舞花~第一章~
第一章 ―まだ知らぬ花―
規則正しいノックの後、
入ってきたのは優秀な副官リザ・ホークアイ。
「准将、今月もきておりますが。」
「そろそろ限界か…」
リザから受け取ったものは、
淡い黄色の和紙で出来た封筒。
宛名はロイ・マスタング准将殿。
送り主はフラウズ学院。
中から出てきたのは花祭への招待状。
「なかなか諦めないな。」
フラウズ学院というのは、簡単に言えば花養成所。
花は花専用のフラウズ学院で暮らしている。
そこで自分に合った芸だけでなく教養や護衛に必要な武術等を学ぶ。
そして、12歳になったら花祭に参加できる権利が与えられる。
花祭の主催ももちろんフラウズ学院。
花祭への招待状は全てフラウズ学院から送られてくるのだ。
ロイが招待状を貰うのは初めてではない。
今までに何十通も受け取ってきた。
昔は、花は花主の護衛という役目も担っているため、
命の危険性の高い軍人には縁の無い存在だった。
だが、現在の大総統が大総統就任と同時に花を傍に置いた。
そうして何かがふっきれたかのように上層部に花を持つものが次々と現れたのだ。
その結果、今ではすっかり軍人でも花を持つことは当たり前になっていた。
「諦めが悪いのはどちらですか。」
「私は少年を飼う趣味など持っていない。」
「では、我々の仕事の邪魔にならないようにきちんとお断り下さい。」
リザの怒りは頂点に達しようとしている。
それもそのはず、昇進し中央勤務になってからというもの、
上層部からの仕事の量ならぬ嫌味の量が凄いのだ。
普段からの嫌味にプラス花をいつまでも持たないことへの嫌味。
これが大半を占めていた。
あまりの嫌味の量に被害は部下達にまで及んでいる。
ロイが花を持つ持たないはどうでもいいリザだが、
ただでさえ、移動で仕事が多いのに無駄な仕事が増えるのは黙っているわけにはいかない。
「明日、花祭に参加していただきます。」
問答無用、決定事項です。と言ってドアに足を向ける。
「まっ待ちたまえ!」
「今のあなたは邪魔なだけです。」
顔だけこちらに振り返り、部下とは思えぬ言葉を放ち足早に執務室を後にした。
残ったロイはすっかり固まってしまっていた。