こらぼでほすと 闖入2
『吉祥富貴』を背負っているキラも自嘲して、隣りのアスランに凭れこむ。それをやったら、三つの国家群を敵に回すことになる。それは、いくらなんでも無理だ。世界が平和になるには、取捨選択というものが存在する。それがよくわかる映像だった。
「けど、これで解ったことがある。まだ、アローズは、ひとつの組織として指揮系統が完全ではないってことだ。そこいらは、使えるはずだから、キラ、操作はできるぜ? 」
「うふふふ・・・了解、ハイネ。せいぜい、混乱させてあげる。それから、抵抗組織のほうにも、こっそり、これは流しておいてね。」
アローズは、三つの国家群が、ひとつに纏まって連合になった結果、創生させた組織だが、まだ、それらは完全にひとつではない、と、解析の結果、判明した。それなら、それで情報操作できることもある。それらは、キラの仕事だし、ハイネも、この映像を少し露出させておこうと思っていた。連合に参加していない国では、同様のことが行なわれている。それらを、リークするのは、間違ったことではない。情報管制にあっても、それが届かない部分には、これらを流しておくことにした。
「トダカさん、オーヴは、どうします? 」
カウンターから、それを眺めつつ、酒瓶を磨いていたトダカにも、声をかける。ここでは、オーヴ代表みたいなものだから、そちらに尋ねる。
「データは貰っておこう。政治取引には使えないだろうが、使い道はあるだろう。」
「了解。データチップに纏めて渡します。」
「キラ様、カガリ様には教えないでください。」
カガリは、まっとうな性格だ。これを見たら、即座に抗議するというだろう。だが、それでは意味がない。これは、連合が崩れた時に使うものだ。それまでは、カガリには教えないほうがいい、と、トダカは判断した。
「わかってるよ、トダカさん。・・・それから、虎さん、フリーダムの武装を、もう少し強化させたい。マードックさんに整備を頼んでもいい? 」
やはり、何かしら、通常装備のフリーダムでは心配だ。重爆撃仕様は無理だが、ある程度の武装は積んでいるほうが安全だろうと、キラは判断した。
「かまわんが、・・・何かあったら問題になるぞ? 」
「それに、あれで武力介入されたら、うちに余波がくる。」
「虎さん、ムウさん、刹那は、この映像を二時間撮り続けたんだ。飛び出したい気持ちはあっただろうけど、我慢した。だから、大丈夫だと思う。武装強化は、あくまで、刹那が逃げるために用意するんだよ。」
関係のない民間人が惨殺されていくのを、刹那はじっと見ていた。今は戦えない、ということを自覚しているから、そうしたのだろう。こういう危険な場所に入るなら、発見された場合も考えなければならない。刹那に何かあったほうが心配になる。それなら、逃げるために使える武器が多い機体のほうが安心だ。
「迷彩塗装でもしたほうがいいかな。」
アスランも武装強化に異論はないらしい。使わなければいいのだ。使う時は、刹那が危険な場合に限られることを、きっちりと説明しておくつもりはしている。
「確かに、強化しても、そう長い期間にはならないだろうな。組織のほうで、全機ロールアウトするまでだ。長くても一年あるかないかってとこだし、あいつは、適度に戻って来るつもりだろうからさ。」
ハイネも武装強化することについては賛成だ。下手なことになって、またレーダーサイトに察知されるほうが問題だ。
「そこいらは、きつく注意しておくか? 鷹さん。」
「そうだな。ママニャンが寂しがるとかなんとか言って、定期的に顔を出させるほうがいいか。」
キラたちの意見に、虎と鷹も了承する。無茶をしなければ問題はない。こちらも、組織が再始動するまでは派手なことはできないのだ。この映像を二時間撮り続けた根性は認めてもいいだろう。
「じゃあ、これで、俺の報告は終わり。・・・アスラン、明日の貸切の客について打ち合わせようぜ。」
難しい話は、これで終わりだ。事務室で、のんびりテレビを見ている爾燕と紅も呼んで、明日の三蔵の上司様たちの接待に話は移る。人外枠の方たちだから、世俗まみれの接待でいいのか、なんて話からだ。
「あいつら、別に世俗にまみれてるから、そいうのは気にしなくていいぜ。」
やってきた爾燕が、苦笑する。
「携帯端末でメールしてるようなやつらだからな。別に、いつも通りでいいんじゃないか?」
もちろん、紅も、そういう意見だ。逢った事は数度だが、メールアドレスの交換はしているから、時たま、メールもしているらしい。
「引き篭もりじゃないのか? 」
「あっちの街には下りてるぜ。」
「美人か? 」
「美人か・・・うーん、それは、人の好みに拠るんじゃないか? 金蝉は、美人顔だと、俺は思うが・・・」
「天蓬も、身なりさえ、きちんとしてれば美人かもしれない。」
「どういう身なりしてんだよ? 」
「白衣着て、だらだらした格好してんだよ。さすがに、今回は普通の服着てると思うけどなあ。」
爾燕と紅も、随分前に逢ったきりだから、現在、どうなっているかは知らないと言う。それに、あちらで逢っているので、服装は、あちらのものだったから、こちらで、どういう格好をしているかは知らない。
「俺、今日、あっちに帰るから、確認はしておくさ。・・・で、キラ、何かサプライズするか? 」
「どんなのする? ハイネ。」
貸切接待なので、どんなものでもいいのだが、今ひとつ、相手の性格がわからないから、仕掛けるのも難しい。うーん、と、考えるのだが、思い浮かばない。
「実物の確認しないとわかんない。」
「じゃあ、寺へ寄ってみるか? 」
「いや、ハイネ、初日だから、身内だけのほうがいいんじゃないか? 」
初日だし、久しぶりに会う沙・猪家夫夫もいるのだから、身内だけのほうがいいだろう、と、アスランが止める。逢うなら、明日の午後一番でも問題はない。
「てか、ママニャンが、ひとりぼっちだぞ? 」
「「「あー」」」
年少組は、そこで、うんうんと頷いている。寺の女房ということで、あちらにいるが、もっとも部外者なのは、ニールだろう。人当りのいい性格だが、それにしたって初対面が三人で、自分だけ、あちらの関係者じゃないなんていうのは、ちと辛いかもしれない。
「俺、話が終ったら、あちらに帰ります。」
「レイ、俺も顔だけ出す。」
「やっぱり、ちょっと乱入する。」
「うーん、挨拶だけさせてもらおうか。」
困ってるんじゃないかなあーと、四人は立ち上がるのだが、まあまあ、と、鷹が手で止める。
「ハイネが、どうにかするさ。・・・おまえさんは、さっさと帰れ。用件は済んだだろ? 」
時刻は、九時を廻ったところだ。まだ、あちらは飲んでいるだろう。諜報担当のハイネは、あちらとの顔繋ぎもあるから、早めに顔合わせしておくべきだ。それに、シンとレイは、相手が人外枠だとは知らないから、ややこしくならないようにに止めた。
「間男っていうのも、どうかとは思うがなあ。」
虎は、ハイネの呼称に苦笑して、顎を撫でている。『吉祥富貴』では、それで意味が通っているが、あちらは驚くだろう。
作品名:こらぼでほすと 闖入2 作家名:篠義