愛されてますよ、さくまさん
身体の一部分が触れあっているだけだ。
けれども、その感触が、自分とは違う体温が、気持ち良い。
身体が熱くなる。
愛しい、と強く思った。
その想いが伝わればいい。
伝えたくて、伝わるようにとキスをする。
そのうち、緊張していた佐隈の身体から力が抜けるのを感じた。
舌を差し入れる。
拒まれることなく、歯の合間から口内に侵入していく。
そして、そこにあった舌の先に軽く触れる。
佐隈がびくっと身を震わせた。
けれども、ベルゼブブを押しのけようとはしない。あらがわない。
気持ち良いと感じているのだろうか。
自分と同じように。
そうだったらいいと思いながら、舌をからめた。
だが、あまりしつこくはせず、引きあげる。
ベルゼブブは至近距離から佐隈を見た。
佐隈の眼は伏せられている。
その眼がベルゼブブに向けられた。
黒い瞳。
それが、じっとベルゼブブを見ている。
ベルゼブブはその眼差しを受け止め、その頬をなでる。
またキスがしたくなった。
そのとき、佐隈を探しているらしい男たちの怒鳴り声が聞こえてきた。近づいてきているようだ。
残念ながら、時間の余裕はない。
「さくまさん」
ベルゼブブはささやく。
「たしかにイケニエはいただきました」
佐隈に向かって、優雅に微笑んだ。
それから、名残惜しく感じながらも、佐隈の頬に触れていた手をおろした。
佐隈の瞳が揺れた。
「ベルゼブブさん」
「はい」
「……よろしくお願いします」
「はい」
ベルゼブブは悠然と笑う。
「それでは、彼らを片づけてきます」
きっぱりと告げて、踵を返した。
作品名:愛されてますよ、さくまさん 作家名:hujio