こらぼでほすと 闖入1
破戒僧として有名な三蔵の相手が、元テロリストなんてことになっていても、誰も驚かないだろう。『吉祥富貴』に、まともな職業を経験している人間は皆無だ。軍人も、まともとは言えない職業に該当しているし、ここにいるのは、その中でも特殊事例ばかりだ。トダカは、まだ、まともな軍人だったとは思うが、ウヅミーズラブだの、トダカーズラブだのの関連は、まともではない。
そこへ、悟空から来訪者情報を貰ったシンとレイがやってきた。本山の上司様ご一行が来るなら、手伝いはいらないのか、という打診だ。
「食事の準備とか、アッシーとかさ。そういうの必要なら、俺らが行くからな、ねーさん。」
「なんでしたら、俺は、そちらに住み込みしますよ? ママ。」
「好意だけ頂いておくよ、ありがとな、シン、レイ。いつも通りでいいらしいから、それほど大変じゃないと思うんだ。それに、平日は、おまえさんたち、学校があるだろ? そっちのほうが優先だ。」
シンとレイはアカデミーへ進学する。そのレポートの提出は終ったので、後は結果待ちだ。だから、時間的には余裕があるとは言うが、それでも学校のほうを優先しなさい、と、ニールは注意する。
「わかってるけど、俺らも頼れ。」
「そうです。手伝いぐらいなら、いつものことです。」
「ニール、ひとりで走り回るくらいなら、シンとレイに手伝わせなさい。具合が悪くなったら大変だろ? 」
もちろん、トダカも、そう勧める。かなり体調は落ち着いているが、雨はまずいからだ。今のところ、予報では雨ではないが、上司ご一行様の滞在中、ずっと晴天ということもないだろう。そうなると、無理することになるから心配する。
「ええ、それじゃあ、何かあったら頼むよ。それと、おやつは、いつも通り、用意してるから、時間があれば寄ってくれ。」
「おしっっ。」
「わかりました。明日とりあえず、掃除の手伝いに顔を出します。」
そろそろ、シンたちも、ニールがやりそうなことの予想はつくようになってきた。明日は、寺の大掃除をするだろうから、手伝いに行くつもりだ。
翌日、朝から悟空が、来客用の布団を干した。そして、ニールのほうは、客間や風呂を徹底的に磨き上げる。そこまでしなくても、と、坊主は思ったのだが、まあよかろう、と、スルーして出かけた。その後で、シンとレイがやってきて、一緒になって大掃除と相成った。簡単なお昼を用意していると、ハイネが起き出して来て、その席に座る。金曜日から戻っていたのだ。
「ハイネ、脇部屋も掃除するから、まだ寝るつもりなら、居間で寝てくれ。それから、月曜日からも泊まるなら、俺の部屋で同居だ。」
ふぁーと欠伸しつつ、半纏にパジャマ姿のハイネに、ニールが申し渡す。上司様ご一行は客間にふたり、そして、脇部屋にひとりという配置になるから、ハイネの使っている脇部屋は使えない算段だ。
「俺は寝られたら、どこでもいいさ。」
ひとりだけ異邦人なんてことになると、ニールが大変だろうと、ハイネが居座ることにした。今のところは、情報収集ぐらいのことだから、本宅に顔を出すぐらいで用事は事足りるし、じじいーずからも、ニールのフォローをしてやれ、と、オーダーが入っている。さすがに、いきなり、本山の得体の知れない人外様たちと対面では、ニールの神経に触るだろう、と、ハイネも思う。ハイネ自身も、上司様とは対面したことはないが、普段の悟空や沙・猪家夫夫を見ていれば、普通の人間ではないことは理解できる。そういう部分を、ニールには見せていないから、ニールは知らないのだ。だいたい、いきなり、でかい鎖鎌のついた武器が、どこからともなく現れるという段階で、おかしい。
「ハイネが居候するくらいなら、俺が。」
レイは、そういうことなら、と、自分も居候すると言い出す。確かに、学校優先と言われているが、空いている時間に手伝いぐらいはできる。
「うん、レイだけでも手伝わせてよ。俺も、適当に来るからさ。」
さすがに、脇部屋の収容人員の問題で、シンまでは収まらないので、そう提案する。 「別にいいけど、大丈夫なのか? レイ。」
「大丈夫です。今のところは、ゼミとゼミ関連の授業だけですから、時間に余裕はあります。」
「無理しない程度にな。」
と、ニールは許可した。大人数の世話は、いつものことだから慣れている。それに、レイやハイネがいてくれたほうが、気分的には楽だ。
悟空も、昼ごはんに駆け込んできたので、レイとハイネのことを話したら、「いいんじゃね。」 と、頷いた。
「金蝉たちも、みんなと逢いたいって言ってたしさ。なんか、ママが緊張してんのも、それでどうにかなりそうだろ。」
野菜たっぷり中華蕎麦とごはんという簡単メニューを配膳しつつ、ニールは苦笑する。これでも、一応、マイスター組リーダーだったし、組織でも人間関係は卒なくこなしていた。初対面の人見知りなんてものはないのだが、状況がいつもと違うから緊張している。
「俺だって、ただ、三蔵さんの上司が遊びに来るってだけなら、焦らないさ。女房を拝みに来るって理由だから、緊張すんだよ、悟空。」
「いいじゃん、いつも通りで。金蝉は、けっこうボケるから、ツッコミしないといけないようなヤツだぜ。俺ひとりで、ツッコミすんのは面倒だから、ママもやってくれると助かる。」 「ツッコミ? 」
「うん。・・・いただきまーすっっ。」
準備が出来たら、即座に悟空は、ラーメン鉢を掻き込むようにしている。つられるように、シンとレイも手を延ばす。
「そう気遣わなくてもいいってことだよ、ママニャン。とりあえず、食ってからだ。」
ハイネも、目の前のものに手をつける。三蔵たちの関係者なんだから、まともではないはずだ。堅苦しい相手とは到底思えない。それなら、いつも通りでいいのだろう。
「頭じゃわかってんだけどさ。」
「三蔵さんが、どうにかするさ。」
「そりゃそうだろうけど。」
「で、三蔵さんは? 」
「たぶん、パチンコしてるんだと思う。あの人の平常心って凄いよな。」
普通、上司が来るといえば、少しくらい気にしてもいいようなものだが、坊主は、いつも通りだ。土曜で、予定がないから、いつも通りにスクーターで出かけている。
日曜も、なんだかんだと過ぎてしまった。明日の午後には、空港に到着するという。ここには来た事がないので、悟空が空港に迎えに行くことになっている。
「あんたはいいんですか? 」
「サルがいりゃいい。」
晩酌に付き合っているのは、実は坊主のほうだ。どうにも緊張して眠れないので、女房が飲みたいと言うから、坊主が付き合っている。ハイネは、ラボの泊まりで留守をしているし、悟空は先に寝てしまった。レイは、明日の朝の講義が二限目なので、自宅に戻っている。
「そんなに緊張することはねぇ。あいつらは、うちの親戚みたいなもんだ。年少組の世話するより楽だぞ。」
「だって・・・上司なんでしょ? 気になりますよ。」
「肝っ玉の小せぇーことを言うじゃねぇーか、ママ。・・・・MSで殺略の限り尽くすよーなヤツが、言うことじゃねぇーぞ。」
作品名:こらぼでほすと 闖入1 作家名:篠義