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物体もじ。
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バルカイストに30のお題

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04/有名人



 何だか、すごく見られてる気がした。


 もちろん、そんなのは不合理な感覚だと、わかっている。

 今、部屋には自分ひとりきり。誰もいない。誰も見てなんかいない。

 見られているのは、自分自身でなく、PC―――ネット上の分身だ。

 いかにリアルにつくられていても、所詮はデータの存在。こちらからの操作は可能でも、向こうからの―――視覚や聴覚以外のフィードバックなんて、ない。


 それでも何故か、見られてる、と思った。

 ちらちらと、こちらにボディを向けるPCが、少なくない、ような。


 リアルなら、自分の格好がどこかおかしいのか、とか気にするところだけれど、モノはPC。装備品で多少グラフィックは変わるけれど、その組み合わせがどうこう、なんて気にしてる人は多くないはず。

 だって要はパラメータの問題なわけだし。


 じゃあ何か変な独り言でも漏らしていたかと言えば、そういうわけでもない。

 基本的にいつもパーティモードにしてあって、必要がない限り、トークモードになんてしない。


 ひとつひとつ可能性を消して、それでも消えない感覚に、自然と足はひと気のないところへ向かっていた。


 空中都市フォート・アウフは開放的なイメージのタウンだけれど、プチグソ屋の裏、みたいな何もないところなら、意外と誰もいないものだ。

 建築オブジェクトの裏にPCを待機させて、ようやくほっと一息ついた。


 見られる、ていうのは緊張することだから、自分自身じゃないとは言え、肩が凝って仕方がない。

 リアルの手元に置いたカップからお茶をすすって、しばらくそのまま画面を眺めていた。

 退屈してぴょんぴょん跳ね始めた赤いPCが、ブルーグリーンを基調としたタウンの中で、確かに鮮やかに見える。

 最初にキャラメイクしたときのまま、デフォルトのグリーンだったら、きっと背景に溶け込んで目立たなかっただろうにな、と思った。



(……ん)



 カッカッ、という靴音に混じって、高くメールが着信を告げる。

 誰かログインしたんだろうか、と思ってメールを開くまでもなく、画面の中に、自分のPCと同じくらい、いや、もっと目立つPCが近づいてくるのを見つけた。


 相手PCをポイントして、ショートカットコマンドを打ち込む。

 会話は、いつも通りのウィスパーモードで。



「こんばんは、バルムンク」

「こんばんは、カイト」



 そろそろ聞き慣れた声が伝わってきて、PCと同じく、リアルでも思わず笑みが浮かんだ。



「今メールくれたの、もしかしてバルムンク?」

「ああ。もし時間があるようなら付き合わないか、と思って」

「もちろん!」



 並んでカオスゲートに向かって歩き出して。他愛もない話をしながら、ふと、気づかされた。


 見られてる。



 今度は明らかに、見られてる。



 PCは何気なく歩き続けたまま、リアルの視線だけをちらりと、隣を歩くひとに向けた。

 銀色の髪に鎧、ところどころに配された青というカラーリングが涼やかで、はっと人目を惹くほどに格好良い。

 そして何より、「The World」の中の他の誰も持っていないという、背に生えた純白の翼が衆目を集めるのには十分すぎる。


 つまり、目立つ。


 気をつけて見れば、トークモードでタウン内のそこここに流れるログが、いつの間にか彼一色で染まってしまっている。誰もが注目しないではいられない、誰もが話題にせずにはいられない、特別なPC。

 その視線の余りのようなものが自分に向けられている気がして、また落ち着かなくなる。



「……バルムンクってさ、目立つよね」



 気を紛らわすように話しかけてみると、画面の中のPCが軽く肩をすくめた。聞こえた軽いため息に、諦めたような表情が透けて見える。



「まあ、珍しい格好をしているからな。それなりに名も知られているし」

「すっごく見られてるよね。バルムンクは慣れてるのかもしれないけど、何かオマケで見られてるぼくのほうが緊張するよ。慣れてないもん」

「何を言っているんだ、カイト」



 ぴたりと、白銀のPCが唐突に足を止めた。

 PCの視線は正面を向いたままなのに、その向こう、インターネットの前に座った誰かが、まじまじとこちら……カイトを見ている。

 それが、タウンの中の不特定多数の「誰か」に見られているよりもよほどに落ち着かなくて、思わずリアルで身を引いた。



「……なに?」

「あのな、カイト……」



 ちょっと言いよどんで、それから、彼は意を決したように、教えてくれた。



「俺もそうだが、お前も同じくらい、下手したらそれ以上に、目立っているぞ」

「ぼくが? どうして!」

「お前は日が浅いから無理もないが……The Worldには、それこそβからずっといるような古参のプレイヤーも多いんだ。そういうプレイヤーは、俺も含めてだが、エディット可能なPCのタイプやカラー、果ては装備品まで、すべて覚えているものなんだ」



 あっさりと告げられたことに、二の句が告げない。

 お互い話に夢中になっているせいか、ディスプレイの中では白銀のPCがむっつりと進行方向を見据えて立ち尽くしたままだし、赤いPCはまたもやぴょんぴょんと飛び跳ね出しているけれど、そんなことは気にもならなかった。



「すべてって……全部!?」

「そうだ」

「どうやって覚えられるのそんなの!!」

「どうって、自然とだが……いや、そうではなくて、カイト」



 くるりと、ようやくPCバルムンクがカイトのほうを向いた。さすがに、彼ほど名の知られた人が通りの真ん中でぼーっと突っ立ってるのは格好がつかないと気づいたらしい。

 こちらは相変わらず、PCにモーションさせることなど二の次にしたままだけど。

 だって。全部覚えてるのが当たり前って、おかしくない?



「問題はな。そういうプレイヤーから見れば、その……お前のPCが、とても奇異に映るということだ」

「ぼくの?」

「そうだ。俺も、最初はそうだったが……たぶん、大概の人間は、まず……チートだと、思う」

「……」



 重い声でそう言われて、思わず、うつむいた。

 それと一緒に、少しだけ、納得する。

 いちばん最初に逢ったとき、彼があんなにも敵意を見せたのは、きっとそのせいもあったんだろうって。

 不正行為(チート)するような奴のせいで相棒に会えなくなっちゃったりしたら、それは、怒るだろう。その相手を、憎んだりも、するんだろうと思う。


 そんなことを考えて黙り込んでしまったこちらをどう思ったのか、HMDのイヤホンから、口を開きかけてためらうような気配が、聞こえてきた。



「もちろん……今は、違うのだと、俺は知っている。けれど、だから……お前は……」



 困りきった顔が、見えるようだった。もちろん、リアルの彼がどんな顔の人かなんて、少しも知らないけど。

 それが気遣ってくれているからだというのもわかって、それだけで、嬉しくなる。