こらぼでほすと 闖入1
金蝉の頼みに、悟空も頷く。普段から会える相手なら、坊主は許可しないだろうが、滅多に来ない元保護者たちの頼みなら、否やとは言わない。それに、久しぶりにゆっくりと遊べるのだから、悟空も乗り気だ。
「とりあえず、京都。それから奈良なんですが・・・悟空が一緒なら、食いだおれの大阪にも立ち寄りましょう。どうですか? 悟空。おいしいものを目一杯楽しむツアー。」
「うわっ、それいいなあ。なら行くっっ。」
「ついでに、三蔵んとこの夫婦も付き合わせるつもりだからな。あと、悟浄と八戒も、だ。」
天蓬の言葉に、うんうんと頷いた悟空は、捲廉の付け足しには、あーと困った顔をした。三蔵はいいのだが、ニールは無理だ。リニアで移動したとしても、観光なんかに付き合せたら、疲れてしまうだろうし、飛行機は厳禁だ。
「ママニャンは却下だな、捲廉。移動はできないんだ。」
代わりに、悟浄が返事する。店の予約がなければ、悟浄たちは一週間ぐらいは付き合えるが、ニールに、それだけの移動はさせられない。
「できない? あれ、飲んでもか? 」
「気圧変化がマズイわけよ。どうせ、飛行機を使うだろ? あれは厳禁だ。なんせ、雨が降ったらダウンすんだからさ。」
かなり体調は戻っているとはいえ、そんな長距離移動は無理がある。ドクターストップがかかるだろう。
「雨? 」
「そっ、気圧変化に身体がついていけないらしい。それに、人外のほうに顔出すなら、連れてくのは無理だ。三蔵だけにしとけ。」
「つまり、奴隷は二人しか得られないと? 」
「だぁーれが、奴隷だ? 天蓬。んなこと言うなら、俺らも行かねぇーぞ。」
「はははは・・・拒否できると思ってるなんて、悟浄はバカてすね。僕が命じたら、決定です。」
「いや、店の予約状況があるからな、天蓬。二週間丸々は、俺らも無理だ。三蔵と悟空は、バイトだからいいけど、俺ら正社員だから。」
「天蓬、うちのママは無理だ。うちのママを苛めるなよ? やったら、俺、怒るからな。」
悟空が振り向いて、それだけ大声で言う。これだけでも、大きな釘打ちだ。えーと、天蓬は不満たらたらの顔をしているが、残りの二人は笑っている。かなり、悟空も、三蔵の嫁に懐いているらしい。
さて、同時進行の寺では、食事の準備で、バタバタしていた。まだ、食事の時間ではないのだが、手の込んだことをしているので、今から下準備をしているからだ。レイが助手をする形で、八戒とニールが台所で立働いている。ハイネも戻って来ているが、こちらは居間で昼寝中だ。
「八戒さん、今日、仕事は? 」
「今日は休みます。予約がないので大丈夫です。明日は、店のほうへ連れ出しますから、とりあえず、今夜だけ盛大にして、明後日からは、通常メニューにしてください。」
通常メニューなら、ニールだけで、どうとでもなるし、坊主とサルが出勤するといえば、一緒に出かけてしまうかもしれない。それはそれで、店の収入に貢献してくれるわけだから、経理担当の八戒としても、そのほうが喜ばしい。
「手伝い参上っっ。」
シンも学校が終ったのか、やってきて、手伝いに加わる。シンとレイは出勤の予定だから、おやつを食べさせなければ、と、ニールは、そちらのほうを用意する。
「シン、手伝いはいいから、とりあえず、おやつ食え。」
「作ったのか? ねーさん。」
この慌しいのに、それだけは用意しているのが、さすが、寺のおかんだ。ほれ、と、ポトフとカリカリガーリックトーストが卓袱台に並べられる。レイも、先に食べろ、と、手伝っていたレイにも声をかける。
「そりゃ作るだろ。おまえが来るのはわかってたんだからさ。」
「休もうと思ってたのに。」
「サボるな。」
「けど、今日は予約ないんだぜ? 」
「もしかしたら入ってるかもしれないだろ? ほら、トダカさんの手伝いもしてきてくれ。しばらく、俺は行けないから、そっちのほうを頼むぜ、シン。」
そうか、と、シンもおやつに手を出す。ニールが手伝いに出ないとなると、開店準備は、トダカひとりの仕事になってしまうから、そちらのフォローもあるのだ。
「ニール、鬼畜腐れ坊主は?」
ようやく下準備の目処がたったので、八戒もお茶を用意して、卓袱台に座り込む。午後から、こちらに顔を出したのだが、肝心の坊主が見当たらない。
「お昼を食べたら、スクーターで出て行きました。そろそろ、戻ると思うけど。」
ちゃんと時間には帰って下さい、と、送り出した。まあ、行き先は推して知るべしというか、時間潰しのパチスロあたりだろう。
「ハイネは? 」
「昨日、ラボで整備が忙しくて徹夜したらしいです。脇部屋で寝ろって言ったんですが、昼食ったら、そのまま沈没。」
何事かあったらしい。ハイネは、穏便な説明をしたらしいが、整備で徹夜なんてことはない。何かしら、また迷惑な情報でも入手して解析していたのだと、八戒は、はふっと息を吐く。それでも、ニールのことが気になって、わざわざ戻って来たのだろうことは、容易に想像できるからだ。後で詳細の確認をしておこう、と、心のメモに書き留めておくことにした。
寺の坊主が、到着予定時間ギリギリに帰ってきて、やれやれと、寺の女房は安堵の息を吐いた。遊びに行って留守は、さすがに失礼だろうと思ったからだ。
「まだか。」
「間に合ってくれてよかった。そろそろだと思います。」
「で、このマグロは? 」
「昨日、徹夜して疲れているから・・・・」
そのままで、と、続けようとしたが間に合わなかった。どすっっと、居間に転がっていたハイネに蹴りを入れて、坊主が叩き起こす。
「うおっっ、到着したか? 」
その攻撃で、ハイネはしゃっきりと起き上がる。だが、そこにいるのは、いつものメンバーだけだ。
「邪魔だ。寝るなら、脇部屋に行け。」
「ハイネ、布団は敷いてあるから、あっちで休んでろ。」
疲れているのだから、と、寺の女房が勧めたが、いやいやと、自称間男は、顔を洗いに洗面所に消えた。坊主のほうは、「おい。」 と、女房に声をかけて、卓袱台の定位置に収まる。お茶を出せ、であるらしい。はいはい、と、女房が台所へ走る。それを確認して、八戒のほうは、洗面所に動いた。
「いや、緊急ってわけじゃないんだが・・・せつニャンからデータが送られてきてさ。」
顔を洗っていたハイネに、ラボの状況を確認したら、苦笑して答えてくれた。刹那から暗号通信で、人革連の北西部から南西部にかけての地帯と、AEUとの境界あたりの状況が送られてきたのだが、いろいろと凄いものが詰め込まれていた。それを解析して、データの確認をしていたら、日が明けたんだ、という。
「人間って、なんか細かいことでも争うんだな。」
「人間ですからね。うちに影響は? 」
「それはない。ただ、抵抗組織が、徐々に力をつけてきてるんだが、また、アローズが、それを叩き潰してんだよ。」
作品名:こらぼでほすと 闖入1 作家名:篠義