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綾沙かへる
綾沙かへる
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君の隣で、夜が明ける。07

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 被弾した戦艦が三隻と、搭載されていたモビルスーツの多くがやはり被弾していたため、プラント宇宙港のドッグはそこかしこで技術者達が休む事なく修理に勤しんでいる。そんな喧騒の中を、真紅の制服を纏った少年がゆっくりと自分の機体に向かって進んで行く。
 微弱な重力の中で、ふわりと軽く感じられる身体。床を蹴って、隣接されたキャットウォークの手摺りを軽々と乗り越えると、開いたままのコックピットの前に降り立つ。
 無言で、睨むように機体を見上げたまま、少年は動かない。ここ数日で良く見られる光景になっている所為か、整備士達もなにも言わずに作業を続ける。
 「…また来てるのか?」
 呆れたように声を掛ける整備士は、友人のお陰ですっかり顔馴染みになった元地球連合軍の技術者だ。
 「…放っておいてくれ。」
 簡潔にそう言って、少年はまた機体を見上げ続けた。その姿に苦笑を洩らして、整備士は作業に戻って行く。
 「…イザーク。」
 別のところから、見兼ねたように声が降って来た。軽い溜息と共に視線を投げると、作業服を半分脱いで腰の辺りで纏めた友人の姿があった。
 「…なにか用か?」
 そう問い掛けると、ディアッカは苦笑混じりに隣に立って、修復の終った機体を見上げる。
 「…なんで、直したんだろうな。」
 バスターも、フリーダムも。辛うじて、とはいえ、形がある状態で回収されたモビルスーツ、その量産型ではなく固有の機体はすべてここで修復されている真っ最中だ。
 建前では休戦、と言う事にはなっているけれど、実際にどちらも疲弊し切っていて、とても再び開戦にもつれ込むとは思えなかった。それでも、目の前に聳える機体は即時運用可能なほどに仕上げられている。
 「…もう、戦争になる事なんかないってのにさ。」
 プラントも、地球連合も、主だった幹部連中が殆ど戦死、と言う状態で世界は混乱を始めた。プラント評議委員会は、近い内にラクスを代表に立てるだろう。プラントの側はそれでいいとして、地球連合の方はどうだろう、と思う。少なくとも、アークエンジェルは脱走艦と言う認識があるし、オーブから脱出して来たクサナギとそのクルー達も共に立場は微妙だった。クライン派と呼ばれるザフト内部の動きによって、また休戦を持ちかけたプラント評議委員会の穏健派と呼ばれる議員達の好意によって、ここに寄港しているだけなのだから。
 「…言ってる事とやってる事が矛盾してるんじゃないのか?」
 眉を顰めて、イザークは呟く。確かに、ディアッカは自分が乗っていた機体の修復に携わっていて、着ている作業服も所々油染みが出来ている。
 「そこなんだよな…結構、気に入ってんのかも。」
 軽い口調でそう答えて。
 「だからかな…それに、おっさんとキラに拾ってもらったようなもんだぜ、オレの命もさ。」
 ザフト側から見れば、ディアッカは立派に裏切り者だ。脱走兵として、然るべき処分があるのかも知れない。
 確かに、戦争は一応の終結を見た。けれど、混乱した世界は自分達が考えるほど単純な事ではなかった。
 「…もう、赤は着ないのか?」
 静かに紡がれた言葉に、ディアッカは少しだけ驚いてイザークをまじまじと見つめてしまった。
 「…そう、だな…もう、着ないと思うぜ。」
 微笑と共に返す言葉は、本心だった。
 「こいつに乗る事以外で、出来る事を探してみたいんだよ。」
 ザフト兵として、モビルスーツに乗る事を選択する前の状態に戻れたのなら。
 「…そうか。」
 そう言ったきり、また機体を見上げた友人も、確かに迷っている。
 あいつにさ、とディアッカは呟いて笑う。
 「お前も、会ってみろよ。多分、変わるぜ?」
 ディアッカの言うあいつ、と言うのが誰の事を指しているのか、イザークは理解してまた眉を顰める。戦闘終了から現在も昏睡状態のままの、フリーダムのパイロットの事だ。無意識に、自分の顔に残る傷跡をなぞる。
 「…さあな。どのみち、いつまでもこうしてはいられないからな。」
 気が向いたら、と返事をしたイザークの肩を軽く叩いて、ディアッカは作業に戻って行く。
 多分、今はそれでいい。
 焦る必要などないのだから。


 日が暮れる。
 ベッドに腰掛けて、窓の外を眺めながらキラはぼんやりとそう思う。光を受けて白かった部屋は、オレンジ色に染まっていて、何処か懐かしい程の安堵感を覚える。
 繋がっていた点滴の類は、すべて看護士が外していった。優しそうな笑みを浮かべる医師が来て、意識がはっきりしている事を確認して、診察の後特に問題はない、とも言っていた。だから、次に日が昇ったらこの部屋を出て、自分の成すべき残された事をしなければならない。
 外に立つ兵士は護衛のためだと、目が覚めてから訪れた友人に聞いた。一応戦争は終ったとはいえ、すべての人がそれに賛同しているわけではない。例えプラントを核から守ったのがキラだとしても、ジェネシスを破壊し、その力を奪ったのもキラなのだ。こと、ザフト兵からいい感情を持たれている筈がない。
 ベッドに座ったまま、背中から転がる。そうして、ゆっくりと薄闇に手を伸ばす。
 掴めなかったものの数。
 護れなかった命の数。
 伸ばした手のひらが、それに届く事はない。
 戦争が終ってから初めて、キラは静かに涙を零す。
 「…ごめんなさい…」

 翌朝、迎えに来たのは親友だった。疲れたような顔をしていたけれど、何処か緊張のほぐれた笑みを浮かべて。いつまでも病人着じゃな、と言って渡された衣類に袖を通す。
 アスランは、ザフトの真紅の制服を着ていた。どうして、と問い掛けると親友は苦笑して、けじめだから、と応える。
 「…まあ、もうしばらくは色々片付けるべき問題もあるし。これ着てた方がやり易いって言うのもあるな。」
 そうして初めて、キラに向かってアスランは尋ねる。
 「…キラ、これからどうしたい…?」
 戦争は終ったんだ、と言って親友は笑みを浮かべる。それは、酷く柔らかな。
 「…僕?」
 聴かれて、しばらく考え込んだ。軽く首を傾げて、目を閉じて。
 「…そう、だね、取り敢えず、もう一度フリーダムに会いに行かなくちゃ。」
 アスランにやるべき事が残されているように、キラにも成すべき事はある。
 キラにしか、出来ないこと。
 初めて憎んだ、哀しいあの人のためにも。
 あの場に残されたものを、永遠に、この世界からなくさなければ。
 二度と、同じ過ちを繰り返さないように。
 「回収、して貰ったんだってね。今何処にあるのかな…」
 ゆっくりと目を開けて、キラは笑みを浮かべる。けれどそれは、アスランとは違って貼り付けたように冷たい微笑。
 「…今から行くのか?」
 怪訝そうに応えるアスランに頷く。親友は勘がいい。恐らく、一番信用している筈の親友であっても、これからキラが取りに行くものの存在を気付かれるような事があってはいけない。同時に、それはアスランが信じている「キラ・ヤマト」という一人の人間に対しての認識を、根底から覆す事に繋がるかも知れない事実。自分だけではなく、アスランが想いを寄せる、キラにとってただ一人の肉親に対しても影響が及ぶかも知れない。
 それだけは避けなければ。