【かいねこ】春告鳥ノ恋
装いを整えた染井といろはは、吉野とカイトとともに港にやってくる。
慌ただしく別れを告げ、二人が乗船すると間もなく、汽笛を鳴らし、船は港を離れた。
船が見えなくなるまで手を振っていたいろはは、隣に立っている染井を見上げ、
「行ってしまいましたね」
「そうだねえ」
「もう、声も届かないですね」
「ああ、届かないね。だから、我慢せずに泣けばいいよ」
染井はそう言って、ぽろぽろと涙を流すいろはを抱き寄せる。
「だ、旦那様、もし、わ、私が、い、行かないで下さいと言ったら、か、カイトさんは、行かないで、いてくれたでしょうか?」
「ああ、きっと残ってくれただろうよ。あんたもそれが分かってるから、言わなかったんだろう?」
「か、カイトさんは、約束、して、くれました、からっ」
「そうかい。だったら、信じて待てばいいのさ。あの子は、約束を破るような子じゃないからねえ」
「は、はい、旦那様」
しがみついて泣きじゃくるいろはの髪を、染井は優しく撫で続けた。
作品名:【かいねこ】春告鳥ノ恋 作家名:シャオ