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こらぼでほすと 闖入3

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 ぺちっとニールの頬を叩いて、歌姫様も苦笑して抱きつく。すぐに駆けつけられないもどかしさで、歌姫様も別の意味で暗黒オーラを発生させそうな勢いだった。だから、元気そうな親猫の姿にほっとしたらしい。
「ごめんごめん、もうやることはないよ、ラクス。でも、身体は、金蝉さんから貰った薬で、随分と楽になったんだ。それは、おまえさんからも礼を言ってくれ? 」
「昨日、お礼は申し上げました。金蝉さん、ニールは私くしのママですの。昨日もお話させていただいた通り、私くしの大切な宝物です。体調を戻してくださったことには感謝しております。」
 もう一度、歌姫はお礼を言って、ニールから離れる。そして、イザークとディアッカは、さっさと居間から出て行く。ここでの護衛は、それほど必要ではないので、彼らは、『吉祥富貴』へ移動だ。そちらで、刹那からのデータをチェックすることになっている。
「来るなら来るって言ってくれれば・・・」
「時間が間に合うか微妙でしたので。お腹が空きました、ママ。何か食べさせてくださいな。」
「はいはい。ヒルダさん、マーズさん、ヘルベルトさん、どうぞ座ってください。・・・すいません、金蝉さん、騒がしくて。・・・レイ、ちょっと手伝ってくれ。」
 四人も人間が増えると、とてもちまちましたものでは足りない。冷凍庫の食料を解凍すべく、ニールは台所へ消える。私も、と、歌姫様も後を追い駆ける。
「すまないね、金蝉さん。騒がしくしちまって。あたしらは、ラクス様の護衛で、相伴させてもらってもいいかい? 」
「かまわねぇーが、あんたら、昨日はいなかったな? 」
「店の表までは護衛しないからね。あたしは、ヒルダ。こっちは、マーズとヘルベルトって言うんだ。全員、コーディネーターで傭兵さ。」
「ほおう、傭兵か。うちのと手合わせするのに、あんたらも参加してくれ。」
 へろへろになったハイネの報告に、シンやキラが、「僕らも、捲簾さんと遊びたい。」などと言うので、土日は別荘で武闘会をやることになった。だが、物足りないな、と、捲簾が零していたので、本格派の面々の参加は、金蝉としても有り難いと思う。コーディネーターでも、MS乗りの面々というのは身体能力は高くても、体術の実技では能力が完全に発揮されていないことが判明したからだ。
「ラクス様が土曜日は参加されるから、あたしらも参加するさ。あんたのとこの武人様は、相当お強いらしいから、あたしらは三人で仕掛けさせてもらおうと思ってた。」
「それはいいんじゃないか。それぐらいじゃないと楽しくないだろう。」
 金蝉は、別荘には行くが、武闘会は観戦のみだ。悟空の暴れる様を観戦して楽しむつもりだから、完全に他人事になっている。たまには、凹にされろ、と、捲簾と天蓬の姿を思い浮かべて微笑んでいたりする。
 そこで、ふと気付いたのだが、それを口にしたら、面前の傭兵たちが、噴出して肩を震わせた。
「ニールの娘なら、三蔵の娘になるんじゃないのか? 」
「ラクス様は、そのおつもりだろうけど、三蔵は、全否定だよ。」
「それ、三蔵には言わないほうがいいぜ、金蝉さん。」
「まったくだ。確実にキレやがるからな。」
 俺は暗黒妖怪を娘にした覚えはねぇーと、普段から全否定している坊主の姿を思い浮かべて、三人は笑い転げている。ただし、それを女房の前では言ってない。言ったら、「うちの子たちを差別しないでください。」と、叱られるからだ。



 土曜日の朝に、捲簾と天蓬が寺のほうへ戻って来た。それまで完全に雲隠れしていたので、何日かぶりに上司様たちも顔を合わせる。とはいっても、挨拶も何もなく、どっかりと卓袱台の前に腰を下ろしているだけだ。
「三蔵、本当に行かないのか? 」
 本日から日曜まで一泊二日で別荘で武闘会をやることになっている。単なる『吉祥富貴』のレクリエーションなのだが、三蔵は行かないと宣言していた。
「行かねぇ。」
「ニールもか? 」
「俺、この間から出入り禁止なんですよ、捲簾さん。」
 すいませんねーと、寺の女房は、コーヒーを置くと、そこから外れる。まだ、家事の最中であるらしい。
「まあ、いいじゃありませんか、捲簾。夫夫ふたりっきりでやることもあるでしょうし。」
「悪ぃ、間男もいるんだけど? 」
 ハイネは、すでに経験済みだから、こちらで休みだ。今日は、のんびりモードだから、パジャマに半纏スタイルでコーヒーを飲んでいたりする。
「おや、ハイネ、リベンジはしないんですか? 」
「あんたらが西への遠征から戻ったら、もう一回リベンジさせてもらう。今回はスルー。」
「短期間、鍛えても効果はないと思いますけどね。」
「いや、戦法を考えるさ。」
「無駄なことを。」
「そうでもない。三蔵さんか悟空と組む。どう? 」
「ふーん、悟空だと、ちとヤバイか。」
「だろ? 」
「それは戦法じゃないと思いますが? ハイネ。」
「それぐらいのハンデがなきゃやってられないよ。あんたら、強すぎて。」
 うだうだと、天蓬たちが会話している視線の先には、裏庭で洗濯物を干しているニールと悟空の姿がある。何やら会話が弾んでいるらしく、ふたりして大笑いしている。
「いい光景ですね? 三蔵。」
「いつものことだ。」
「だが、いい光景だ。悟空の柔らかい笑顔っていうのはいいもんだな。」
 晴天の雲ひとつない空に洗濯物がたなびいている。そして、家庭菜園には、緑の野菜が生えていて、そこだけを見ると、とても幸せな家庭というものがある。実際には、家庭というものではないのだが、寺にもそういうものができているという証拠だ。
「生活費足りないなら、うちのカード使うか? 三蔵。」
 今時、洗濯から乾燥まで全自動でやってくれるのは、上司様ご一行だって知っている。そして、あの家庭菜園、どう見ても食べるものしか植わっていない。そこから鑑みて、金蝉は口にした。
「足りてる。あれは、うちのの趣味だ。寺院の管理手当は振り込まれてるぞ、金蝉。」
「それは、本山からの意向だ。俺たちのほうからじゃねぇーよ。カード渡したほうがいいんじゃないかって、どっかの菩薩が言ってたからだ。」
「また、仕事増やすつもりだろ? 今のところ、俺は動く気がねぇーって言っとけ。」
 悟空が、楽しそうに学業やらバイトやらに精を出しているので、三蔵としては、今は動きたくない。世界が崩壊するほどの危機だというのなら、しょがないと重い腰を上げるだろうが、そうでないなら、現状維持したいのだ。
「バカですねー三蔵は。貰えるものは貰っておけばいいんですよ。辞令が出たら、三味線を弾いて五十年ほど流しておけば、踏み倒せます。」
 何食わぬ顔で、踏み倒し指南している天蓬も、視線は悟空に向けたままだ。あの笑顔が何よりの癒しだ。あれを護りたくて、自分たちは戦ったからだ。



作品名:こらぼでほすと 闖入3 作家名:篠義