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犀と歩く

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おかしな彼。
出会ったときから、自分ひとりが傷ついた顔をしていた。降りしきる雨の中を、傘も差さずに出ていこうとしたので「傘は?」と問いかけたが、「不要だ」と端的に答えた。
声に抑揚はなく、傷ついているんです、と口には出さないが、そんな言葉が背中から滲み出ていた。
おかしな彼。
「濡れていくの?」「いつか乾く」「乾かなかったら?」「風邪を引いて寝込んでもいいさ」「自虐的だよ、実りがない」「実らなくっていい。実らない方がいい」
そんなやりとりをした後、彼は走って行ってしまった。
セカンドチルドレンを失った彼は小鳥のように脆弱で、痛々しいほどの傷を抱えたふりが上手だった。だって彼は、弱くもない、儚くもないのだ。
意外に図太いし、何度でも立ち上がる。
おかしな彼。
見ているとたのしくて、見続けていたら、いつの間にか好きになっていた。




作品名:犀と歩く 作家名:夏子