【かいねこ】春告鳥ノ恋
翌日。
「旦那様ー!吉野先生がお見えになりましたよー!!」
いろはがぱたぱたと走ってくると、染井はオオトカゲ姿で、日に当たっていた。
「旦那様!まだそんな格好なんですか!!早く支度して下さい!!」
「何だい、こんな早くに。昼頃と言ったんだから、昼過ぎに来ればいいじゃないか」
「全然早くありません!いいから支度して下さい!!」
「はいはい。全く、どいつもこいつもせっかちだねえ」
染井が着流し姿で現れると、カイトの横に、背広姿の中年の男が座っていた。
「久しぶりですね、兄さん」
「何だい、堅苦しい格好だねえ。もっとくつろいだらどうだい」
「兄さんは、相変わらずですね」
にこりともせずに、吉野が言う。
「前にも言いましたが、いい加減その姿は止めたほうがいい。我々はヒトの社会で暮らしているのですから、余計な波風を立てるような真似は」
「あー、はいはい。分かったよ。あんまり年寄りを苛めないでおくれ」
染井は、うんざりしたように手を振って、吉野の言葉を遮った。
「そんなことより、あんた、船の時間は大丈夫なのかい?すぐ出立するんだろう?」
「兄さんの支度に時間が掛かるでしょうから、早めに来ました」
「何だい、あたしの晴れの日でもあるまいし。支度なんざ、何もありゃしないよ」
「カイトの見送りはされるのでしょう?せめて身なりには気を使って下さい。この子の為に」
「・・・・・・ふん。自分を引き合いに出さないだけ、あんたも知恵がついたようだね」
「あなたの弟ですから」
染井は、渋々立ち上がると、
「分かったよ。ちょっと待ってなさい。いろは、手伝っておくれ」
「はい、旦那様」
作品名:【かいねこ】春告鳥ノ恋 作家名:シャオ