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観用少年

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Episode.2


「通称は骸、でしたっけ。ご丁寧に名前まで不吉な・・・本当に持って帰るんですか、10代目」
獄寺は困惑を隠さない。命より大事なボスに、縁起の悪いものを近づけたくないと全身で語る。綱吉の母親に贈るバッグの手配を済ませ、車のドアを開いて危なげなく主を迎えた。
友人兼側近の、いつもながら鬱陶しくも有難く、嬉しい憂いに綱吉は口元を綻ばせる。年齢で言えば己と等しくひよっこの彼は、妙に迷信深いところがある。
「とりあえず俺の超直感は、大丈夫って言ってるよ。・・・・よろしく、骸。騒がしいところだけど、我慢な」
見た目を裏切らずさらりとした髪を撫で、本物の子供にいいきかせるように、人形に言葉をかけ。
「どうしました、10代目」
運転席から声をかけられる10秒後まで。
人形から返されたほのかな微笑に、綱吉は、瞬きも忘れて見入っていた。
(俺、死ぬより先にショタコンになったらどうしよう)
押しも押されぬマフィアのドンとして、思考するだけで家庭教師に3回は殺されそうなことを思った。

「骸、おいしい?」
翌朝、朝食の席。綱吉はトーストに卵、コーヒーとサラダをほおばりながら、テーブルの角を挟んだ右斜め45度を見やる。
スモック風の室内着姿のプランツ、こと骸は、両手で人肌のミルクのカップを傾け、こくりと頷いた。
「おいダメツナ。ドンが人形にやに下がってんじゃねえ。そういういっちょ前の顔をしたけりゃとっとと愛人の一人や二人作りやがれ」
4人の愛人を持つと豪語する一歳児の家庭教師の苦言に、ボンゴレの若きボスはむっと唇を尖らせる。
「めんどくさいよ。モデルだか女優だか知らないけどこっちが取って食われそうなド迫力の美人ばっか紹介されたってさぁ?俺は普通に恋愛したいの」
「だからって男の分際でダッチワイフに男のガキを飼うか?ファミリーの皆が見たら泣くどころかドン引きだぞ」
「骸はそんなんじゃないって!いいじゃんか可愛い子を見るくらい!獄寺くんもディーノさんも、どんな高級車よりすごいステイタスシンボルだとか言ってたし」
綱吉自身は一人っ子だが、ひょんな事情が重なって、小さな子供の面倒は見慣れている。
今も、傍らの人形の、小さな口角の泡をぬぐってやる。爪でやわらかな肌を傷つけないよう、そっと。
美少年としか見えない人形は、恥ずかしそうに顔を赤らめ、カップを置いた。
(ああもう可愛い!ランボとかと大違いじゃんか!マジどうすんの俺・・・・なんか人生間違えそうだよ・・・!!)
食事そっちのけで身もだえする教え子に、今度こそ家庭教師は銃を突きつけた。

「10代目、時間です」
「うん。じゃ、行ってくるね、骸。いい子にしてて」
右腕と頼む青年の迎えに頷き、綱吉は試用中の人形を振り向いた。
背に広げられたコートに腕を通し、前のボタンを合わせていると、獄寺がおわ、と声を上げた。
「おま・・・・何?」
見ると獄寺のスラックスを、綺麗な人形が掴んでいる。
「どうしたの、骸?」
綱吉が骸の肩に手を置くと、藍色の頭はマホガニーのデスクを振り返った。
「机・・・・?」
「10代目。まさかとは思いますが、」
心得た綱吉は、人形の手を腹心から振りほどくのではなく、机の中身で最も大事な物を出した。
「グローブを持っていけって?」
イクスグローブ。今は毛糸のミトンだが、綱吉が戦う時にはなまじのミサイル以上の破壊力を持つ代物だ。
果たして、人形の華奢な手が懐刀の足を離れた。
「一応、味方とはいえ付き合いの浅いファミリーです。こいつも何か感じたのかも。念のためお持ちになった方が」
獄寺は顎に手を添え、人形に同意した。
「あんまり相手を刺激したくないんだけどね・・・・獄寺くんが言うなら」
溜息未満の嘆きを口にした綱吉はその時、会合の帰り道で複数ファミリーの数十人に待ち伏せされることまでは予想していなかった。
作品名:観用少年 作家名:銀杏