【かいねこ】春告鳥ノ恋
高く積み上げた本を、一冊ずつ確かめながら書棚に詰めていたカイトは、人の気配にふと顔を上げる。
開けっ放しの障子の陰から、いろはが顔を覗かせ、
「カイトさん、お手伝いしましょうか?」
「ああ、もう粗方終わりましたから、大丈夫です。残りは、明日にしますから」
いろはは、そろそろと入ってくると、本の山を見上げて、
「随分、沢山あるのですね」
「お邪魔ですよね、すみません。先生がいらっしゃらない間に、目を通しておきたくて」
「い、いえ!そんなことないですよ!ただ、あの、カイトさんに、無理なお願いをしたのではないかと」
「え?」
カイトは、一瞬きょとんとした顔をしてから、思い当たって、微笑みを浮かべた。
「いいえ、そんなことはありませんよ。もっと言いつけて頂いてもいいくらいです」
「えっ、そんな、カイトさんもお忙しいのに」
いろはが慌てて手を振ると、カイトは笑って、
「遠慮など無用ですから。染井先生も仰ってく」
「あっ!だ、旦那様の言うことは、気にしないでくださいね!!いつもそうなんです!!面白がって、変なことばっかり言って!!」
「は?」
カイトが驚いた顔で聞き返すと、いろはは真っ赤になって、
「ご、ごめんなさい・・・・・・」
「あ、いえ。ただ、染井先生は僕に、今日から家族だからと」
「え?」
今度は、いろはが驚いた顔で聞き返す。カイトは、ちょっと首を傾げて、
「家族だから、遠慮はいらないと。そう仰ったのですが、それが何か」
「え、あっ」
何故か耳まで真っ赤になったいろはが、慌てて立ち上がり、
「あっ、いえ、あのっ、な、何でもないです!おやすみなさい!!」
「あ、はい。おやすみなさい」
カイトが声を掛けた時には、いろはは既に走り去っていた。
作品名:【かいねこ】春告鳥ノ恋 作家名:シャオ