Telephone
ドラコは唇を上に上げて、ハリーをにらむ。
頭に手をやりながら、ハリーも気まずい表情で頷いた。
「うん、だから気をつけることにしたんじゃないか。着る物も吟味して、カットサロンへも頻繁に行くようになったし、小物にも気を使って……」
「そうだ。そのおかげで君は週刊魔女マガジンの表紙を飾ったり、世間の評判も上がった。ベストガイ10人に選ばれて、注目されるようになったし、老若男女から大人気の英雄だ」
「でも、弊害もあるじゃないか」
どさりとソファーに座り込む。
「あまりにも注目されるから、僕は魔法省をクビになったじゃないか」
「クビになったんじゃなくて、君が勝手に辞めただけだろ」
「いーや。あれはクビにさせられたのも同然だね」
大きくため息をついて、ハリーは首を振った。
「だって、職場見学とかいう名目で、ホグワーツの遠足の一環で、僕の職場にたくさんの子供が押し寄せてくるし、胡散臭くて訳の分からない団体が、ぜひ顧問になってくれと手紙をひっきりなしに送って来るし、机の上はいろんなフクロウが手紙を持ってグルグル飛び回って五月蝿いし、挙句の果てには業を煮やした奴が『吼えメール』を送ってくるんだよ。それが一日に何回もあって、とうとう最後には上司のキングがやんわりと……。「遺憾しがたいことだけど、君のせいで職場の雰囲気が最悪だ。いや、君自身が悪くないのはよく分かっているつもりだ。だけど、君だって理解しているだろう、この現状を?」とか言われたりしたら、もう「辞めます」としか言えないじゃないか」
唸って、不貞腐れて、ハリーはクッションの上に寝っ転がった。
「それは確かに、君のせいじゃないと言えるし、言えないかもしれないな――」
「なんだよ、ドラコまで!そんな持って回った言い方をしなくてもいいじゃないか」
ハリーは怒って、やってられるかとばかりに、ソファーの上で手足を伸ばして大の字になる。
ドラコは苦笑し、目を細めた。
気落ちしてすねている仕草など、図体が大きいからこそ余計に可笑しかった。
まるでその姿は、むくれて拗ねた黒い毛並みのラブラドール犬のようだ。
ドラコはゆっくりと歩いて、寝ているハリーのウエストの近くに腰を下ろすと、相手を見下ろしほほを撫でる。
ハリーは表情を和らげて、甘えるようにドラコの手の甲にキスを返した。
「――だって、君と離れたくなかったんだ」
かすれた声が漏れてくる。
「魔法界はうっとうしいことばかりだったから、別にクビになったことは構わなかったんだ。むしろ清々した気持ちだった。まるで珍獣のような見世物にされるより、ずっといいと思っていたから、別に後悔なんかないんだ」
青白い少し体温が低い冷たい指が、ハリーの髪の毛を撫でいく。
その指先のあまりの気持ちよさに、目を閉じた。
「──ただ、君とだけは離れたくなかった」
ため息のような小さな言葉。
「ドラコとは離れたくなかったんだ」
その言葉の重さに、ドラコは顔を寄せた。
「――寂しかったのか、ハリー?」
「寂しいってものじゃないよ。もっとだ……」
うなだれている恋人の首筋に、自分の鼻先を押し付けて、そこにキスをする。
ハリーのまぶたが震えた。
「自分にしたら、もっとだよ、ドラコ。もっと淋しい。僕の世界に君がいなくちゃ、どうしていいのか分からないくらいだ──」
漏れてくる声は途切れがちで切なそうだ。