一片の氷心
姜維は安心したように息を大きく吐き出した。
一方、馬超はそんな姜維をそらすことなく見つめた。
王平のことといい、馬謖のことといい、あまりにも他人に気を遣い過ぎている。
どこまでお人よしなのだろうか。
しかし、決して嫌なものではない。
むしろ好ましいとさえ思う。
きっと、姜維のそういったところを見れば、彼に対してつまらない感情など湧き起こらないはずだ。
手紙で姜維のことを誉めていた趙雲もまたその一人だろう。
そして、自分もまた……。
「……馬将軍、お疲れなのでは?」
黙り込んでしまった馬超を不安げに見つめ、姜維は戸惑いがちに問いかけた。
自分が怪我をしているにもかかわらず、他人に気を遣う。
馬超は自然と笑みを零した。
「俺が好きでここにいる。気にするな」
ここにいても、酒が出る訳でもなく楽しいことはない。
むしろ馬超は戦後処理をしなければならず、大変忙しいはずだ。
それでもここにいる理由が分からず、姜維は自然と眉を寄せてしまった。
「俺はお前のことが気に入ったんだ。俺個人の意思でここにいる。何も気にしなくていい」
ここを離れてしまったら、姜維を心配して仕事が手につかない気がする。
それがはっきりとわかる馬超だった。
そして、姜維が眠りに落ちてしばらくした後、馬超は静かに天幕を後にする。
「これからが本当に楽しみだ」
一人呟いた馬超は、自分の仕事をこなすべく、部下達が忙しく動き回っているだろう自分の天幕へと向かったのだった。