舞花~第一章~
―蕾―
こんなに夕方になるのが早かったと感じるのはいつぶりだろう。
ロイは今、正装を綺麗に着こなし花祭へと向かう車内に居た。
運転をするのは今晩のロイの護衛でもあるリザ。
ロイはハボックにと言ったのだが、リザに殺されかけて断念したのだ。
「准将、会場では今のようなやる気の無い態度は控えて下さい。」
「・・分かっているさ。」
「花を買えとはいいません。
ですが、これ以上仕事を増やされては困ります。」
「・・あぁ、分かっている。今日はそのために来たんだ。」
「よろしくお願いします。」
「あぁ。」
「着きました。」
「着いてしまったか。」
「私は車を置いてきますので。」
「分かった。」
フラウズ学院の正面にある建物。
これが花祭専用の会場、花の庭【フラワーガーデン】。
それはなんとも絢爛豪華な造りになっていた。
(まったく、金の無駄遣いだな。)
気分がどんどん悪くなっていく。
それでも、これ以上は避けていられない。
ロイは重い足をなんとか動かし花の庭へ入っていく。
入り口部分では4人の花が出迎えをしていた。
招待状を見せると一人が案内役として同行することになった。
「蕾の藍です。よろしくお願いしますマスタング准将。」
「つぼみ?・・あい?それが君の名前なのか?」
「『蕾』というのは花祭への参加がまだ認められていない学院生のことでございます。
『藍』というのは私の花名【かな】でございます。フラウズ学院の学院生は皆、それぞれ花名が与えられます。」
「本名は?」
「名乗ることは禁じられています。」
「何故か聞いても?」
「出生を明かさぬためでございます。」
藍の話はロイにとって初めて聞くものばかりだった。
花を買う人によっては、その花の出生を知りたがる者も居る。
それは今後の芸の上達を予想する上で知りたいものも居れば、ただ素性を知りたいものも居る。
だが、花になる者は様々だ。
芸を生業に生きたい者。
親を亡くし、頼りが居ない者。
親に捨てられた者。
親に売られた者。
それらが花同士で知られてしまわないよう。
花を買う側に知られてしまわないよう。
花には花名が与えられる。
「君は・・藍は何が得意なんだい?」
「剣舞でございます。」
「剣舞、それは良いね。」
「はい、憧れの方が居るんです。その方の影響で、」
「そうか。」
「はい。」
見た目はまるきり少女。
長い髪を結い、化粧を施し、服装だってあまり素肌は見せないようなものだがドレス。
だが、その瞳は本当にただ夢を追う一人の少年だった。
ロイの中で『花』というものが少しづつだが変わっていった。