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愛されてますよ、さくまさん

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佐隈に背を向けて歩き、やがて、部屋から出た。
このビルのどこかにいる男たちのたてる音に耳をすまし、その音のほうへと進んでいく。
ベルゼブブは階段へと続く廊下で足を止めた。
階段をのぼってくる者たちがいる。
足音、そして、男の話し声。
さっき怒鳴っていたのと同じ声だ。
間違いない。
ベルゼブブは人間に見えるように姿を変えてから、階段のほうに進み出る。
階段をのぼってくる者たちを見おろす。
男が三人いる。
彼らはベルゼブブに気づいた。
「なんだ、おまえ……!?」
皆、驚いた顔をして立ち止まり、ベルゼブブの顔を見ている。
そのうちのひとりがハッとした表情になった。
「あの女の仲間か?」
「そうです」
ベルゼブブはあっさり認めた。
すると、男たちの顔から驚きが消え、余裕のある様子でベルゼブブを見る。まるで品定めでもしているような目つきだ。
「なァ」
男が言う。
「あんたがあの女の仲間なら、あんたにも、あの女のしたことの責任を取ってもらわねえとな」
ニヤニヤと笑っている。
他のふたりも同じだ。
「それだけ綺麗なツラしてるんだ。高く売れるだろうよ」
「俺たちを悪く思うな。悪いのは、俺たちの商売の邪魔をした、あの女だからなァ」
彼らは自信があるのだろう。
ベルゼブブは喧嘩とはあまり縁がなさそうな外見をしているし、ベルゼブブはひとりなのに対し自分たちは三人だから、勝てる。
そう思っているのに違いない。
ベルゼブブは笑った。
そして。
「愚かですね」
そう、あざけった。
途端に、男たちの顔色が変わった。怒りの形相になっている。
「なんだとォ!」
「ふざけるんじゃねえ!」
「いい度胸じゃねーか!」
口々に言い、階段を駆けあがってくる。
身のほど知らずどもが。
ベルゼブブは冷笑し、悪魔の力を使う。
当然のことながら、男たちはその力を跳ね返すことはできない。
男たちはベルゼブブの立っているところまで到達するまえに、強い力に打たれたように足を止めた。
「うう……っ」
彼らは立っていることができずに、うずくまった。
全員、苦しそうな顔をしている。
そんな男たちを見おろして、ベルゼブブは言う。
「いつもはこれで終わりにしていますが、不愉快なので、追い打ちをかけます」
脳裏に、佐隈がおびえている姿が浮かんでいた。
この男たちを二度と佐隈に近づけたくない。
ベルゼブブは右手を肩の高さまであげた。
その右手のあたりで、音がし始める。
羽音だ。
無数のハエの。
ベルゼブブは右手をさっと男たちのほうに向けた。
それが合図となって、ハエの群れは男たちを目がけて飛んでいく。
ハエは小さな生き物である。だが、集団で向かってこられれば、不気味で、おそろしい存在になるらしい。
男たちは眼を見張り、顔をひきつらせている。
「おまえ、何者なんだ……!?」
そうベルゼブブに問いかけてきた。
しかし、その直後、数えきれないほどのハエに襲われる。
男たちは悲鳴をあげた。
その身体を、ハエの群れがたかって覆いつくそうとする。
ベルゼブブはその光景を冷静に眺める。
ふと、口を開いた。
「私は」
さっきの男の質問に答える。
「彼らの王だ」
そのあと、ハエの大群に襲われている男たちを置き去りにして、自分の来た方向に歩きだした。