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愛されてますよ、さくまさん

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さあ、私を喚べ(べーさく)



頭上に魔法陣が出現して広がり、魔界にいたベルゼブブは自分が喚ばれていることを知る。
たいてい事前に召喚を知らせるメールが届くのに今回はそれがなかった。
契約者ではなくても召喚することはできるので、喚んでいるのは佐隈ではないのかもしれない。
芥辺の不機嫌そうな顔がベルゼブブの脳裏に浮かんだ。
あるいは。
もしかすると。
喚んでいるのは佐隈だが、メールを送る余裕がなかった……?
獄立大卒の明晰な頭脳を働かせつつ、ベルゼブブは魔法陣へと飛んだ。
魔法陣を通り抜け、人間界に出る。
姿が変わった。
いつものペンギンのような姿である。
ベルゼブブは周囲を見渡す。
あたりは暗い。
夜だから、だけではない。
照明がひとつもついていないのだ。
ほとんど物がなく、さびれた印象の部屋である。
廃ビルの一室だろうか。
取り残されたようにあるボロボロのカーテンが、開いた窓から入ってくる夜風に少し揺れている。
窓の外に見えるのは夜空とビル。
その風景から、この部屋がわりと高い位置にあるのがわかった。
そして。
ベルゼブブは視線の先を転じる。
自分を喚びだした者の顔を、眼でとらえた。
佐隈だ。
魔法陣から少し離れたところで、開いたグリモアを片手に持って、立っている。
その表情は強張っている。
いや、顔だけではない、その全身から緊張が伝わってくる。
ベルゼブブは背中の羽根を動かす。
薄い羽根である。
けれども充分な力を持っている。
ふわっ、と浮きあがり、足が魔法陣から離れた。
佐隈のほうへと飛ぶ。
「……ひさしぶりです、さくまさん」
そばまで行くと、穏やかな声で話しかけた。
ひさしぶり。
佐隈に召喚されるのは、ひさしぶりである。
あの日から、ベルゼブブは召喚されていなかった。
思い出す。
自分が、あの日、佐隈に告げた言葉。
あなたのことが好きなんです。ひとりの男として、女性のあなたが好きなんです。
いくらこの手のことには鈍い佐隈でも、勘違いのしようのない言葉だ。
あのとき。
からかっているんでしょう、と佐隈は言った。
いいえ本気です、とベルゼブブはきっぱりとした口調で言った。
佐隈は混乱した様子になった。
だから。
返事を急ぎませんので、考えておいてください。
そうベルゼブブは佐隈に告げて、魔界に帰ったのだった。
あれ以来、ベルゼブブは佐隈に召喚されていなかった。
会ってなかったから、返事は保留されたままだ。