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なつおみはる
なつおみはる
novelistID. 23650
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On Your Mark

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「自分にあるものを他人が持っていて、うまく使いこなしちゃうかもしれない」
「…」
「ま、オレはいろんな意味で経験済みだったから、そうそうへこまないけどね」
少し重いことを言われた気がした。杉本の恋愛話とどっちがいいかっていうとどちらもオレには難しいけど。はっきり思ったのは、遠くもない未来にそうなるかも知れない自分がいるってことだった。

「瞬、早く風呂入っちゃいなさい」
「あーわかった!」
階段下からおふくろの声。ここ数日色々な話を聞いて、ため息をつきたくなる。考えることはなかなか苦手だ。試合もないけど、思い切りボールが蹴りたくなる。走って走って走りまくって、吹き飛ばしちまいたい。あ~。
「瞬!」
「あー何?!」
「電話よ、杉本さんて方から!そっちにまわすわよ!」
!!オレはベッドから落ちそうになる。自室の子機を取る。
「夜分ごめんなさい。寝てました?」
「い、いや、何か?」
「あのー聞いてもいいですか?」
杉本はどんな時でも率直だ。時々馴れ馴れしく感じることもあるが、いざという時でも意見を言うことができる。
「何を?」
「井沢先輩のことです」
やっぱな。
「何か言ってました?」
オレは正直に言うことにした。
「気にしてた。正直驚いたけど、サッカーが好きな先輩が、何も用がないのに南葛に帰ってくるかなあと思ってさ。…優しくしてやれよ」
しばらく間があって、受話器の向こうからため息が漏れる。
「わざわざ、横浜から来るなんてさ、仕事さぼって。すごいよほんと…」
言葉が終わらないうちに
「そんなの頼んでないです、私」
突っぱねた返答が帰ってきた。明らかに意地だということがわかる。…なんでそうかたくななわけ?
「頼んでなくても、好きでいてくれてるんだよ。もう翼さんは結婚てしまうんだろ。しょうがないじゃんか。井沢先輩はいい人だぜ。おおらかで、優しい人だってわかってるだろ」
と云ったとこで、しまった、と思った。こんな直球の物言いは傷ついてしまう。
「あ、いや。ごめん…」
「いえ。新田先輩は知ってたんですね」
「…あーまあ。井沢先輩とのことは知らなかったけど」
全然そういうことわかんないけど。
「…そうですか。新田先輩から見ても井沢先輩はいい人なんですね」
「そうだな。サッカーに関しては厳しい先輩でもあるけど、楽しんでなんでもするおおらかな先輩だよ」
自分の先輩の印象を精一杯アピールするオレ。そういう申し分ない人を目の前にして、杉本はいったい何を迷う必要があるんだ。
「…ありがとうございます。いい人だってわかってるけど、でも、私には合わないです」
オレは子機を取り落としそうになる。オレも直球ならこいつも直球だ。
「なあ、ちょっと聞いてもいい?なんでそんなに頑なになるわけよ。すげえ申し分ない人だぜ。翼さんよりはそばにいてくれると思うんだけどさ」と中沢先輩の日本放置状態からいろいろ想像してコメントする。
「翼さんじゃないとやっぱだめとか?」
「翼先輩はもう…大丈夫なんですけど」
あ、そうなの?肩透かしを食らう。
「じゃあ何なんだ」
しばらくして、
「…」
ごにょごにょなんか云ってる杉本。?。
「何て?小さくてなんか聞こえないんだけど」
「…だからですね、カラダ合わないんです」
ブッ!!カラダアワナインデスだあ?
「それはいわゆる…あれ?」
「そうです」
「…」
…なんだか、たぶんオレの思考範疇を越えたんだと思う。自分でもぷしゅっとタマシイが抜けてしまったのが分かった。
「ごめん、オレ、そういうの何とも言えないや」よわよわしく電話を切ろうとするオレに、
「先輩、先輩の走る姿、見せてください」
「…」
「絶対、すっきりすると思うんです。先輩が決めかねてること」
「…」
ショーゲキを受けた後で、聞く気も起らないが「考えとく」それだけ言い残して電話を切った。

芹沢の3回目のトライで、結局オレは走者になることにした。100mなんてトレーニング以外で走ったことはないけど。
「優勝狙うなら、陸上部に頼めよ。オレは走るための練習はしてないし」
と念押しで言ってはみたものの、芹沢は引かなかった。高校最後の記念に走っとけよ、そう云いながら、サッカー部の練習が終了したあと、100mを走る練習に付き合ってくれた。サッカー場は味方ゴールから相手ゴールまで100mもないから、本気で走ると意外に長い距離ということが分かる。しっかし、味気ない。でもやるからにはやらないと。
 相変わらず杉本は屈託なくしゃべりかけてくる。こいつは大人なのか子どもなのか、一途なのか噂どおりの小悪魔なのか。片思いしていたという翼さんを「もう大丈夫」だというし、井沢先輩はいい人でも(カラダがどうとかで、カラダってなんだ!?)ダメ。…あいつから出る言葉に翻弄されているオレ。ま、かんけーないっちゃあ関係ないが。ちょっと気になってしまうのも確かだ。「出ることにした」と伝えると、「そうこなくちゃ先輩じゃないような気がします」と分かった風に言ってのけた。

 どうこうしながらいつの間にか来た体育祭当日、秋晴れという言葉が似合う快晴。1年から3年の同じクラスでグループ分けを行い点数で競い合う体育祭である(つまりAクラスだったら1年から3年までA組が1グループ)。7クラスあるから、7グループ。種目はいろいろ。ミニゲームもあるし、剣道、柔道、チアの演技なんかでも点をつける。そんなに気張らなくてもいいけど、一応、クラスが入賞したり誰かがMVPをとったりすると、ご褒美(学祭でミスター・ミス南葛とデートか、自分が希望する異性とデート)があったりする。このご褒美が曲者で、先生も含め皆、どこまでも黙認。後に構える学祭ではツアー並みのデートコース(オールタダ)。オレにはどうでもいいことだがさすが自由な校風、南葛高校。お堅い修哲高なんか行ってみろ、絶対ウラご褒美で燃え上がることなんてない。我らがCクラスは順調。昼の時点で、2位だった。
 芹沢は燃えていた。その上、噂ではちょっと気になる人がいるのだそうだ。しかも陸上部のアピールにはいい機会で気を張ってるってわけ。そういうのでサッカー部を仕切らなくていいのかって?南葛高サッカー部は他の先輩方が頑張ったからいいんだよ(つーかサッカー競技は体育祭では無し)。そして、練習だってしてる。冬の国立目指して。ちなみに、昨年、一昨年とミスターは岬先輩だった。杉本は昨年の準ミスだったな。小悪魔め。
 昼飯中、芹沢が話しかけてきた。
「クラス優勝したら、どうする?」
「どうするって…何も考えてない」
「いいことがあるだろ」
「いいことって卒業に向けてクラスが盛り上がるってことか」
「お前はまじめだな。もっと本能的に」
「?」
芹沢は切れ長の目をますます鋭くさせる。短距離では目立った活躍はしていないが、1500m競技では県2位の実力の持ち主だ。大学も京都へ陸上の自己推薦で行くらしい、とは聞いている。唐突に芹沢が、
「杉本、かわいいよな」
運動場の端で、友人と共にけたけた笑っている杉本を首でしゃくる。
「はあ?」
「俺さ、クラス優勝したら絶対デートに誘うぜ」
作品名:On Your Mark 作家名:なつおみはる