こらぼでほすと 闖入5
三蔵の言われて、真ん中の骨を齧ろうとする黒子猫を、女房が慌てて止めている。その横で、悟空が、ばりばりと骨を噛み砕いているのだが、そっちは大丈夫と思っているのか注意はしない。
「悟空はいいんですか? ニール。」
一応、天蓬がツッコミは入れておく。
「悟空は歯が丈夫みたいで、干物の骨ぐらいは食べられるんです。刹那は、そこまで歯が丈夫じゃないんで。」
「折れたことでもあるのか? 」
「いえ、それはないんですが・・・こいつ、子供の頃の栄養状態が極端に悪かったんで・・・・そういうとこが弱いんです。だから、成長も遅れてたし身長がなかなか伸びなくて・・・」
そう言われてみれば、ちびテロリストは悟空よりも小さい。年下だとは聞いているが、確かに身長は低いかもしれない。
「なあ、ニール。でも、こいつ、現役テロリストなんだろ? 鍛えてるんじゃないのか? 」
「もちろん、訓練はしてますよ。ちゃんとマイスターの基準はクリアーしてますが、骨密度とか身長なんかは標準以下なんです。」
「うるさいっっ、ニール。少しずつ身長も伸びてる。」
はぐはぐと食事しているちびテロリストが、ふしゃあーと親猫にも威嚇するような声を出す。
「うん、そうなんだけどな。・・・おまえさん、食事の手を抜くからさ。」
「携帯食料とサプリメントで必要なカロリーは摂取している。」
「刹那、それだけじゃダメなんだぞ? おまえ、小食だろ? もっとがっつり食わないと体重が増えないんだ。カロリー以上に摂らないと変んねぇーんだぞ。」
悟空も、からかうように、そう言って、どんぶりメシをかきこんでいる。悟空も身長は高くないが、筋肉の付き具合は、刹那とまったく違う。人外とはいえ、そこいらは、肉弾戦をやるために鍛えている証拠だ。
「この子、いくつなんですか? 」
「十九歳です。」
「「「はい? 」」」
どう見ても十代半場だろうという大きさだ。上司様たちは、一斉に納得した。そりゃ、それなら気になるだろう。
「これでも身長は伸びてんだぜ? なあ、刹那。」
「ああ、十センチは伸びた。・・・ニール、おかわり。」
「はいはい。ちゃんとした食事してれば、もう少し伸びると思うんですけどね。こいつ、放浪している時は、携帯食料しか食べてないから。」
肉とか魚も摂ってくれればいいんですが・・と、ニールは苦笑しつつ、黒子猫にごはんを渡す。お代わりはいかがですか? と、上司様たちのほうにも声をかける。
「ずっと、ニールが世話しているんだろ? それでも、どうにもなってないのか? 」
お代わりを貰って、金蝉が口を開く。これだけ甲斐甲斐しい世話をされているのに、それが解消されないのか、と、疑問に思ったからだ。
「組織に入った時に、刹那が小さかったので世話係を拝命したんですが、なかなか懐かなくて・・・・それに、常時一緒というわけでもなかったので。」
「え? 懐かない? 」
このベタベタ状態は、どういうことだよ? と、捲簾もチャチャは入れる。
「野良猫みたいでしたよ? スタンダードも上手く喋れなかったから、意思疎通するのも時間がかかりました。」
「うるさいっっ、ニール。」
「そんな恥ずかしがらなくてもいいだろ? 本当のことじゃないか。」
威嚇する黒子猫の背中を撫でながら、ニールは微笑んでいる。以前のように、組織に属していたら、常時一緒ではなかったが、もっと頻繁に顔を合わせていた。それができなくなったから、刹那は甘えているのだと説明する。
「で、現在は、ベタベタなんですか? 」
「離れてるから、逢ってる時は、余計にそうなるんじゃないんですか? 」
「こいつは完全なマザコンだ。」
三蔵も、ニヤリと笑って、たばこに火をつけている。戻っている時は、ほとんど親猫の傍から離れない。MSの整備やラボでの仕事があろうと、毎日、寺に帰ってくるほどのベタベタぶりだ。今だって、ニールの隣りにちょこんと座って、干物の骨を外してもらっている。また、ニールがなんとも幸せそうな顔なのだ。黒子猫の世話を焼くのが嬉しいらしい。
「ライバルですね? 三蔵。」
「連れ子と亭主じゃ、立場が違うだろうが。こいつは寺から動けないんだ。俺からは離れねぇーんだよ。」
「そう言い切るなら、女房孝行もすればいいのに。」
「してるだろ? 」
どこが? と、上司様三人が同時にツッコミだ。十日ばかり観察していたが、女房に何かしているのを見たことがない。けっっと、亭主がそっぽを向くので、女房のほうが、孝行してくれていると思われることを口にする。
「たまに、デートしてくれますよ? それから、呑むのに付き合ってくれるし。・・・後は・・具合が悪い時は看病もしてもらってます。」
「「「デート? 」」」
「あーみんなが思ってるよーなのじゃねぇけどさ。さんぞーとママで、散歩したり昼ごはんを外食したりしてるぐらいだ。」
悟空が誤解のないように実情は語る。共通の趣味がないので、出かけたりしても日用品の買い物をして、ファミレスで食事なんていうお手軽なものだ。それでも珍しい部類ではある。寺の夫夫にしてみれば、お互い、適当に暮らしているので、補う部分は補っているという感覚だ。
「デートなら、間男とのほうが多いだろ? 」
「買出しはクルマが必要ですからね。そういや、悟空、ハイネは?」
いつもなら、こういう悪天候の日はハイネが居候しているのだが、なぜか、今回は顔を出さない。
「ハイネはバイトで遠征してる。今日から、トダカさんが居候するって言ってた。」
「ああ、そうなのか。」
「たぶん、シンたちも顔は出すと思うぜ。でも、動いたらダメだかんなっっ、ママ。刹那、しっかり見張ってろ。」
「わかっている。こいつは、休ませておく。」
「うるさいよ、おまえさんたち。」
「あんたの看病は、俺の義務だ。」
「そーそー、刹那とのんびりしてりゃいいんだ。天気が良くなったら、おまえもどっか出かけて来いよ、刹那。フェルトやティエリアも、ママとデートしたからさ。」
「あ、そうだ。パンダ、見に行こうぜ、刹那。三蔵さんが出張する本山のほうにいる生き物なんだけど、動物園にいるんだ。」
「うん、それいいな。もう暑くないし、いいかもしんない。でも、全部歩き回るのは危険だから、そこいらは調整しろ、刹那。」
「パンダ? 動物園? 」
「うん、うちのほうにいる動物なんだけどさ。変ってるんだ。」
うん、と、黒子猫は悟空の言葉に頷く。天候さえ落ち着けば、それくらいのデートは、ニールもできる。
「みなさんも、ご覧になってるんですよね? 」
「パンダって、大熊猫のことですね。ええ、まあ、見知っていますけど・・・あれ、珍しいんですか? 」
「俺が住んでたほうの動物園にはいませんでした。」
「あれなら、麒麟のほうが珍しいと思うんですが・・・ああ、そうか。地上の動物ってことになると、希少動物になるんでしたね。」
「キリンは、うちのほうの動物園にもいましたよ、天蓬さん。パンダの飼育をしているのは、世界でも数少ないです。」
作品名:こらぼでほすと 闖入5 作家名:篠義