【かいねこ】春告鳥ノ恋
「カイトさん」
いろはが声を掛けると、カイトは荷造りの手をとめる。
「ああ、いろはさん。吉野先生のことは聞かれましたか?」
「あ、はい。あの、随分、急なのですね」
「本当に。先生は、いつもそうなのです。何かを思い立つと、即行動に移す方ですから」
「ご兄弟なのに、旦那様とは随分違います」
「そうですね。染井先生は、どちらかというと、ゆったりした方ですね」
「でも、いっつも直前になって言うのです。カイトさんのことだって」
そこで、いろはは唐突に言葉を切ると、
「明日は、早いのでしょうか?」
「いいえ、それほどでは。昼頃に、こちらに来るそうですから」
そのまま、二人とも黙り込んだ。
いろはは俯いたまま、
「カイトさんは・・・・・・いつか、帰ってきて下さいますか?」
「ええ、必ず」
カイトは手を伸ばし、いろはの手を握る。
驚いて顔を上げたいろはに、カイトは微笑んで、
「帰ってきたら、また一緒に月を見てくれますか?」
「あっ・・・・・・はい!わ、私も、カイトさんと月を見たいです!約束ですよ!」
「はい、約束します」
いろはの手を持ち上げ、その指に唇を当てた。
「ひゃっ!?あっ!」
真っ赤になったいろはに、カイトは笑って、
「僕は、いろはさんが好きです」
「え!?あっ、わっ」
「返事は、僕が帰ってきた時に聞かせて下さい」
カイトの言葉に、いろはは急いで何度も頷く。
「だから、必ず帰ってきます。約束します、いろはさん」
作品名:【かいねこ】春告鳥ノ恋 作家名:シャオ