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なつおみはる
なつおみはる
novelistID. 23650
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On Your Mark

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ただ単純に陸上をすることが不服なわけじゃあない。日本で、俊足で利き脚のボレーシュートが通用しても、世界では全く歯が立たない。それがわかったユース。ストライカーが不在な日本。それはサッカーの天才・翼さんが中学時代にMFを選んでしまって、こぞってサッカー選手がMFをするようになったって有名なハナシがある。これは極端な話かもしれないけど。だからこそ、タフで決定的な得点を作りだすストライカーが必要だ。その上、岬先輩のように中盤をサポーティブに動けるわけでなし、松山さんのようにチーム全体を冷静にみて自分の役割をチェンジできる器用さもない。サッカーセンスが皆無な自分の性格からして、ゲームメイクというよりはサポートを受け走り回るフォワードはただ単純にあっている。でも、いろいろなことを考えると、本当は、サッカーにこだわる必要なんて本当はあったのか?正直、そう思うことも、なかったっていったらウソになる。堪えたのはユースだ。いくら走り回っても点が取れないんだ。中盤のサポートすることをおぼえたのはいい傾向だって思ってるけどさ。
「…もし、もしも、陸上やってさ、陸上の方ができる!って思っちゃたら、じゃあ今までのオレは何なわけって思うんだ」
「…」
そうさ、いろんなことに気づいてしまうのが怖いんだ。しばらく沈黙があった。その後、
「先輩はよく陸上を勧められてましたもんね。でも」
は~とため息をつきながら杉本マネ。
「私なんて選ぶもの何もないですよ、あれもできてこれもとか。取り柄なんてない。でも先輩はいいもの持ってます。一度くらい、できるときに他のこと、楽しんでみたらいいのに」
「…」
笑顔で切り返された返答は、意外にすっきりしたものだった。そっか。何だか奥深いハナシ。こいつってただぺちゃくちゃ話すだけじゃないのかも。ちょっと感心してしまった。同時に、年下の、しかも女の子に諭されるのが癪に感じ、抗いたい気持ちが湧き起こった。
「おまえ…ほんとなまい…」
口を開きかけたとき、杉本の視線がまっすぐ前を直視していた。
「あ」
南葛西町駅の階段の下、夕日に照らされて長身の影。見たことのある人物だった。


 長身の影の主。おおらかな雰囲気は変わりない。黒のポロシャツに膝丈ジーンズ。
「よっ」
「井沢先輩、どうしたんすか?」
相変わらず背が高い。髪も長いし。
「んー今日明日オフ、社会人だから」
「練習は?」
「ちょっとサボり」
先輩がサボり?と思ったが、口には出さない。横浜から静岡まで新幹線で1時間程度とはいえ、そんなに気軽に帰ってこれるものなのか。それに、それに、さっきから杉本の様子がおかしい。
「マネージャー、久しぶり」
「…ひさしぶりです」
いつものくるくるした雰囲気とは違い、明らかにおびえるような、そんな感じ。久しぶりの先輩に目も合わそうとしない。
「私、先に帰りますね、お2人でごゆっくり」
「お、おいマネージャー」
慌しく日の暮れかけた商店街の方にかけていく。
「…なんだあ~?へんなの」
「いいんだよ」
井沢先輩がにっこり笑う。
「元気だったか?柏遠いけど、顔出してんのか?」
二人のちぐはぐした雰囲気に混乱しながら、今までのいきさつをしゃべった。
「ふーん。で、自分、どうしたいの?」
「どうしたいって」
どうしたいんだろ。
「どうしたいかわかんないうちは、まだ自分の中で決めてないんじゃないのか?杉本は、選択肢が多いうちに楽しんどけって云ってたんだろ」
駅近くのバス停のベンチで、サイダーをあおりながらため息をつく。しばらく沈黙。サイダーのしゅわしゅわした音が静かに聞こえる。商店街のおでん屋のちょうちんも火が入る。
「ま、コメントがあいつらしいけどね」
「?」
「あいつ、他に何か云ってなかったか?」
「…いいえ」
最近知ってしまった、元好きだった人がそろそろ結婚するのだということが頭をよぎった。が、これは伏せておく(つーか南葛組なら当然知ってるかも知れないけど)。そこを話題にしまうのは男としてどうかと思う。もう一度残ったサイダーをあおる。
「新田、オレ、どうやったら杉本をおとせるかな」
「…!!」
唐突なコメントに思わずむせる。鼻の奥が炭酸でもろイタイ。
「せ、先輩!!」
「なんだ、その反応」
くっくっくっと肩を震わせている。ほんとに可笑しいらしい。オレは衝撃をくらう。
「!?おとすぅ??」
「意外か?」
「…ま、まあ、どっちかってえと杉本がおちるんじゃないかと…」
しろもどろになりながら思いつく言葉を並べた。
「や、オレがね、おとしたはずだったんだけど、ぷいってさあ。おとされたふりしてたらしい」
「???」
「いつの間にか反対になってたんだよ」
…意味不明…。この、どこまでも男前で頭いい、そして何よりおおらかな井沢先輩を落とした?杉本が?
「…い、いつの話ですか?」
「んー、ユースの時はまだ何もなかったな」
「そ、そおなんですか?」
「そうだな、帰ってからかな?ユースの後、マリノスに入るまで間があったろ」
「ええ」
「その時にね、いろいろ」
そ、そうか。中沢先輩と翼さんのことも、高校に入学してからもしばらくわからなかったけど、オレの知りえぬところでいろいろなことが起こるものなんだな…。
「まったく、翼には負けるよ、サッカーでも、好きな子でも」
ため息まじりの井沢先輩の声が聞こえた。コメントが出来ない。
「色々選択肢はあるのにな。どーもな、気に入ってたらすでに奪われてんだよ」
「…」
「杉本だけにあらず、ミッドフィールダーとか。…ブラジルに行ったらチャンスとか思ってたけどなかなかね。女はやっぱ難しいし、東邦にだって勝てなかった。それが実力」
「先輩」
「ないものねだりかな、やっぱ」
ないものねだり…なのか。じゃあ、「ないものねだり」にこだわってしまうのはなぜだろう。どこかで鈴虫が鳴き始めた。

ないものねだり、かあ。オレは、井沢先輩の言葉を反芻した。誰かと比べるってのは、外野のハナシだ。オレはオレ。そう思ってる。自分の可能性をサッカー以外で見つけるなんて、できない話だ。陸上はほんと興味がないし、サッカー以外はやりたくない。でも、ほんとこのままでいいのか。決定的なシュートを、ユースの時は一回も打ってないぜ、オレ。興味がなくてもやな気分がしないなら、杉本のいうようにいろいろやってみたらいいんだろうか。
「お前のように、足が速いとか、それしか向かないとか思っている方がいいよ」
「え?」
「オレはそこそこ色々できてしまう。自慢じゃないけど勉強もそう、そこそこできてしまうということはそこで満足しちまうわけ」
「…」
うそだあ、と正直思ってしまった。もしそうなら、マリノスなんか入ってねえだろって。そこで満足してないから、
「でも先輩、そこで満足なんかしてないから、断らなかったんでしょ、マリノス」
「…」
「こういう、世間一般の親が云うにはケガがつき物な、博打みたいな職業、選んでないっしょ」
しばし沈黙のあと、
「ただ単に楽しいだけだよ、何も考えてない。サッカーはそういうもんだろ」
「…」
「今は、そうじゃあないんだよね。単純に思えたことが、違う。結果を残せないとベンチだし、下手したらずっとベンチだ」
「…」
作品名:On Your Mark 作家名:なつおみはる