舞花~第一章~
―捨てられた花―
「箔様・・・・」
「花というのは花主を選べないのか?」
「・・・そうです。」
花は花主を選ぶことは出来ない。
花は選ばれ、それに従うしかない。
「あの箔という子は不運だったな。」
「確かに、箔様は不運でした。でも、今は箔様に花主はおりません。
箔様はあの地獄のような呪縛から逃れたというのに・・まだあの手でっ!!!」
「・・藍、落ち着きなさい。
箔はグレイグ中将の花ではないのか?」
「・・・・・違います。
花にとって花主は一人。花主にとっても花は一人です。
同時に二人の花を引き取ることは禁止されています。」
「そうなのか、では・・」
「・・はい、箔様はグレイグ中将に捨てられた花・・です。」
「捨てられた花・・・・・」
捨てられた花は花としての命がつきたも同じ。
グレイグ中将は箔と一言二言話すと、箔の傍を離れた。
そしてグレイグ中将に寄り添っていた花が華舞台へと上がった。
それを確認し、ロイはどんどん顔色の悪くなる藍を連れてその場を後にした。
外の空気を吸ったのか藍は落ち着きを取り戻した。
そしてゆっくり話し出した。
「箔様は私の憧れの方なんです。
剣舞は箔様の一番得意とする芸です。
それはそれは美しいんです―――
箔はフラウズ学院に入りすぐその頭角を現した。
剣舞に関しては右に出る者がいないほど。
箔はすぐに蕾から花となり、花祭へと参加した。
初のお披露目で箔は見ていた全員の心を奪った。
花を探していた者はもちろん、花を既に持つ者も箔を買いたいという人で溢れた。
その美しさもそうだが、芸に関しても申し分ない箔の金額は簡単には出せないものだった。
大勢の人が諦めていく中、グレイグ中将だけは諦めなかった。
花祭の度に訪れ、箔の剣舞を見ていく。
そんなことが3ヶ月続き、とうとうグレイグ中将は箔を手に入れた。
箔もそんなグレイグ中将を信頼していた。
それから箔は剣舞を益々極めていった。
花祭では華舞台へと上がり、その場にいる全員を魅了する。
喜ぶグレイグ中将を見ると箔もまた嬉しかった。
だが、それに良い思いをするものたちだけではない。
箔は影で他の花主や花から嫉みによる嫌がらせを受けるようになっていった。
そしてある日、箔は舞台の上で転んでしまった。
たったそれだけのことだった。
失敗なら誰にでもあることだが、箔はそれを許されなかった。
周りの者達はここぞとばかりにその失敗をひやかした。
そして恥をかいたグレイグ中将は豹変した。
箔に虐待をするようになった。
練習でも失敗をするたびにグレイグ中将は箔を殴り飛ばした。
フラウズ学院も日に日に痣が増えていく箔に気づき、グレイグ中将に注意をした。
それがいけなかったのか、それからは殴りはしないもののもっと残酷な仕打ちが待っていた。
「・・・まさ・・か、」
「確かに、花主と花でそういう関係になるものも居ます。
ですが、それはお互いがそれを求めているから成り立つのです。
花は人身売買ではありません。花主の好きにしてもいいなんてことはありません。」
箔は毎晩のように無理矢理やられるその行為に必死に耐えていた。
なぜなら箔は出会った頃の優しいグレイグ中将を慕っていた。
自分が上手に舞うことが出来れば、上手くなればと必死だった。
フラウズ学院が箔を心配し、話を聞こうとしてもずっと黙っていることを貫いた。
本人に否定され、学院側はそれ以上どうすることも出来なかった。
そうして箔はとうとう限界を越えた。
衰弱した体で無理な練習を続け、左足を痛め。舞うことが出来なくなったのだ。
何かがプツンと切れてしまったように、グレイグ中将は殴り続けた。
グレイグ中将宅から聞こえるにぶい音と、箔の叫ぶ声を聞いた人から連絡を受け。
フラウズ学院の教員達が駆けつけたときには箔は血まみれで動かなくなっていた。
なんとか命は助かったものの、
リハビリをすればいつかまた舞うことが出来るだろうと思われていた左足は絶望的な状態に悪化していた。
そして右腕にも障害が残ってしまった。
箔はもう二度と舞うことの出来ない体になった。
そしてグレイグ中将は箔を捨てた。