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こらぼでほすと 闖入4

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 障子を閉めて、さらに奥へと進んでいく黒子猫に、捲簾が立ち上がる。誰何に答えないこちらにも非はあるが、さらに答えないままに、家の奥に進む黒子猫も強情だ。
「捲簾、静かに足止めしてください。騒いだら、ニールが起きます。」
 女房の注意に、そういや、ニールが脇部屋でダウンしているな、と、気付いて走り出す。黒子猫は足早に回廊を進んでいく。どこの誰とも判らない相手だから、勝手に寺を闊歩されるのは捲簾も気分が悪い。
 本堂へ昇る回廊の階段で、その首根っこを掴まえようと手を延ばした。しかし、するりと、その手を擦り抜ける。
「待て。」
「おまえたちに用はない。」
 振り返った黒子猫は、そう言い放ち、階段を昇る。だから、誰なんだよ? おまえは、と、ぼやきつつ捲簾も階段を走る。脇部屋の障子に手をかけているので、ようやく、その首根っこを掴まえた。
「待て。そこはダメだ。」
「離せ、俺が、俺のおかんに逢うのに、おまえたちは邪魔するつもりか。」
「おかん? 」
 どちらも、中で寝ているニールを考慮して静かに声を出しているのだが、「おかん」という言葉に、捲簾が問い返す。
「ここにいるのは、俺のおかんだ。」
「だから、おまえ、誰なんだよ? 」
 ぐいっと首根っこを引っ張ると、抵抗される。おかんだと言うのなら、ニールのほうの連れ子か、と、捲簾も気付いた。悟空の話では、四人ばかり、ニールには連れ子があって、年に一度か二度ずつ、連れ子が顔を出すとは聞いている。
 誰何していても埒が明かないと思っていたら、脇部屋の障子が勝手に開いて電気が点けられる。四つん這い状態でニールが顔を覗かせた。
「・・・刹那?・・・」
「ニール、動くな。」
 だが、刹那は捲簾に首根っこを捕まれた状態だ。なんかやらかしてきたな、と、おかんは息を吐き出す。
「捲簾さん、うちの子、何か失礼をやらかしましたか? 」
「名乗らねぇーから、誰何してたんだ。これは、おまえの連れ子か? ニール。」
「はい、そうです。あーすいません。まだ、礼儀がなってなくて・・・それは刹那と言います。・・・・刹那、ちゃんとご挨拶してくれ。そちらは三蔵さんの本山の上司さんだ。」
「俺には関係ない。」
「なくはない。俺の看病をしてくれた人たちに、そういう態度なのか? 初対面の人には、自分から名前を言って挨拶するのが礼儀だ。潜入ミッションのマニュアルに、そうあっただろ。」
「おまえは横になれ。・・・・刹那・F・セイエイだ。俺のおかんが世話になった。」
 最低限の挨拶をした刹那は開放された。おかんに近寄ったら、こっちからは拳骨を食らう。そして、捲簾のほうを向かされて、頭を下げさせられた。
「『はじめまして』と『ありがとうございました。』が抜けてるだろ。・・・すいません、捲簾さん。」
「だが、ニール。こいつらも名乗らなかった。警戒して当たり前だ。」
 余計なことを言ったら、さらに、親猫に拳骨を食らう。普通、目下のものから自己紹介して挨拶するものだから、刹那からするべきなんだ、と、滔々と説教までされる。
 その騒ぎで天蓬と金蝉もやってきたので、同じように挨拶させて、ニールが苦笑する。
「現役テロリストちゃんだったんですね。」
「ニール、起きてていいのか? 」
 挨拶を受けて、上司様ご一行も自己紹介はする。その途中で、くしゅんとニールがクシャミをしたから、刹那は慌てて脇部屋に、おかんを引き摺りこんだ。熱はないですか? と、天蓬の延ばした手を、黒子猫は払い落とす。ふっしゃあーと威嚇音を鳴らした子猫の状態だ。
「刹那っっ、すいません、天蓬さん。」
 おかんのほうは、大慌てだ。亭主の上司に喧嘩を吹っかけているような態度はまずいどころではない。
「いえ、必死にニールを護ろうとする態度は可愛いもんです。・・・・ちちちちっ、ちびテロリストちゃん、おかしは食べませんか? 」
 それは、猫にする態度だろう、と、残りの捲簾と金蝉は呆れているが、天蓬はお構いなしだ。
「お腹が空いて気が立っているかもしれないでしょう。ちびテロリストちゃん、僕らは、あなたのお母さんに危害を加えるつもりはありませんから安心してください。」
 毛色の変った子猫に、天蓬は興味深々だが、子猫は、おかんの背中に手をやって威嚇している。
「刹那、メシ食ったか? 」
「食った。」
「いつ? 」
「三日ほど前に最後の携帯食料を口にした。だが、まだ大丈夫だ。耐えられる。」
 うん、そうだな、と、おかんのほうは黒子猫の答えに、がっくりと肩を落とす。それは、三日前から絶食状態ということだ。食ったとは言わない。冷凍庫のものをチンすれば食べられるものがあるから、とりあえず、それを食べさせようと思うのだが、身体が動きたくないと抵抗する。起きているので手一杯の状態だ。
「冷凍庫に、いろいろと入ってるからチンしてこい。メシはあるはずだ。」
「まだいい。あんたのほうが先だ。」
 ずるずると親猫の身体を布団まで引き摺って、そこに横にする。ゆっくりと横にして、「おまえこそ食ったのか? 」 と、尋ねる。この調子だと、ほとんど食事もしないから、先に親猫の世話をするつもりらしい。
「ママには、メシを食わせてあるぞ、ちび。」
「そういうことなら、捲簾、適当に見繕って運んでさしあげればいかかですか。ちびテロリストちゃんは、ママから離れたくないみたいですし。」
 そうだな、と、捲簾が踵を返す。悟空の夜食にするつもりで、いろいろと作っていたから、それを運んでくるつもりだ。
「捲簾さん、いいです。こいつ、自分でできますから。」
「まあ、そう言ってやるなよ、ニール。久しぶりに帰って来たんだろ? 」
「おまえが相手してやらないと、俺たちでは、どうにもならんだろう。そこで食わせろ。」
 金蝉も、そう言って回廊を戻っていく。残るのは、最凶の元帥様だけだが、こちらは黒子猫の観察に余念がない。
「すいません、天蓬さん。」
「いいえ、こういう時は、お互い様です。・・・この子、コーディネーターですか? 」
「ナチュラルですよ。でも、育ちが特殊なので、普通ではないですね。・・・刹那、風呂に入って来い。お湯を張ってないから、そこからやって頭もちゃんと洗えよ。」
 うっすらと汚れている黒子猫に、親猫が声をかける。帰ってくる度に、こんな状態なので、毎度のことだ。着替えは、一部、こちらにも置いているので、それを用意するのに起き上がろうとして、黒子猫に止められる。
「風呂は入るが、あんたは寝ていろ。」
「いや、着替えが・・・・そこのタンスにさ。おまえじゃ、わかんないだろ?」
「指示を出せ。俺がやる。」
「あそこのタンスの三段目。下着もパジャマも入ってるが・・・冬物はあったかな。」
 刹那が前回、戻って来た時は、秋だった。その前は梅雨だった。そこいらから考えると、こちらに置いてあるのは冬物ではない。悟空のパジャマなら着られるか、と、起き上がろうとして、今度は天蓬に止められた。
作品名:こらぼでほすと 闖入4 作家名:篠義