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綾沙かへる
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novelistID. 27304
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ずっと好き?きっと好き、もっと好き!

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 勢いに押されて、アスランは頷く。
 確かに子供じゃないから、そう言う意味が含まれていれば感じとってしまうだろう。更に、自分とキラはそう言う仲だと告げられたも同然で。一瞬、カガリに知れたら殺される、と言う考えがアスランの脳裏を横切って行く。
 「…それで、なにも言い返さずに飛び出して来たのか?」
 反論しなければ、例え何もないと解っていても否定された事にはならない。そもそも、男同士だと言うことが完全に抜け落ちている気がする。それを否定するわけではないけれど、キラだってディアッカを選ぶまでに随分悩んで、苦しんだし、沢山泣いていた。
 それで漸く通じた想いなのだから、キラが裏切る筈もなく。
 「…ううん…」
 首を横に振って、キラは俯いた。
 「…否定…とかする前に、頭真っ白になっちゃって…殴っちゃったよ…」
 相変わらず、ギャップの激しい行動に出る幼馴染に、アスランは盛大に溜息をつく。
 「…キラ…実力行使は良くないよ?」
 アスランの反応も少しずれていたが、キラは気付かない。俯いたまま、解ってる、と小さく言った。
 普段は手を繋ぐ事すら滅多に出来ない癖に、こういう時だけは思い切り良く手が出てしまう辺り、微笑ましいと思うべきかどうか、アスランは少し悩んでしまう。ともかく、殴った方も殴られたディアッカも引っ込みがつかないだろう。
 「…でも、本当に哀しかったし、悔しかったんだ。」
 まだ信用されてないのかな、と言ったキラの瞳は、再び涙で潤んでいる。
 「ディアッカだって僕なんかよりお似合いの人がいるかも知れないし…今だって、他の人の所に行ってるのかも知れないし…」
 ぼろぼろと涙を零しながら、どんどんネガティブな言葉を続けるキラにアスランは苦笑しながら大丈夫、と言った。
 「あいつは、見た目ほど軽くないから。…本当は、誠実なヤツだよ。」
 言いながら、嫉妬深さは二人ともいい勝負だと思うと笑える。
 だいたい、退役して医学の道を目指すと決めた時に、まだ医療施設にいたキラの事を頼むとディアッカに言われたのはアスランだ。それをキラは知らない。そうして、そう言った癖にこのくらいの事でキラの事を泣かせて、殴られるくらい当然だ、とも思っている。
 「…そう、かな…」
 何処までも不安が付き纏っている幼馴染は、年齢よりも幼く見えた。
 「そうだよ。それに、キラの方が良く解っているんじゃないのか?」
 諭すように言ったアスランに、キラは応えなかった。
 仕方ないな、と苦笑してアスランは少し意地の悪い作戦に出る。
 「…キラ、そんなに意地を張っている時間はないんだよ。…明後日、カガリが来る。」
 その言葉に、弾かれたように顔を上げた。
 「…嘘、なにしに来るの…?」
 当然と言えば当然だったが、目の前にいるのが彼女の婚約者だと言う事を忘れてはいないだろうか。軽く溜息を吐いて、アスランは冷めた紅茶を啜った。
 「何しにって…俺に会いに。」
 さらりと言うと、そこで漸くその事実を思い出したのか、ああそうだよねと呟いてキラはひとりで納得する。
 「…う、でも、カガリが来るって事は…」
 途端に少しだけ嫌そうな顔をした。彼女はプラントに来る度に、キラを連れて帰ろうとする。それを良く知っているだけに、いかに実の姉とはいえ、苦手意識が芽生え始めるのも無理はない。
 「そう。つまり、ケンカなんかしていたら今度こそ強制的に連れてかれるぞ。」
 そう言った所で、デスクの上の端末が鳴った。

 アスランの執務室があるのは、隣りの建物だった。
 キラがそこにいる事は、受付けの女性に聞いて知っている。今なら、まだそこで捕まえる事が出来る。合成された音声が、廊下を走るなと怒鳴っていたけれど、構わずにディアッカはスピーカーの下を走り抜ける。
 謝ろう、と思った。
 いつでも、結局折れるのは自分。
 キラの想いは本物で、いつだって真っ直ぐで。それを疑うような事をしたのは自分なのだから、謝るのも自分。
 驚いたように道を開ける緑色の制服の中を走って、エレベーターが来るのももどかしくて、階段を駆け上がる。
 地球に戻ってしまったら、今までのようにただ離れていると言う事とは違ってしまう。カガリについて行く、と言うことは、オーブの重要人物になってしまう、と言う事。加えて、彼女が余り自分の事を歓迎していない事は、良く知っている。
 コーディネイターだから、ではなく、弟の恋人だから。
 息を切らせて階段を上り切ると、目的のドアを乱暴に叩いてから返事も聞かずに開ける。
 「…キラは?」
 ぐるりと室内を見まわして呟くと、部屋の主は楽しそうに笑って帰ったよ、と言った。
 「こんな顔、見せられないって。」
 その返事に、ディアッカは眩暈に似た疲労感を覚えてその場に座り込んだ。良く気がつくアスランの副官が運んで来たグラスの水を一息に飲み干して、唸るような溜息をつく。
 「…マジかよ…」
 階段を使わずに、エレベーターを待っていれば良かった、と後悔する。そうして、なぜ自分がここに来る事が解ったのだろうと疑問を覚えた。その答えは、友人の一言ですぐに分かる。
 「イザークが、ご丁寧にも通信して寄越したよ。」
 こういう時だけ親切な友人に悪態をつく。絶対、嫌がらせだろと呟いて、額に浮かんだ汗を拭った。
 「…てか、なんで逃げたんだよあいつ…」
 人が折角決心して来たと言うのに。
 「…ま、ああ言うヤツだから。それよりディアッカ、片付けるなら早い方がいいぞ。明日の夜には、カガリがこっちに着く。さっきメールが来てた。」
 その言葉に、重かった気分は更に落ち込んだ。
 自分がキラに甘えているのだ、と気付いたのは最近の事。自覚するまで、キラの想いに甘えて、不安にさせるような事をしたり、頻繁に連絡を取らなかったりしていた。
 何処かで、過信していたのだ。キラが裏切るような事はないと。
 次の誕生日を迎えれば、キラだって二十歳になる。いい加減に現実問題として、責任を持たなければならない歳になってしまう。
 キラの想いに応えた以上、自分にも責任が生じているのだから。
 「…いつまでそうしているんだ?」
 思考に沈んでいたディアッカに、見かねたようにアスランが声をかける。ドアを塞いだ形で座り込んでいるから、確かに邪魔だろうと思って取り敢えず立ちあがった。
 「…悪い。」
 そう言って、親友に向き直ると、少し低い所にある翡翠の瞳が苦い笑みを浮かべている事に気付いた。
 「…なんだよ?」
 自分がそういう表情をよくしている所為か、他人にそういう顔をされると気になる。訝しげにそう尋ねると、友人は本気なんだな、と呟いた。
 「…そんな必死な顔、あの時以来だよ。」
 何処か懐かしそうに目を細めて、アスランは続ける。
 「ディアッカ、配属希望、軍病院に申請してるだろ。」
 名目上、別の人物の名前があるが、アスランは実質ザフトのトップにいる。だから、そのくらいの事は簡単に調べがつく。
 確かに、研修が終ったらどこかの医療施設に配属になる。抵抗があるけれど、父親に無理を言えば多少の融通が利く。戦争中に軍にいた経歴も手伝って、順調にその希望は叶えられそうだった。