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綾沙かへる
綾沙かへる
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君の隣で、夜が明ける。12

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 さわさわと風が木の葉を揺する音が聞こえた。光が翳った事に気付いて顔を上げると、視線の先は真っ暗に雲っていた。雨が近い。少し急ごうと思って建物の影から顔を出すと、探していた人がいた。いたのだけれど。
 「…寝て…る…?」
 近付いても、木の下に座り込んだその人は全く反応しない。俯き加減の顔を下から見上げるように屈んで覗き込む。俯いて、目を閉じたその人は、静かに寝息を立てていた。
 「…ディアッカ。」
 肩を叩いて声を掛けても、起きる気配がない。だからと言って、キラの力では人をひとり移動させる事も出来ない。見上げた空は今にも雫を落としそうだった。
 困ったな、と呟いたキラの視線の先に、ペットボトルに入った水が目に留まる。それを見てキラは少しだけ楽しそうに笑みを浮かべると、手を伸ばしてキャップを捻る。それで片手を濡らしてから、そっと目の前の顔に押しつけた。
 「……うわッ」
 ほんの一瞬後に過剰な反応を返した。過剰過ぎて、驚いたキラは自分の身体を支え切れずにひっくり返ってしまう。それでも、驚いたディアッカが可笑しくてキラは笑った。
 「…おかし…その顔ッ」
 笑い転げるキラを見て漸く状況を理解したのか、ディアッカは脱力したような顔で濡れた頬をさすって溜息を吐いた。
 「…キラ…」
 じっとり、と言う擬音語が付いていそうな目でキラを見て、ディアッカは唸るように言った。それにごめん、と謝ってからキラは立ち上がる。
 「あのね、雨、降りそうだから呼びに来たんだけど。…あんまりよく寝てるから、さ。」
 目じりに浮かんだ涙を拭ったところで、頬にぽつりと水滴が当った。顔を上げて手のひらを伸ばすと、ぱらぱらと水滴が当る感触が伝わってくる。
 「…雨、降って来たね。」
 そのままの感想を呟くと、ディアッカは呆れたように溜息を吐いた。
 「…いや、降って来たね、じゃねーだろ。ほら、また熱出すぞおまえ。」
 伸ばしていた手のひらをひとまわり大きな手が包んで、引き寄せる。その感触に鼓動が大きくなって、キラは俯いた。
 「あー、強くなる前に中入るか…走れる?」
 そう訊いておきながら、ディアッカは訳ないよな、と自分で言って苦笑した。
 頭の上に広がった木の葉に、雫が落ちて立てる音が耳につく。そのくらいに雨は強くなって来ていた。
 「別に、少しくらい平気…って、うわ、なにッ?」
 曇った空から落ちる水滴を眺めてそう答えると、不意に地面の感触がなくなった。条件反射のように近くにあったものにしがみつく。抱き上げられたのだと理解するのに時間がかかってしまった。気付くと、一瞬で顔が赤くなる。静かな庭には誰もいないけれど、キラにとってはひたすら恥ずかしくて、情けなさも手伝って顔を上げる事も出来ない。
 「…ちょっと、走るけど。そんだけしっかり捕まってりゃ大丈夫だよな。」
 シャツを握り締めたキラの手を見て苦笑混じりに呟くと、言葉通りにディアッカは走り出す。
 水の匂いと、土の香りが記憶に残った。


