こらぼでほすと 闖入2
「いや、いいんじゃないか? だいたい、三蔵さんだって、「女房」とは呼んでるけどさ、そういう意味じゃないんだ。」
実質は、仲の良い同居人だ。そして、ハイネは、居候が、世間一般の呼び方である。
「寂しい集団だなあ。」
ホンモノの女房持ちの虎が、からかう。隣りで鷹も同意している。さすがに、ホンモノがある二人は、意味がわかっていて笑えるらしい。体のいい家政夫付き下宿というのが、正解だからだ。女関係のない人間ばかりだから、そういうことになる。
「うるさいな。俺は、同性の同居の楽さを、ひしひしと感じてるぜ。」
「おまえ、それは危険だぞ? そろそろ、居候はやめたらどうだ? 」
老婆心からの虎の忠告に、ハイネは、「現状維持が望ましい。」 と、吐き出して、さっさとデータの整理をして店を飛び出した。
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寺に帰り着くと、まだ騒々しい声が聞こえていた。まだ宴もたけなわといって感じだ。勝手に居間に顔を出したら、「おかえり。」 という声がする。
「邪魔するぜ。」
わーわーと盛り上がっているが、ニールがすぐに声をかけてくれる。そして、一斉に視線が、ハイネに向けられる。
「うちの同居人のハイネです。」
真面目に紹介しているのに、「ここの女房の間男です。よろしくぅー。」 と、ハイネ当人が茶化している。
「間男? おいおい、三蔵、甲斐性がねぇーにも程があるぞ。」
「違います、違います、捲簾さん。本当に、同居人なんですよ。」
「亭主よりは、ニールを大切にしてるから間男なんですよ。まあ、どれも、ノンケと言い張ってますから。」
もういい加減、どうにかなりゃいいのに、と、八戒は酔ったフリで暴言を吐いている。こっちに座れ、と、悟浄が席に呼んでいるので、とりあえず、ハイネも、そこに落ち着いた。
「早かったな? ハイネ。」
「今日は、予約がなかったからミーティングだけだったからな。悟空、紹介してくれ。」
「おう、さんぞーの隣りが、金蝉。八戒の横が天蓬、悟浄の隣りが捲簾だ。こっちは、ハイネ。ママのアッシー。」
悟空にすると、そういう感覚らしい。まあ、何かとクルマを出しているのは、ハイネだ。
「なんか、ひでぇーな。ハイネ・ヴェステンフルスです。寺に、居候をしてるんで、以後お見知り置きを。」
周囲を見渡して、軽く会釈する。三人の上司も、軽く会釈だ。しかし、確かに金蝉は美人だ。三蔵も、三白眼さえどうにかすれば、美人だが、それより品の良い感じの美人だったりする。
「よくよく見ると、紫紺の瞳に金髪ってとこまで、上司とお揃いなのか? 三蔵さん。」
「親戚みたいなもんだからな。」
「おまえと血は繋がってないはずだが? 」
「血は繋がってねぇーが、そうとしか説明できねぇーだろう。」
「あーボケとツッコミ? 」
「いや、どっちもボケだと思う。俺、どっちらにもツッコミしなきゃならないぜ、ハイネ。」
けっこー似てんだよなあーと、悟空は説明しつつ、トリカラを摘んでいる。そして、ハイネの前には、取り皿とコップが用意されている。
「飲むんだろ? 」
「里のお父さんが用意したヤツがいいなあ、ママニャン。」
はいはい、と、五合瓶が差し出される。トダカが用意したのは、一升瓶ではなく、五合瓶の吟醸酒だった。それも、銘柄は各種なので、そこには十本ばかり種類の違うのが並んでいる。
「さすが、お父さん。いいの、用意してんなあ。飲みました? 金蝉さん。」
「ああ、こっちの酒も美味いな。ニールのお父さんに礼を言わなきゃならない。」
まあ、一杯、と、ハイネが金蝉のコップに注ぐ。明日になれば逢えますよ、と、八戒が、今度は天蓬に注いで、さらに、捲簾のコップにも注ぐ。店に行けば、人間だけど限りなく人外に近いのとか、人外とか、ナチュラルに人間なのに、そこに混ざってるのとか、各種取り揃えて存在している。
「おまえは、コーディネーターの軍人か? ハイネ。」
「ああ、一応、一般兵士よりは地位の高いエリートだぜ、捲簾さん。」
「敬称なんてしゃらくせぇーもんはいい。呼び捨てでいいさ。・・・なら、明日、手合わせしてくれよ。コーディネーターの身体能力に興味があってな。」
「いいぜ。」
「やめとけよ、ハイネ。捲簾は武人だから、俺や三蔵の比じゃねぇーぞ。」
怪我すんぞ、と、悟浄が止めるのだが、どっちも興味があるのか、まあまあ、簡単に軽くだから、と、そのままスルーされてしまう。
「三蔵さんより強いって・・・それ、最強なんじゃ・・」
寺の女房は、三蔵の強さを知っているので、それ以上と言われると、もうどこまで強いのかわからないなんてことになる。
「俺、捲簾に今なら勝てそうな気がする。」
「どうだろうなあ。おまえも、三蔵にしごかれてるからなあ。」
「紅と爾燕がいるから、あっちとやれよ、捲簾。」
「爾燕はいいなあ。いい運動になりそうだ。」
「すいませんねぇーうちのは筋肉バカなんで身体を動かさないと寝られないんですよ。」
「天蓬、俺はドーベルマンか? 」
「近いんじゃないですか? 」
わーわーと騒ぎは、さらにヒートアップしている。適当に、寺の女房は、おつまみを足したり、冷えた酒を運んできたりしているが飲んでいない。本日は、八戒と共同で、特区のおかずらしいものを用意した。煮物、酢の物、刺身、焼き魚、和え物といった純和風なものだ。それに、悟空のために、鳥からや野菜炒め、天麩羅なんてところもある。大皿盛りにしているので、なくなったら、それらも継ぎ足す。
「ニール、飲んでないじゃないですか。」
「すいません、天蓬さん。俺、酒はダメなんです。」
ほら、飲んで、と、瓶を差し出されると、ニールは手を横に振る。これで飲むと、後片付けができないからだ。さっきから、ちょこちょこと舐めているが、すでに、酔いは廻って来ている。
「じゃあ、三蔵が代わりに受けてください。」
「そこの間男に受けさせろ。」
おう、受けるぜ、と、ハイネがコップを空にして差し出す。こそっと、ニールは悟浄と三蔵に氷水を渡している。それを、ちらっと横目にして、「俺もくれ。」 と、金蝉も貰った。ザルの面子は、延々と終らないが、腹が膨れてしまったのと酔いが軽く廻ってきたのは小休止だ。
「悟空、そろそろ風呂の用意しようか? 」
「うん、そうだな。俺、明日、一限だから、早めに寝よう。弁当してくれる? 」
「いいよ。用意する。この残り物も混入するけど。」
「うん、高野豆腐のタマゴでとじたやつ食べたい。」
大皿で盛り合わせられている高野豆腐は、タマゴでとじられていない。これをタマゴでとじたやつが、悟空は好きだ。
「大丈夫だ。弁当用のは別に確保してる。」
「それだけでもいい。」
「バカ、栄養が偏るだろ? タッパーひとつ分だけな。」
「悟空、明日は学校か? 」
サルとニールの親子会話を耳にして、金蝉が尋ねる。どうやら、悟空は、日課はこなすつもりらしい。
「おう、月曜から金曜までは学校。夕方からバイト。遠征の二週間は付き合うけどさ、それまでは通うから。」
作品名:こらぼでほすと 闖入2 作家名:篠義