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【かいねこ】春告鳥ノ恋

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カイトが染井の家に来てから、しばらくのこと。
夜、書物を片づけていたカイトに、いろはが声を掛ける。

「カイトさん、少し庭に出てみませんか?今夜は満月なんですよ」
「ええ、今行きます」

声を掛けて庭に出ると、いろはが縁台に腰掛けて、空を見上げていた。

「染井先生は、もうお休みですか?」
「はい。旦那様は、夜はとても早いんです」

月明かりが、手入れされた庭を照らし出す。
夜気はまだ冷たく、遠くで梟の低い声が響いていた。
二人並んで座り、仲良く空を見上げる。

「月が綺麗ですね、カイトさん」
「ええ」

本当にと続けようとしたら、いろはが突然慌てた様子で、

「あっ!でも!カイトさんは、死んじゃ駄目です!」
「は?」

いろはの突拍子もない言葉に、カイトは驚いて聞き返す。

「旦那様が仰ってたんです!そう言いなさいって!!でも、カイトさんは、冗談でも言っちゃ駄目です!!」
「えっ、あ、あー、ああ」

やっと事情が飲み込めたカイトは、柔らかく微笑んで、

「分かりました。冗談でも、そんなことは言いません」
「はい、お願いします」

安心した表情のいろはに、カイトは小さく笑いながら、空を見上げた。

「そうですね。僕は、いろはさんと、ずっとこの月を見ていたいですから」
「はい。私もです。私も、カイトさんと一緒に、月を見ていたいです」

お互い顔を見合わせ、にっこりと笑う。
その様子を物陰から見ていた大トカゲは、足音を立てず滑るように自室へと戻った。

作品名:【かいねこ】春告鳥ノ恋 作家名:シャオ