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運命の人

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獄寺 隼人


「どうりでさっき妙な感じがしたと思ったぜ・・・・・・10代目、なんで選りによって・・・・」
付き合い始めて一ヶ月の、元同級生の現恋人から、敬愛して止まないボスが六道骸を見初めたと聞いた俺は頭を抱えた。
驚くよりもついに来たか、と思ってしまったのは、ボスが奴を気にする素振りを隣でよく見かけたからだ。
学校でなんだか嬉しそうな10代目に声を掛けて、リボーンに内緒で骸に会った、などと聞いて唖然としたり。
10代目に何かが起こるとき、奴は収監中でさえ守護者の役目を果たしていた。
誰よりマフィアを憎み、だからこそマフィアの何たるかを、誰より知っている男。
六道のやりくちのえげつなさは、ボンゴレの生きた伝説になって久しい。
雲を見たら逃げろ、霧を怒らせたら死ね。他ファミリーでは冗談ではなくそう言われているらしい。
雲雀の凶暴さ、六道の非情さはこの業界ですら轟いている。
原則、守護者は皆、小物に手を出したりはしない。奴とて同様で、腹いせひとつにも格を選ぶ。
例外は10代目の身に何かあったとき。あの方に銃を向けたファミリーはどれひとつ現存していない。六道が塵一つ残さず潰してしまった。
直接危害を加えようものなら、下はパシリから上はボスまで連座扱いで文字通り死んだ方がマシな目に遭っている。
実際、同じファミリーの奴が温情として安楽死させたなんて話は飽きるくらいに聞いている。
兵は拙速を以って尊しと為すというが、ならば奴は正しく10代目の優秀過ぎる私兵だ。
ファミリーのためには小指一本動かさないくせに、10代目のためなら地球を半周した場所に平気で有幻覚を飛ばしてくる。
優しくていらっしゃる10代目がほだされたのも無理はない。
ああ、やっぱり10代目が好きだったんだな、六道。

「やー、額縁がないのが申し訳ないみたいな眺めだったのな。ツナは隠れメンクイだからなー、俺でもちょっと目が離せなかったし」
「ほー。同じ男を口説いた割りにはあっさり浮気したな。山本、果たす」
「だから俺はお前一筋って、獄寺、ちょ落ち着け!?」

六道以外の守護者を集めた。夜明け近くの時間で、10代目が疲れきって寝たのを、俺は何度も確認して、パジャマ姿のそれぞれに声を掛けた。
キャバッローネにくっついて寝ていたらしい雲雀の機嫌は最悪で、トンファーを避けるのが大変だった。・・・奴はこれを初対面から見切ってたんだっけな・・・
他のメンツも眠気の残る顔をしていたが、議題を切り出すと流石に全員、冷水を浴びせたように目を覚ました。
「僕もテラスで見ていたよ。妙な組み合わせで群れてると思ったらそういうことになってたんだね」
でもまあ、いいんじゃないの。我関せずと雲雀はつぶやく。
「雲雀、お前、自分がディーノと付き合ってるからってな」
「沢田の甘さを中和するなら丁度じゃない?六道はバカじゃないしね」
俺も極限応援するぞ、と以外なことを言ったのは笹川兄。こいつは断然ノーマルだと思ってたら、他人の嗜好にとやかく言わない性分の延長らしい。
「沢田はここ10年よく頑張った。恋人くらいは好きにしてよかろう。六道ならばボスのパートナーだからと狙われたところで、簡単に倒されたりはしないしな」
お前は、と武を振り向くと。野球バカはふと底光りする目をした。・・・・口説かれたときを思い出して、ちょっとどきっとする自分が情けない・・・・
「ツナと六道、真逆に見えて以外に共通点も多いのな。タイプは違うにせよどっちも結構なカリスマっていうか。組織の長で仲間想いで自分は二の次、あと」
どっちもマフィアを否定していて、人生選びようない追い込まれ方してる。山本はそう言った。
「俺はツナが幸せならいいのな。六道はツナを大事にしてる。いい理解者にもなれると思う」
それは保障する、とクロームが細い声で、しかしきっぱりと言い切った。
「骸様、ビンデチェにいた頃から、ボスと夢で会っただけでしばらくご機嫌だったから・・・今でも直接顔見られるだけで嬉しいみたい。なんとなく分かるの」
ほんの少女時代から臓器を委ねていた女に言われると、このうえない説得力がある。
「ふたりがずっとふたりでいてくれたら、私すごく安心だし嬉しい」・・・・後半は右腕としちゃ同意しかねるところだが。
ランボが控えめに挙手。
「僕もボンゴレが幸せになるなら、たとえ相手が男だろうと応援したいです。結構お似合いだと思います。あと、こんなこと言っては何なんですが」
「もったいつけんな、アホ牛」
「あの六道さんに恩を売る機会なんてもう二度とないんじゃないかなー、なんて」
クロームを除く全員が漣のように首を振る。・・・・・・・まあ俺もちらっと思ったことだからな、動機はどうあれ人助けなんだし。


「意見が一致しちまったな。じゃ、具体的にどうするかだ。できれば昨日話した彼女と、本格的に会う前になんとかしたいところだが・・・・・」
「一服盛れば?確実に両思いならちょっとくらい順番が狂ったところでどうってこともないでしょ」
元風紀委員長にあるまじき問題発言をさらりと言ってのける雲雀。慣れないうちは罵倒していた俺でも、今は溜息しか出てこない。
「10代目、薬には大分耐性がついたってシャマルが言っててな。六道には簡単に見破られる気がする」
「あの、どちらかに両思いだって伝えれば済む話じゃないんですか?」
いっそ常識的なランボの意見は、あの二人の10年を知らないお子様ならではの見解、かもしれない。これには武が応えた。
「だと思ったのな、俺も初め。ツナに骸もお前を好いてるって言ったらさ。骸をボンゴレのど真ん中に引きずり込む真似はしたくないだと。六道は基本自分で見聞きしたことしか信じないしな」
・・・・・・今更だ、と全員が呆れた顔をした。ということは、六道のアクションがない限りふたりの仲は平行線だろう。
「せっかくの誕生日だ、来客全員の前で公表してしまえばどうだ?」
さすが笹川兄。発想が違う。
「出来上がるものも壊れると思うぞ芝生頭・・・・・」
「何か理由をつけて、ボスに骸様の家に泊まってもらうのはどうかな。ボスお酒入るだろうし、明日は今日以上に疲れるだろうから」
登場したそのときから、見た目に似合わない大胆さを持つ守護者の紅一点。俺は姉貴がいるからさして驚かないが、女って生き物は以外に怖い。
「えぇっ、大胆過ぎませんかクロームさん、そりゃ男ならチャンスって思うでしょうけど」
「そうだね。奴に護衛がてら自宅に連れて行けといえば?僕らに内緒の隠れ家の2つや3つ、六道が持ってないはずないからね」
一夜を共にしても動かないような根性なしならもう知らないよ、と雲雀は可笑しそうに言う。
「よし、日付が変わったら六道にボスを引き渡す。みんな、六道を会場に入れるなよ。あと、10代目が抜けたあとのフォロー頼む」
ただでさえ霧の守護者は表に顔を出さないことでも有名だ。珍しい幹部、それも極上の色男が出てきたらあっという間に肴にされて離してもらえない。
面白がったり真剣だったり苦笑したり、それぞれの表情で一同が頷きを帰し、それぞれの部屋へと散った。

「お前はもーちょっとゴネると思った。意外なのな」
作品名:運命の人 作家名:銀杏