 夕立と言うのだ、と庭師の老人がいつだったか教えてくれた。夕暮れ時に勢いよく雨が降る事を、老人の生まれた土地ではそう言うのだと、何処か懐かしそうに目を細めて語っていた姿を思い出した。イザーク辺りならば喜んで飛び付いて来る話かも知れない。
 降り始めの雨の中を、キラを抱えてテラスに駆け込むと、見計らったように勢いを増した。それを見て、何日か前の、やはりこんな風に雨が降った日に交わした会話を思い出した。
 水の流れる音だけが響く部屋の中で、キラは眠ってしまった。いつもよりも長くパソコンを弄っていたから、疲れたのだろうと思った。起こさないように上掛けを直して、ディアッカは部屋を出る。キラが眠っている時は傍に付いていてもすることがない。書き掛けのレポートでもやるか、と思い直して自分の部屋に向かう。途中でコーヒーでも貰おうと食堂に足を向けると、玄関ホールで普段なら見掛けない人物を見て立ち止まった。
 「…アスラン…?」
 呟くと、それが届いたのか相手は顔を上げて笑みを浮かべる。
 「…珍しいじゃん、こんな時間に。急用?」
 問い掛けにアスランは緩く首を振る。
 「…強制休暇。このところ、休み無しでいたのがバレて、帰された。」
 邪魔して悪いな、と続ける家主に苦笑する。
 「おまえの家だろ。」
 なんで遠慮するんだよ、と言ってふたり分のコーヒーを貰おうと食堂に手招きした。





 この場所を離れる時が近付いてくる。
 それは最初から期限の見えていた事。それぞれが、自分の為に決めた事。
 「…いつ?」
 そう言ったアスランは、少し困ったように笑みを浮かべた。
 「キラの、入院よりは遅いよ。…まあ、あいつが素直に首を縦に振ればの話な。」
 季節が夏になる頃、ディアッカは自宅に戻る。復学の為の手続きは済んでいるけれど、現在は療養中と言う名目でここにいる。短くても、少しでも傍にいたくて無理を言った。
 「…入院、いつだよ?」
 その言葉に、アスランは溜息を吐いた。軽く首を振る。
 「…早い方がいい、とは言われている。キラにも、それとなく話してるし…でもあまり良い顔はしてくれない。」
 当然だけど、と言って苦笑を零した。
 「…でも、ここでの時間稼ぎも、限界だろ。今はまだいい、オレ、付いてるから。」
 問題は、そのあと。
 ディアッカが傍にいる時は見せない、何処か虚ろな瞳や、なにかに怯えるように部屋を散らかす姿を、アスランは時々目撃している。アスランから見れば、ディアッカはキラにとって一種の安定剤のようだった。
 「…オレ、さあ、あいつの、結構強気な顔が好きなんだよ。」
 ぽつりと、ディアッカは言葉を紡ぐ。
 「初めて会った時、なんか吹っ切れた顔してただろ。それがなんなのか知らないけど。でも、今は見せてくれないんだよな。笑ってくれれば嬉しいよ。でも、なんかまだ…無理してるように見えるんだよ。」
 それが、少しだけ辛い、とディアッカは言った。
 「…キラにとってはさ、まだおまえの方が信用出来るんだろうな。」
 そう続けるディアッカに、アスランは黙ってコーヒーを啜った。冷めたコーヒーは、苦味ばかりが舌に残る。
 「…そうでもないさ。」
 ゆっくりとアスランは溜息混じりに呟いた。
 「まあ、伊達に付合いは長くないよ。でも、その分、戦争中に殺し合った事実は、キラの心を裏切ったから。」
 どんなに仕方がないと繕っても、誤魔化しても、それは事実で。アスランにとっても、大きく傷を残した事。
 「キラは、さ。信用してないんじゃなくて、遠慮してるだけだよディアッカに。」
 そうでなければ、あんな顔で微笑ったりしない。それを見掛けた時、少しだけ悔しいと思ったことも事実。それを素直に言葉にすると、向かいに座ったディアッカは笑った。
 「…いや、ホント、おまえらよく似てるのな。仲悪いんじゃなくて、同族嫌悪ってヤツだな。」
 それが誰と誰の事を指しているのかを悟ったアスランは、少し嫌そうに眉を寄せた。
 「なんでそこへいくんだよ。」
 心外だ、と言わんばかりのアスランに、ディアッカは謝罪しながら手のひらをひらひらと振った。