こらぼでほすと 闖入2
「それ、正常ですよ、捲廉さん。無自覚にいちゃこらしてんです。寺の夫夫は。」
で、その横で、マグナムを懐に仕舞いつつ、「おい。」 と、坊主が声をかけると、「はいはい。」 と、女房が立ち上がる。そろそろ、晩酌させろ、ということらしく、女房は先に作っていた酒の肴と、里で用意してもらった日本酒を冷蔵庫から取り出している。
「ママ、手伝うよ。」
そして、悟空も、それを手伝うべく台所へ歩いていく。なぜか、三年ぐらいで、すっかり、「おい。」「あれ。」「それ。」で、会話が成立する以心伝心ぶりだ。
『吉祥富貴』では、予約客がないので、まったりと食事して、ハイネが解析したデータについての報告会になっていた。大きなパネルに、黒子猫から送られてきた映像を映している。
「これ、マークは、アローズだが、全部が、人革連の機体だ。」
そこいらを拡大投射して、機体自体を拡大させる。集落周辺に展開しているのは、全てが、マークだけ書き換えられたものだ。その隣りに、AEUとの境界近くの地図も展開する。位置の確認をしながら、映像の場所を説明する。黒子猫が、実際に拝んできたものだが、先に送りつけてきたのには、訳があった。それが、このアローズの機体だ。おそらくは、新型のMAと思われるものが、数体ある。
「これ、うちでも把握してない機体だよね? つまり試作品ってこと? 」
「たぶんな。その実験兼ねて、政府が気に入らないとこを潰してるって感じだ。それと、境界辺りに展開してたAEUのものと思われる部隊もやられてる。これはすごいぞ、マークも認識番号も外してある。つまり、テロリストってことで人革連が襲って、境界を東にずらそうって腹だ。えげつないにも、ほどがあるぜ。」
三つに分かれていた世界の勢力分布は、表向きにはひとつに纏まっているが、裏では、未だに小競り合いが絶えないらしい。それらの映像を先に送ってきた黒子猫の意図は、この試作機の火力や機動性を先に調べて欲しかったのだろう。世界の歪みのひとつと認識したということだ。
「ハイネ、これはフリーダムからの映像だったか? 」
「いや、せつニャンが小型のムービーで撮ってるやつだった。さすがに、ここまでフリーダムは寄せられないだろう。」
「食料は足りてるのかな。まだ、二ヶ月くらいだけど戻って来るのも計算してるか、疑問が残るな。」
黒子猫が借りているフリーダムには、ひとつ弱点がある。居住性の問題だ。市街地のない場所に、長く滞在するとなると、食料の備蓄や、寝る場所なんかが不自由なことになってくる。普通の小型艇なら、居住空間があるから、足を伸ばして寝られるが、フリーダムのコクピットには座席しかないし、隙間の部分に、生活用品を積んでいるから足を伸ばして寝転ぶのは不可能だったりする。まあ、その代わり、深海でも高山でも、どこでも滞在できるという利点はある。で、今回は、人家地帯のない場所への探索だったから、携帯食料は二か月分くらいは積んだのだが、予定では尽きているはずだ。
「アスラン、こっちから連絡したほうがいいんじゃないか? 」
食料は、十日ぐらいは我慢できるからいいのだが、飲み水が確保できているかは怪しい。なんせ、砂漠地帯で、水の少ない地域だ。 フリーダム本体は、エンジンが永久機関だから、延々と稼動させられるが、中に居る人間は、そうもいかない。
「そろそろ戻るとは思うんですが・・・説明はしてあるので、そこまでの危険は犯さないでしょう。」
「ハイネ、帰還予定の連絡はなかったのか? 」
「それはなかった。けど、この映像を送ってきたってことは、戻って来るつもりなんだろうと、俺は思うけどな。」
「ストライクフリーダムにすればよかったね。あれなら、コクピットが、もう少し広いからマシだったかも。」
ストライクフリーダムは、永久機関を積んでいるし、コクピットも、もう少し広い造りになっている。とはいっても、大した差ではない。ただ、キラの一番乗り慣れた機体だったから、刹那に貸さなかっただけだ。
「いや、フリーダムでいい。」
虎は、キラの提案を却下する。それに、あれを、どこかの陣営に確保されてしまうと、こちらとしても厄介だ。刹那を信じていないわけではないが、虎の子のストライクフリーダムは貸すわけにはいかない。
「ていうかさ、この映像、どこまで続くんだよ、ハイネ? えぐいぞ。」
境界付近の戦闘は、戦闘という代物ではなかった。一方的な殺略で、どんどんAEU側が潰されていくという、実にえぐいものだったから、シンもげっそりする。
「ほぼ二時間あった。せつニャンは、最初から最後まで見ていたらしい。・・・あいつ、強いな? 俺、三十分くらいで、イヤになったぞ。」
このムービーは、刹那が撮っているものだ。だから、二時間あるということは、刹那は、ずっと、それを眺めていたということになる。こんな一方的な戦闘は見ているのも辛いものだが、延々とムービーは続いていた。
「それから、これ、普通の集落も巻き添えにされていますが、どちらも無視なんですか? 」
戦闘のあった場所付近にある集落は、ただの民間人が住んでいるものだと思われる。それも、一緒に破壊されているし、人間も逃げられなかったのか、そのままミサイルにやられているのだ。それも、ぞっとする映像で、レイも顔を顰める。普通、軍人というのは、民間人を巻き込まないものだ。ザフトでも、それは習っているし、実際にも、民間船や民間人がいれば、そちらには攻撃しないように決められている。
「ここな、宗教王国の成れの果てなんだ。・・・・人革連が、宗教王国の存続を認めなくて、全部、解体させたんだが、まだ生き残ってるのはいるんだよ。そして、ご神体の傍で暮らしている敬虔な信者さんたちの集落なんだ。」
ハイネが、顔を歪めつつ、そう説明した。つまり、そこには存在しない民族ということになる。だから、破壊しようとも、人革連側からすれば、問題はないということになるらしい、と、説明して、「くそったれ。」 と、呟いた。
全員が、ハイネの説明に顔を歪めた。根絶やしにするために、境界を広げるついでに、殺しているということだ。ハイネも、最初に、この映像を見て、その疑問を持った。だから、過去からの、その地域の歴史も調べたのだ。
「こういう武力介入もあるんだ。シン、レイ、綺麗事じゃない部分っていうのは、こういうやつだ。覚えとけ。」
虎も憮然とした表情で、そう言い放つ。少数の異端者は、こういう目に遭うこともある。昔から、人間のやることは変らないという証拠だ。
「言っておくが、これは一部だ。ユニオンにも、AEUにも同様のことは起こっている。たまたま、せつニャンは、これを見たってだけだからな。」
鷹も、それらを知っているので、言葉を継ぎ足す。どこででも行なわれていることだ。こんな些細なことからも、世界の融合の難しさは伺える。
「僕たちは、この人たちを助けてあげられないんだ。そこまで、僕らの許容範囲は広くないからね。」
作品名:こらぼでほすと 闖入2 作家名:篠義