ろぐぐぐ!! そのさん
人間臨也と天使帝人の出会い。途中で力尽きた。
“落としもの”を拾った。
仕事と人間観察を兼ねて池袋に来ていた臨也は、落としものを拾った。
拾った場所は、街から切り離されたように静寂に包まれた薄暗い路地裏。
湿り気を帯び、街の喧騒が遠くに聞こえるそこで、臨也は“それ”を見つけた。
瞬きも忘れ、臨也は食い入るようにそれを見つめる。だが、それは“もの”と称するには幾分か抵抗のある姿形をしていた。
落としものは、限りなく臨也の愛する人間そのものだったのだ。
十四、五歳に思える体躯に対し幼さの残る顔立ち、元は艶々としていたであろう黒髪は乱れてしまったいる。
肉付きの薄い身体の彼方此方には切り傷や痣が散らばっており、最早布切れになっている服を辛うじて纏っていた。
瞼の向こうに隠された色は分からない。しかしそれらだけを見れば間違いなくこの子供は人間だった。
では、何故敢えて“もの”と称したのか。それは、それが明らかに人間ではなかったからだ。
細さ故に骨が目立つ背中、相変わらず怪我だらけのそこに、さも当然とばかりにある。本来は純白と呼ぶに相応しかっただろうが、それはもう薄汚れてしまっていた。
普通の人間には無いはずの、正しく御伽噺に出てくる天使の象徴である羽が、子供の背にはあったのだ。
「……まさか、ねぇ」
自分は寝ぼけているのかと問い質したくなる。しかし瞬きを繰り返そうと、何時までたっても目の前の現実は消えはしない。
まあデュラハンがいる世界であるから、天使なんかがいてもおかしくはないのかもしれない。そう一人納得してしゃがみ込めば、より鮮明に子供の顔が窺えた。
どう見ても人間にしか思えない子供。しかし傷だらけの、天使の羽をもつ子供。
このままここにいたら、悪い人間にでも見つかって此処よりもっと酷い場所へ連れて行かれるだろう。羽をもつ子供、見せ物にはうってつけの上、金持ちに高い値で売ることもできる。
それを遠くから観察するのも面白いだろう、が。どうしてか臨也は、子供が連れて行かれるところを、手酷く扱われる様をを想像して苛立ちを覚えた。
理由も分からない。初めて抱く感情に戸惑いながらも臨也は乱暴にコートを脱ぎ捨てると、それで子供を優しく包み込んだ。
そのままの流れで抱きかかえればその軽さに驚き、そして苦笑を溢す。
(……何、やっているんだか)
自分でも自分の行動の理由が説明できなかった。ただこのまま見捨てることができなかった、自分以外の誰かがこの子に触れることが許せなかった。
この先の予定も決まらないまま、臨也は携帯電話を取り出すと、人間よりも人間らしい化け物に向けてコールを鳴らした。
作品名:ろぐぐぐ!! そのさん 作家名:朱紅(氷刹)