こらぼでほすと 闖入2
ひとり、会話に参加していない金蝉に、寺の女房が声をかける。うちの流儀でいい、というので、ほうじ茶を用意したが、あちらではウーロン茶が主流だと、寺の女房は聞いていたので、そちらを勧める。
「いや、これでいいが、お代わりをもらえるか。」
「はい。」
台所へニールが急須を取りに行く。それを見送って、金蝉はニヤリと三蔵に笑いかける。
「いい女房をもらったな? 三蔵。」
「やらねぇーぞ。」
「他人の女房を略奪する趣味はねぇーよ。本当に美人で驚いた。」
「俺は事実しか吐かねぇーよ。それより、金蝉、特区の西に遠征するってーのは本当か?」
そこそこの予定は知らせて来ているが詳しいことは聞いていないので、三蔵も確認する。
「十日ばかり、ここに滞在して、その後、二週間ぐらいは特区の西に遠征だ。それから、最後の一週間は、まだ予定は未定。これといってなければ、各自勝手に行きたいとこへ行こうかということになってる。おまえ、遠征には付き合え。こっちの関係者と顔合わせするから。」
「二週間丸々か? 」
「悟空は二週間借りる。八戒たちは、店の出勤状況で一週間ってとこだと、さっき、悟浄に言われた。おまえは行けるなら、悟空と一緒に二週間でもいいんだろ? 」
「二週間も女房と離れるのは辛いってことなら、一週間でも十日でもいいけどな。おまえの嫁は移動できないっていうのも聞いた。」
捲廉が、そこに口を出す。今の所、檀家の月命日のお勤めぐらいは予定があるが、こちらの予定で変更できないことはない。昔ほど、月命日まできっちりやっている檀家は減っているので、予定も少ない。
「行くのはかまわねぇーが、挨拶回りは面倒だな。」
「そう言うな。うちの最高僧なんだから、正装で挨拶ぐらいしろ。」
「俺は、おまえらの管轄までは関係ないだろ。」
神仙界関係は、三蔵には関係がないといえば、そうなのだが、人間の最高僧だから、挨拶ぐらいはやってもらいたい、と、いうのが金蝉の要請だ。
そこへ、ニールが急須を持って戻って来る。各人の湯のみに茶を注ぐ。悟空には、お茶菓子のお代わりも渡している。
「ママ、俺、二週間ほど留守するから。」
「合宿か? 」
「ううん、金蝉たちが、特区の西のほうへ用事で行くから一緒に行って来るんだ。土産期待してて。なんかおいしいものが一杯あるんだってさ。」
「それ、いつからだ? 悟空。」
上司様についていくこと自体は構わないが、準備が必要だろうと、ニールが尋ねる。気が早い、と、八戒が日時については説明する。
「まだですよ、ニール。この人たちは、十日ほどは、こちらに滞在して、それから移動ですから。」
「ああ、そういうことですか。でも、学校のほうはいいのか? 」
「二週間くらいならいいさ。久しぶりに会ったんだし。普段はサボってないから大丈夫。なあ、三蔵、行ってもいいよな?」
金蝉と話している三蔵に、悟空が話を振ると、「おう。」 という返事をする。
「ついでに、三蔵も連れて行きますからね。ニール。」
天蓬が、そう言うと、「ああ、はい。」 と、ニールも返事する。仕事の関係で連れ立つのだろうと思ったからだ。
「寂しいと思いますが、まあ、たまのことなんで許してください。」
「いえ、仕事は仕方がないです。天蓬さん。」
「できれば、あなたも、と、思ってたんですが、ダメなんですってね。」
「あーたぶん無理ですね。・・・・そうだ。お礼を申し上げるのを忘れてました。薬をありがとうございました。お陰で、随分と楽になりました。」
偉い目に遭ったが、一ヶ月すると、本当に楽になった。疲れて、ふらふらすることも減ったし、何より発熱しなくなった。確かに効いているのは、当人が一番解る。
「効いて何よりでした。あなたの亭主が、そりゃもう心配するもんだから、僕らも気になりましてね。たまたま、いい薬があったので持たせたんですよ。」
たまたまで、あんなもんがあったら、怖ろしいわ、と、悟浄は内心でツッコミだし、「たまたまですか? すごいですね、天蓬さん。」 と、八戒のほうは軽いツッコミを口にする。
「三蔵さんは優しい人で、いろいろと気にしてくれるんですよ。」
「はあ? 」
「おい? 」
「おまえが優しいだと? 」
寺の女房の発言に、上司様三人三様に、坊主に向かってツッコミだ。どこをどうしたら、「優しい」 という言葉が出てくるのか謎だったらしい。
「何か? 」
「いえ、あの鬼畜生臭マイペース邁進坊主に、『優しい』という形容詞が冠せられることがあるとは、僕は夢にも思わなかったので。」
「優しいぜ? 三蔵は。俺なんかを拾ってくれたんだしさ。」
もちろん、これには、連れ子のサルも反論する。見た目と言動が、アレだが、まあ概ね、優しいのは間違いない。
「誤解はあるんでしょうが、うちのにも優しくしてくれますし。俺にも優しいですよ? みなさん。」
桃色子猫なんか、本当に可愛がってもらっているし、黒子猫には、いろいろと意見もしてくれている。何かと気にかけていてくれる証拠だ。
「そうだな、連れ子連中と女房には優しいよ。」
「ええ、この腐れ鬼畜マイペース驀進破戒僧は、なぜか、連れ子と女房には優しいんですよ。それは保証します。」
そして、それはフォローなのかどうなのか、微妙な意見を沙・猪家夫夫は笑いながら吐いている。
「おまえら全員、死んでくるか? 」
懐からマグナムを取り出して、坊主は撃鉄を上げて、カッパに焦点を合わせている。
「さんぞー、事実だろ? 照れんなよ。」
「あんた、上司の前で、それはないでしょう。」
扶養者のサルと女房が笑いながら、それを止めている。なんていうか、しっくりとした家族になっていて、上司様たちも苦笑する。あの三蔵が、こんなことを言われるようになるとは思わなかった。
「三蔵、そこまで愛されてるなら、なんで夜の夫夫生活まで進めてみようと思わないんですか? 」
「俺も女房もノンケで、欲情しねぇーんだよ。おまえらみたいな趣味じゃねぇ。」
「そこいらは、テクニックと愛の囁きでフォローできるもんだと思いますけどね? 何も、ノンケと主張しなくても。ああ、ニールが誘うっていうのもアリですけど?」
昨夜、酔った勢いで誘ってみたが、結果は、どちらも満足のいくものだった女房は、首を横に振る。どうやっても無理なものは無理だ。
「・・・俺も、そういう気にはなりません。誘っても無理だと・・・・」
「ふたりともやる気あるんですか? 」
まったくもーと、天蓬は軽い憤慨した演技で両手を組んで叫んでみるが、夫夫共に笑っている。
「ねぇー。」
「ありません。」
きっぱりと言い放って、ふたりして顔を見合わせて微笑む。どう言われても、そういう気にならないのだから、仕方がない。
「なあ、八戒、なぜか、こう・・・このふたりのいちゃこらが妙にムカつくんだが・・・俺がおかしいのか? 」
気が合っている様子だし、なぜか、いちゃこらしているのに、どっちも、その気がないなんて、すっぱり言い切られると、捲廉も釈然としないものがある。
作品名:こらぼでほすと 闖入2 作家名:篠義