春夏秋冬
ある雨の日、彼はずぶ濡れのまま言った。
「はないは、おれを否定するんだ」
練習が終わり、傘を持っている者は悠々と、そして持って来なかった者が急ぎ足で自転車置き場へ向かう中、田島はひとり、雨に降られたままで立っていた。
折りたたみ傘を広げて近づくと、睨みつけるようにこちらを見て、田島は言った。
雨の音に負けぬ声で言った。
「花井は、おれを、否定するんだ、いとも簡単に。否定したりするんだ。花井は、おれがいなくてもいいんだろう。いない方が、いいんだろう」
黒い、カラス色の髪から雨粒が流れる。
それは頬を伝い、首筋に零れ落ちた。
ざあざあ、ざあざあ。
雨の音、おだやかな春雨。
射抜くような目だった。敵意にも似たものだった。持っていた傘が手から滑り落ち、知らず足が震えていた。ざあざあ、ざあざあ、おだやかな春雨。おれは目を見開き、田島の、鳥のような目を捉える。
否定した覚えはなかった。けれど田島がいない方がいいなんて、答えられるわけがなかった。
ざあざあ、ざあざあ、雨の音。
おれが息を詰め、黙ったままでいると、田島は唇を噛み締め、よわむし!とおれを罵った。
まるでこどもだ。
こどもの癇癪のようだった。
眉を寄せ、こちらを見ている。目には、かなしみの色がありありと滲んでいた。
それでもおれは、何も答えることが出来ず、俯いたままでいた。田島はそんなおれを見限り、雨の中、走って姿を消した。