムキになるイザークの事を面白がっているがために、ディアッカはちょっかいをだすのだと言うことは、良く解っている。それを解っていながらいちいち反応してしまう辺り、成長がない。
 荒げた呼吸を整えて、不意に思い出した事。他の誰かが見たならば、恐らく背筋に悪寒が走る程の悪辣な笑みを浮かべて、イザークはそう言えば、と言葉を紡ぐ。
 「…明後日、だったか…こちらに来るぞ、あいつの婚約者殿が。こんな状態では、キラを連れて帰ると言い出さないとも限らないな…ま、お前が腑抜けているのだから仕方ないが?」
 その言葉に、ディアッカは面白いほどあからさまに固まった。
 イザークがキラを苦手としているように、ディアッカはカガリが苦手だ。最愛の弟の恋人を、よく思う筈がないと言うのは肉親として当然の感情で、彼女の性格からしてそれは一層激しく、キツイ。
 「…それって…マジ?」
 額に一瞬で油汗を浮かべて、呆然とディアッカは呟いた。
 「…こういう時に、オレが嘘を吐くと思うか?」
 口の達者な友人を黙らせた挙句に、思った以上のダメージを与えた事を確認して、イザークは楽しそうに言った。
 「ま、今日明日で決着がつかなければ、キラは地球に強制送還だろうな。あいつの能力を考えれば、引く手数多だろうし。お前に頼らずとも、充分生活出来るだろう。」
 元々、キラはオーブの国籍を持っている。さらに、次期オーブ代表であるカガリの弟だ。彼女が戦後、キラを地球に連れて行こうと熱心に動いていた事も、イザークはおろかディアッカだって良く知っている。
 「…さて、ディアッカ・エルスマン。お前は今、どうすべきだ?」
 そう言って笑みを浮かべるイザークを一瞥した後、転がるように部屋を出て行く友人の背中を見送って、溜息を吐いた。
 「…悪かったな。戻ってもいいぞ。」
 本人曰く、『情けない』というその姿を自分以外の人間がいたら出さないだろうと思って、予め退室させていた副官を呼び戻す。手許に残った書類を束ねて、イザークはまた長い溜息を吐いた。
 「…世話の焼ける…」
 呟きは、明るく晴れた窓の外に向けて。


 「お前はオレがいない間、アスランとよろしくやってるんだな、だって。酷いよ、ディアッカはッ…僕とアスランの関係なんか、よく知ってる筈なのにさ!」
 音を立ててティーカップをソーサーに叩きつけるキラを見て、アスランはこれは相当、と内心冷や汗をかく。
 「…いや、あいつもそんな意味で言ったわけじゃ…」
 計らずもディアッカを援護するように口を挟むと、キラはアスランを睨んだ。
 「違う。だってその後、あいつの方が良かったらそう言えよ、とか言うんだよ?子供じゃないんだから、それに含まれてる意味くらい僕にだって解る!」