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綾沙かへる
綾沙かへる
novelistID. 27304
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君の隣で、夜が明ける。10

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 たとえ形はどうであれ、正規軍から脱走したアークエンジェルとエターナルのクルー、それにパイロット達は法の上ではただの犯罪者だ。母国を追われたクサナギはともかく、キラ達は正式に法定で裁かれなければならない。戦争責任者ではなく、テロリストと変わらずに。
 その覚悟はあったし、戦争を終らせる、と言う目的を達したのだから後悔もしていない。
 けれど、ラクスが語る言葉は意外な事実を告げる。
 「私は、近い内にプラント最高評議会議長に就任致します。…過ぎた身分ですけれど、それが皆様の望みなのだと、そう言われました。」
 変わらずに、柔らかな口調で言葉を紡ぐ。けれど何処か、寂しそうに。
 「暫定的な措置で、期限付きですけれど。それから、アークエンジェルとエターナルはそのクルーと共にそれぞれ復隊致します。どちらも指揮官を欠き、人材不足ですし…やはり英雄、と言うものが必要なんでしょうね。」
 書類の上では、どちらも脱走したわけではなく、戦争終結を望む両軍の有志が共に戦った事になっていて、それにオーブが力を貸したと言うことになっている。全てが元の通りになる事はないけれど、混乱した世界の、いわばドサクサに紛れてうやむやにしてしまおうと言う事らしい。大雑把な言いかたをしているけれど、そこに辿りつくまでに沢山の話し合いをして、彼女達は戦いを続けていたのだと思うと、ここで何もせずにいたキラは少しだけ肩身が狭い。キラが出て行っても邪魔になるだけだとしても。
 「…そう、か…」
 互いに滅ぼし合え、と言う考え方が全て消えたわけではなくとも、それを実行に移すまでの力を持った人間が、今はいない。そうして、そんな考えを良しとしない人が、世界には沢山いる。
 強引に併合された地球の独立国家はその権限を取り戻し、地球連合軍は解体されて、イチからやり直し。プラントはそれら独立国家の中の一つとして、最スタートを切る。プラント盟主国に対しては、今までうやむやにされて来た建設費用や権利の譲渡をきちんと整えた上で、返済して行く。
 そんな細かな事を、たった一ヶ月ほどで纏めてしまったのだから、彼女達の力も物凄い。
 「…じゃあ、僕もまだ軍人なんだ…」
 正直な感想が、知らず零れると、ラクスはいいえ、と言って微笑む。
 「あなたは、オーブ近海の戦闘で行方不明のままです。…その方が、いいだろうとラミアス艦長から申し入れがありました。私は伺っておりませんが、フラガさんから聞いたから、と。」
 キラは言葉を失う。
 確かにあの時、あの場所で真実を聞いたのは自分とフラガだけで。フラガがそれを誰かに言うとは思わなかった。余程彼女の事を信頼していたのだろうか。それとも、最初から戻ってくる事がないと思っていたのだろうか。いつでも気にかけてくれた大人が、いなくなった時にその後を託す為に。
 「…そんな…そんなに、僕は、頼りないんですか…?」
 そう呟きながらも、それが情けなかったわけではなく、その心遣いが暖かくて嬉しかった。最後まで、キラのことを案じてくれた人。その後を託され、なおも気遣ってくれる優しい人。子供だからと、甘えさせてくれる人達。
 「…キラ?」
 俯いたままだったキラに、ラクスが声を掛ける。潤んだ目尻を軽く拭って、大丈夫、と言った。
 「…うん、分かった。マリューさんに、有り難うって伝えて。…多分、僕はもう…合わせる顔もないし、そんな勇気もないから。」
 ごめんなさい、はいつかきちんと伝えに行く。そう言って微笑った。
 「…そうですか。」
 多くを聞かずに、ラクスは心得たように頷く。そうして、他の人達がそれぞれの場所に戻ることを伝え、その中でカガリがキラを地球に連れて帰ると言い出した事を楽しそうに語って笑う。
 「素敵な方ですわね、カガリさんは。素直で、真っ直ぐで。…アスランが惹かれるのも、分かります…」
 目を細めて、ラクスは呟く。掛ける言葉が見つからずにキラがどうしよう、と考えていると彼女は笑った。
 「あら、キラが気に病む事はありませんのよ?婚約は解消していますし、私がアスランを振った事になっているんですもの。それに、カガリさんはお友達ですから。」
 悲しませたら許しませんわ、と楽しそうに言ってから、そうでしょうとキラに向かって言った。
 「…そうだね。」
 厳密に言えば違うのかも知れないが、確かにキラとカガリは遺伝子上は家族なのだから。
 誰だって幸せになってもいいと言ってくれた親友も、大切な人だから。

 暮れ掛けた窓の外を見て、ラクスは席を立つ。
 「長居してしまいましたわね、そろそろお暇致します。」
 その言葉に、キラは思い出したようにデスクの引き出しからチェーンに通された指輪を引っ張り出した。
 かならず帰って来て、と言ってラクスから預かったもの。細かな細工が施されたシンプルな指輪の内側に、知らない恐らく女性の名前が刻まれている。ラクスにとって、多分とても大切なもの。
 「…コレを、返さなくちゃと思ってたんだ。大切なものでしょう?」
 手のひらの上に乗ったそれを、少しだけ見つめたラクスは薄く笑みを浮かべてそっと押し返した。
 「…そう、母の形見です。でもキラ、これはもう少し、あなたに預けます。」
 柔らかな指先でキラの手を包みながら、ラクスは呟く。
 「…戦場で、戦った人の手ですね。モビルスーツに乗る方は、この辺りが硬くなるんですのよ。」
 触れる指先がくすぐったいけれど、そう言葉を紡ぐラクスの瞳は悲しそうに細められていて、逸らすことが出来ない。
 「キラの手は、大切なものを護り通した手。私は…護ってもらった変わりに、これから責任を負う者の手ですわ。」
 細く柔らかなその両手に、これからの世界を背負って行くのだと。
 彼女には、その責任を負うだけの覚悟と器がある。
 「…強いね、ラクスは。」
 それは素直な感想。けれどラクスは緩く首を振った。
 「いいえ、私はただの張ったりですわ。でも、それが必要な時もあります。…本当に、私を理解してくれる人がひとりでもいてくれれば、それでいいんです。」
 だからあなたも、とラクスは続ける。
 「本当に大切な方を見つけるまで、これは預けて置きますわ。でもキラ、あなたにまず必要なのは時間と休養ですわね。」
 そう言った後ろ姿を見送ると、薄闇の訪れた部屋の窓辺で、微かな光を反射して光る細い指輪を見つめる。金属のラインを指先でなぞる。暖かかったラクスの手とは反対の、冷たい感覚。
 紙の上で、キラは自由になった。
 けれど、その先に思い描くべき未来はない。平和に過ごしていた時、確かにあった筈の自分の未来は、それを遥かに上回る罪の意識に押しつぶされて、見えなくなってしまった。
 「…大切な人、か…」
 それは絶望的だな、と思うと、視線の先にある小さな指輪すら重く感じた。
 広い世界の中で、何を見ようとしているのか。
 それが解らなくて、キラは溜息と共にそれを握り締める。

 あなたは、何を見ているんだろう。


 「なんだよ、それ?」