Holiday
少し奥まった客室の前に辿りつくと、ドラコは白い扉をあけて中へと入り、ハリーも続けて入る。
豪華な装飾品がセンスよく並べられた部屋は、猫足の金色飾りがはめ込んである大理石のテーブルと、すわり心地がすこぶるよさそうな年代物のソファーセットがあった。
「どうぞ」とドラコは席を勧める。
ハリーは一言礼を言って腰を下ろすと、そのクッションの柔らかさに体が落ち込みそうになった。
慌てて態勢を立て直そうとして、背筋を伸ばしたら、逆に弾みで後ろの背もたれに、勢いよくもたれ掛かってしまった。
背中を預けるとすっぽりとした感触に、目を見張る。
幾重にも包まれていくような感じは、安心感に似た居心地のよさが感じられた。
「へぇー……、いいソファーだ」
感嘆し褒める。
「そうだろう。それがアンティークというものだ。いいものは時代を経ても、価値が下がるものではない。ただし、古き物はそれなりのちゃんと、手入れを欠かさないようにしなければならないがな」
「へぇ……、そうなのか。僕の家ではそういう家具はひとつもないから、よく分からないけど、メンテナンスが大事だということはよく分かったよ。つまり、古いヴィンテージの箒を取り扱うのといっしょなんだ」
「箒といっしょにするなんて――」
「いやいや、たかが箒と侮っちゃあダメだ。あれはあれで、結構値段が高くて、そのくせ壊れやすくて、取り扱いが難しいからね。この前なんかさ……」
ハリーは話し始めると、ヴィンテージには目がないドラコは、身を乗り出して、相手の話に耳を傾け始める。
ふたりが向かい合い、熱心に古い杖や箒について、意見を交換している目の前で、ポンという軽やかな音がしてた。
いつの間にか、屋敷しもべが銀色の盆を持っている妖精の姿に、ハリーは目をしばたかせた。
彼女(性別は分からないが多分そうだろう)は、屋敷しもべ特有の古ぼけた枕カバーではなく、ギンガムの筒状に縫われた服を着て、パリッと糊がきいた白いエプロンをしていた。
しかも頭にはちょっと洒落たリボンまで結んでいる。
コウモリのような外見にそれは、似合っているのか、どうなのかは分からなかったけれども、屋敷しもべがこの家で、とても愛されていることだけは分かった。
彼女はハリーとドラコ、それぞれに恭しくお辞儀をする。
お盆をテーブルに置くと、優雅なしぐさで暖められたボットから紅茶を入れ始めた。
湯気が立つカップを銘々の前に置くと、そのまますぐに姿を消した。
一瞬、会話が途切れたときに、天井がかすかに揺れ始めた。
そして釣られるように、甲高い笑い声が響いてくる。
そのあとにドンという床を踏みしめたような音とともに、天井からパラパラとかすかに埃が落ちた。
釣っているシャンデリアが小刻みに震える。
ハリーはじっと上を見た。
「ええっと、君のこの屋敷は木造じゃないよね?」
「まさか。石と大理石で建てられた頑強なものだ」
「そうだよね……」
ハリーはハハハと乾いた笑いを浮かべて、カップを持ち上げて一口飲んだ。
そしておもむろに顔を上げる。
「静かにしろ!って、雷を落としてこようか?悪ガキたちに」
ドラコはピクリと片方だけの眉を上に上げて、瞳を細めた。
「悪ガキはないだろ。ひとりはわたしの息子だ」
「ああ、そうだった。だったら、アルのほうだけでも……」
「そんなことをしたら、君の子供は反発するだろう。多分、二階でふざけているは、ひとりではなく、ふたりのはずだ。同じことをしているのに、君が自分の子供だけを怒ったりしたら、アルバスは憤るはずだ。君は自分の息子に嫌われたくないだろ?」
「そりゃそうだけど……」
答えている間も、ドスンという地響きのような、高い所から飛び降りているような音は響いていた。
微かに届く声は、ご機嫌な笑い声で、まるで、軽やかな鈴を鳴らしているようだ。
「僕の家は子供が3人もいるし、従兄妹もたくさん遊びに来るし、この屋敷ほど広くもないから、五月蝿いのは日常茶飯事だけど、君の家はいつもは、とても静かなんだろ?一応、他の家では大人しくするようにと、子供たちには口をすっぱくして、注意しているんだけど……」
「気にしなくていい。子供はそんなものだろ。ふざけて走り回るのが仕事みたいなものだ。スコーピウスの部屋の中のものは、保護呪文をかけているから、壊れるものはひとつもないから安心だ。床には転んだときにだけクッションになる魔法もかけているし」
「用意周到だな。さすがはマルフォイという感じだけど、ちょっと過保護すぎないか?」
「壊されて怒るより、こっちのほうが建設的だからな。子供は伸び伸び、好きなことをして過ごすのが一番だ」
そう言ってドラコは満足げに頷いた。
(やっぱり過保護だ)
という言葉が出そうになり、慌てて口をつぐむ。