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綾沙かへる
綾沙かへる
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君の隣で、夜が明ける。10

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 思わず聞き返してしまった。さんざん放ったらかしにされて、呼びだされたかと思えば軍に復帰しているからどうしますか、とは。それを伝えた女性は苦笑混じりにそう言うことですから、とだけ言った。
 「今後もザフト軍に所属の場合は、特に手続きは必要ありません。ただし、所属部隊は移動になりますし、戦時下ではないので非常勤扱いになります。休学中の大学に復学する場合は所定の書類を提出して、許可を受けて下さい。」
 自分なりに整理すると、何もなかったことにしましょう、と言うことだった。
 自分が脱走兵扱いだと言うことは自覚している。贔屓目に見ても、捕虜として捕らえられて強制的に戦力として出されたと言う良い訳は成り立ちにくい。それ相応の処分を覚悟していただけに、拍子抜けしたことも事実で。
 「…えーと、つまり、今まで通りってこと?」
 久し振りに袖を通した赤い制服は、気分的に窮屈だった。何処となく落ちつかないまま、基地内の自分に与えられている部屋に足を運ぶ。やはり変わらずに、一応片付いているように見えて、自分がこの部屋を出た時のまま散らかっている。
 換気だけは自動で空調が動いている為になんとかなっていたけれど、ベッドもクローゼットも心持ち湿っている気がする。取り敢えず窓を開けて、クリーニングを頼もうかな、とぼんやり考えていると端末が呼び出しを告げた。
 「…はい?」
 ディアッカがここに来ている事は、殆どの人間は知らない筈だった。誰かの訪問を受ける予定もない。疑問に思いながらも返事をすると、小さなモニタの向こうに映ったのは見慣れた顔だった。
 「…アスラン…」
 現在のところ、ディアッカが世話になっている家主は、少しだけ疲れたような顔をしてちょっといいか、と言った。
 ドアのロックを解除して室内に招き入れると、アスランは困ったような曖昧な笑みを浮かべた。
 「…その調子じゃ、おまえも聞いたんだ?」
 苦笑混じりに投げた問い掛けに、アスランは頷く。
 「…今更、というのが正直な感想だな。ラクスや、他の人達が動いてくれたんだろうけど。」
 迷っているのは誰だって同じだろうと思った。自分やアスランを始め、エターナルに乗艦していた多くの兵士たちだって迷っているのだろうと思う。
 「…おまえ、どうすんの?」
 社交辞令のように零れた言葉に、アスランは溜息をついた。
 「…責任、とるさ。ここまで事態が悪化したのは、俺の父親の責任だから。自分に出来る事で、償って行くつもりだ。」
 それが軍に残る事になっても、父の跡を継いで評議会に入る事になっても、受け入れるしかないと言った。
 評議会は世襲制ではなく、それぞれの市民の投票によって決まる市長のようなものだ。2世が全くいなかったわけではないけれど、それは評議会制が始まってまだ間もないからだろう。いずれそう言う議員が出てくるに違いないし、もしかしたら自分に降ってくる事かも知れない。
 それでも、自分達はまだ子供だから、急に色々な事が出来る筈もなく。
 「…責任、か。」
 何に対してとるのだろう。戦火を拡大させた事か、誰かを殺めてしまった事か。どちらにしろ、前線の兵士たちの多くは与えられた命令に従っただけで、そこまで深く考えていないし、戦争が終ったら終ったで、それ以前の生活に戻るだけだ。アスランのように、はっきりとしたものが見えているわけでもないディアッカには、責任を取ろうにも何が出来るのかが見えてこない。
 「…戻るかな、ガッコ。」
 ぽつりと呟くと、アスランは驚いたように目を見開いた。
 「戻るって…大学に?」
 それに苦笑を返して、ディアッカは続ける。
 「…なんだよ、そんな驚くことか?つっても今までみたいに、ただぼんやり学生やるワケじゃないぜ。…医者になれば、今度は助けられるかなと思っただけでさ。」
 深く考える事もなく、沢山の命を奪って来た自分が、今度は命を救う道を選ぶ。滑稽過ぎておかしかったけれど、自分に出来る、ディアッカなりの責任の取り方と言ったら、そのくらいしか思い浮かぶ事もない。
 「まあ、もう少し時間貰ったことだし、考えてみるかな。…でももう、赤は着ない。それだけは決めた。」
 かつては誇らしかった赤い制服が、今は重たくて溜まらない。それに、これを着ていると、怯えるから。
 「…着なくても、忘れねぇよ。たださ、これ着てると、近くに行かれないんだよ。あいつ、恐がるから。」
 ただ静かにそれを聞いていたアスランは、少しだけ考え込んで、思い切ったように口を開く。
 「…ディアッカ、少し時間…くれないか。復学するまで、キラについててやって欲しい。今のあいつには、傍にいてくれる誰かが必要で、それは多分、おまえしかいないんだ。」
 本当は、それを言いたくてアスランはここに来たのだろうと思った。
 「…どうだろな。」
 キラがどう思っているか、正確なところは分からないけれど。
 「でもま、傍に居たいと思ってはいるよ、オレはね。」
 そんな事を言うのも照れくさかったけれど、素直に伝える。元々、アスランには筒抜けだったのだから、今更だとも思った。
 「…それで、いいんじゃないか。」
 そう言ったアスランは、何処か安心したように微笑んでいた。

 その眼差しが、誰を見ていようとも。


 どのくらい、食べていないんだろうと思った。
 気が付いたら、水分の他はゼリー状の栄養補助食品しか口にしていない。生き物の本能の筈の食べると言う行為を、身体も心も拒否している。
 そうしてその影響は、確実に出始めた。
 他人と顔を合わせる事もなく、庭の他には外に出る事もなく、時折端末を暇つぶしに弄って過ぎて行く時間。そんなささやかな行動ですら、眩暈がしたり、貧血を起こしたりする。いくらコーディネイターとは言え、基本的な栄養が足りなければ支障が出るのは当然だった。
 頭の中では食べなければと思うのに、空腹を感じることが極端に減っていて、時折感じても、固形物は無理に飲み込んでもすべて吐き出されてしまうからどうしようもない。
 洗面台に向かって、溜息を吐く。鏡の中の自分は、青褪めた顔で、ひとまわり痩せたように見える。今はまだいい、と思った。元々食は細い方で、回りの人もそう認識している。
 ラクスと話をしている時に出されたクッキーでさえ、飲み込んだ途端に気分が悪くなった。胃液が逆流しようとして暴れ始めるのを、必死で隠し通して。彼女を見送った途端に洗面所に駆け込んだ。
 大抵のコーディネイターは、自分の身体に過信している。風邪も引くし熱も出すけれど、何処かでそのうち治るだろうと思っている。それは、コーディネイターが命に関わるほどの病気に対して、ある程度の強さを誇っているから。けれど、所詮は生き物で、まして人間は他の動物には滅多に有り得ない心の病気を抱えていたりする。それを病気として捉えない限り、病院に行こうとか、医者に罹ろうとは考えない。
 例に漏れず、キラも現在の状態が病気だとは考えていなかった。
 専門家に限らず、誰かが見たならば、すぐに摂食障害だと分かる程の状態だと言うのに。