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観用少年

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Episode.3


「おおっ、これがツナの人形か?・・・・・・・・・・・やー、こりゃ・・・・プランツはいくつか見たけどよ・・・・」
綱吉は(部下を連れたとき限定で)頼れる美青年を呼んだ。同じマフィアのドンとしての先達、ドン・キャバッローネことディーノ。
綱吉の故郷では典型的王子様と称されるだろう外見と、地位に相応しい男気を備えた兄貴分は、鳶色の瞳を瞬かせて骸に見入った。
会合で顔を合わせ、良かったら寄ってくれと頼むと、ファミリーを立て直した実績を持つドンは快活に弟分に応じてくれた。
「こいつの色違いの目を見ただけで死ぬってことだったが・・・傾城ってことならまあ妥当だな。モノが違いすぎる」
別格だと折り紙をつけ、改めて骸に向き直る。
「俺はディーノ。よろしくな、別嬪さん。おまえさんの通り名は呼びたくねぇんだ、勘弁な」
人好きのする笑顔を、人形目線で向ける。と、骸が椅子から降り、ディーノの右手を両手で取って軽く握り、目を合わせてから離した。
「・・・・・・・・・・・ツナ。これ、お前教えたの」
唖然と自分の手を見つめる美丈夫に、綱吉は溜息をついた。
「まさか。さっきディーノさんが俺の先輩だよって教えただけですよ。ていうかリボーンにはそっぽ向いてます・・・」
俺の先生だからって何度も言ってるんだけど目も合わさないし。ヒバリさんが来たときは寝たまま起きもしなかったす。
先代とか父さん、獄寺くんや山本には全然頷いたり首振ったりするんですけど。
そう言葉を繋ぐと、ディーノはからからと笑った。
「まあドールが人を見るのは当たり前だぜ?俺も気に入ってもらったってことなら、まあまあ器量があるってことか?」
再び人形を振り向き、ディーノは二度目を見開くこととなった。
人形は、あるかなきかの笑みを、口の端に浮かべていた。まるでわが意を得たりと言うように。

「確かにドールっていったらさ、癒すものってイメージが強いがな、そりゃ持ち主に限った話だ。独占する権利に高い金払ったって言ったって過言じゃねぇ。こいつの態度は間違っちゃいないぜ。ま、ツナの交友関係にヒビが入るっていうなら部屋から出さないこった」
人形のいいところは、退屈したってご主人様が構ってくれりゃ大人しくしてるってことだからな。
ひらひらと手を振って兄貴分は帰っていった。
「そうは言ってもさ。やっぱり閉じ込めとくのもアレだと思うしね」
傍に立つ獄寺に、もっと構ってあげられたらいいんだけど、と愚痴半分に呟く。
「考えすぎだと思います。基本あんま歩いたりもしないもんですし。ま、こいつはいろいろ変わってますがね。俺も気をつけときます」
右腕に、まあねえ、と生返事を返した。
当の骸は、我関せずと大人しく綱吉に抱かれ、肩に掴っている。確かに考えすぎかもしれない。
店から人形を借り受けてからそろそろ10日、翌日に見せた千里眼を試すような珍事も特に起こっていない。
こうしてかわいらしく腕にいる分には、どこまでも愛らしいドールだ。
(あと、20日か)
あっと言う間にレンタル期間の3/1が過ぎてしまった。
それなりに急がしかったとはいえ、仕事の合間に見せてくれる微笑は、ホットチョコレートより甘く疲れを癒してくれる。
いなくなったらさぞかし寂しいだろうと思うが、本来の名前の手がかりは全く得られていない。
(骸が喋れたら、話早いんだけどな。絶対好かれてるし)

夕食後、バスルームを使い、パジャマに着替えた綱吉は、骸の夜具を用意し忘れたことに気づいた。
何故か主が着替えさせることを嫌がり、身を引くので一式置いて背を向けたらきちんと一人で着替えたので、以降任せていたのだ。
「ごめん骸、今出すから。・・・・・・骸?」
品よいフリルのナイトガウン、藍色の絹のパジャマ。さてどれにしようかと広げていると、ベッドに座った人形があらぬ方向を向いている。
緊張は見えず、どこかぼうっとしている風情が発熱した子供に似ていた。
まさかと思い額に手を当てると、特に熱くはない。
「どうしたの」
頭に手を載せると、ちいさな手が、どこか遠慮がちに綱吉の手をひいた。わがままを聞いて欲しいのだというように。
「どこかに行きたいの?」
こく、と頷きが返ったので、抱き上げてドアを開き、得心がいった。
腹心のピアノが、微かにきこえてくる。・・・・あまりに日常のことなので、このところ気に留めていなかったのだが、人形には珍しいのかもしれない。
きゅ、と肩を掴む人形の頬が、すこしだけ上気しているのがほほえましかった。
「近くで聞かせてもらおうね」
賢しい印象の際立つ人形が、あからさまな喜色で首を揺らす様子は、平素に似合わず子供らしかった。
(ああ・・・・・今の獄寺くんにも見せたら夜通し弾いてくれたんじゃないかな)
グローブの一件以来、右腕はこの人形を買っている。密かに骸の手がかりを集め、前のオーナーの関係者を割り出し、話を聞きに行ったりと、名前のことを調べている様子があった。

「10代目、起こしちゃいましたか?あ、俺こんなかっこで」
「いいんだ。君のピアノ、骸が聞きたいみたいでさ。俺もそういえばちゃんと聞いたことなかったなって思って」
綱吉と同様、パジャマにガウンの姿で眼鏡をかけ、母のピアノに向かっていた右腕は、主を見て飛び上がった。次いで腕の人形が頬を染めているのに気づき、伝染するように赤面し、目を泳がせた。
「いいすよ、何弾きましょうかね」
「今のを続けてくれたらそれでいいと思うよ」
あーハイ、と照れくさそうにグランドピアノに戻り、危なげない運指が軽やかな旋律を紡ぐ。CDでも出せ、と山本が冷やかす技量が素人目にも明白だった。
「茶色の小瓶のアレンジです」
「かわいい曲だよね。・・・・・・ああ、すごく嬉しそう」
潤んだ目を見張るようにして集中する人形を膝に乗せ、綱吉もまた聞き入った。
どこか理知的で、耳にあたたかいメロディーは、奏者の人柄をそのまま映している。
次いでラヴェルの小品を2つに、締めをキラキラ星の原曲で。
「気に入ってもらえました・・・・・か」
綱吉の拍手に振り向いた獄寺の表情が見る間に赤くなる。
膝の人形をみると、綱吉も初めて見るような全開の笑顔で、ぺちぺちと手を打っていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・10代目の気持ちが今わかりました。こいつ、絶対姉貴に見せないほうがいいすよ。即効拉致られます」
触っていいすか、と呟き、さらさらと指で藍の糸を掬っては、息を吐いた。
「や、いつでも弾くぜ?・・・・・・・・・・・・つか、マジ名前分かんなかったら城売って足しにします10代目。親父はそろそろ老人ホームにでも」
「獄寺くん。そこまでしなくていいから!」

作品名:観用少年 作家名:銀杏