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観用少年

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Episode.4


久しぶりに、奇妙な夢を見た。
とても懐かしいような、よく知っているような誰かに再会した夢。
甘いような苦しいような余韻だけが胸に残っている。
傍らの人形は、瀟洒な飾り彫りのある子供用の椅子に行儀よく座り、色違いの瞳を閉じていた。
「俺は・・・・・・誰に会ったんだっけ」
焦燥ではなく、切なさなのは、思い出さなくても良いということ。己の力と長く付き合ったせいで、少しは分かってきていた。見透かす力が向く先は、外に限ったことではないことも。
指輪が見せた、過去のボス達の想いの名残だろうか。
それとも、幼い日のいつかに出会ったひとだろうか。
沢田綱吉は、眠れないと承知で目を閉じた。

骸がボンゴレ本部に来て、ちょうど半月後の朝。
綱吉が身なりを整え、執務室のドアを開けると、ちょっとした騒ぎが起きていた。
「おはようございます、10代目。・・・・まだ復旧しないのか、ジャンニーニ」
「いえ、もうちょっとで・・・・ああ、完了です。もう使えますよ」
まるっこい体にボンゴレの各種技術を一身に担う男が、額をハンカチで拭きながらいくつかの端末を広げていた。
「よくやった。そら、撤収だ」
「はいはい、・・・お茶の一杯くらい頂いてもいいと思うんですがね・・」
ぶつくさと呟く男に、いつになくしおれた様子で、霧の守護者こと凪がグラスを差し出す。
「・・・アイスティー。良かったら飲んで・・・ごめんなさい・・・・」
「ああ、すみませんね、凪さん」
氷入りのグラスを一気に煽る男と、嵐と霧、二人の守護者を交互にみやり、綱吉はトップとして当然の一言を口にした。
「ねえ、何があったの?」
「10代目が気に病むようなことじゃないです。ただのサーバダウンですよ、・・・ファイルとメールの」
「え?このあいだメンテしたんじゃなかったっけ」
「私が悪いの・・・」
凪が、心から申し訳ないという風情で、一通のメールを指差した。
差出人は凪、宛先はファミリー全員のメーリングリスト。
文面はただ一行、
「ボスがこのプランツドールを借りています。通称骸、本名がわかれば買えるそうです。情報求む」
下にリンクが一行、ボンゴレのファイルサーバの共有スペースが記されていた。
開くと、骸がダイニングテーブルについてにっこりと笑っている写真。
「ここにアクセスが集中したらしくて・・あと、」
凪のメールアドレスに、返信が秒刻みで溜まっている。
件名はそれぞれだが、内容は全て、
「このドールにどうすれば会えるか、と」
なるほど、と綱吉が頷いたとき、やや性急なノックが響いた。
どうぞ、と綱吉が促すと、数人の男女が一礼して入ってきた。
「すみません、ボス。施設課の者です。念のため、個人と法人両方の保険業者を・・」
「ちょっと、まだ骸は俺のじゃないってば」
綱吉の言葉が終わる前に、小さな歓声が上がる。振り向くと、骸がクマの着ぐるみ風パジャマ姿で、目を擦りながら出てくるところだった。この騒ぎで起きてしまったらしい。
(昨日ちょっと遅かったから、寝かしておいたんだけどな・・・・・)綱吉の配慮は無駄どころか婀娜になってしまった。
「かわいい・・・!」「ボス、ちょっとだけだっこしてみていいですか?!」
大人数人に凝視され、少し物怖じするように骸は下がり、綱吉の後ろに回って隠れ、スラックスを掴んだ。途端にギャラリーが沸いた。業務にかこつけて人形を見にきたらしいが、綱吉には責める言葉などない。
(普段、俺やXANXUSが物壊す度に散々迷惑かける人たちだからな・・・)
状況が変わらなければあと半月でいなくなる、愛らしい子供。あまり疲れさせることはしたくないが、ボスの人形となれば避けられない過程だ。溜息をついて綱吉は骸を抱き上げた。
「触るのはだめ。結構人見知りするんだよ、こいつ」
綱吉の腕の中で落ち着かなく視線を彷徨わせ、骸は綱吉の胸元に顔を埋めた。綱吉が首を支えるように手を添えてやると、そのまま安心したように寝入ってしまう。
アンジェ、と綱吉にもわかるイタリア語を誰かが呟いた。全力で首肯する胸中を表には出さず、綱吉は骸の旋毛を撫でた。
人形の売主の言葉通り、このプランツは軽くボンゴレ本部の建物に相当する価値があるらしい。保険を組むとしたらオーダーメイドになるため自社の支払い能力も含めて試算する、と調査員は言った。
「この天使みたいな子を査定するだなんて。因果な仕事を選んだものだと今初めて思いましたよ」
ベテランの保険調査員は苦笑顔で立ち去った。

「お前、やっぱ人気者だねー」昼前、綱吉は、セーラー服姿の骸を抱えて本部の各部署を回っていた。
これまで綱吉は、骸の存在について、ファミリー内に秘密にした訳ではない。が、公表することもしなかった。自分のものになると決まった訳でもないプランツを宣伝するのが躊躇われたからだったが、結果として皆の好奇心を煽る形になることまでは考えが及ばなかった。
ファミリーの皆が「ボスの(特別高級な)私物」に、一方ならぬ関心を持ちつつも、遠慮していた状況は、一本のメールで脆くも崩れてしまった。
朝から入れ替わり立ち替わり、本部中の構成員が列を成して執務室につめかけたため、綱吉はリボーンと獄寺を拝み倒し、自分から皆の仕事場を回ると放送をかけたのだ。
行く先々で、骸は歓声を浴び、お菓子をもらい、隙あれば触ろうとする大人げない大人たちに晒される羽目になってしまっている。
・・・・副産物として、「大変だボスが巡回に来るぞ!あの古ファイルの山を何とかするんだ!」という騒動が各所で起きたことが、綱吉の超直感にひっかからなかったことは、誰にとっても幸いといえただろう。
以後、メールで済んでいた報告書を、綱吉の執務室へ持参しては部屋を見回して落胆する者が続出したことはいうまでもない。

「そうですか。この子が・・・γ、どう思います?」
同日、午後3時。ふふ、とやわらかな笑みを浮かべる可憐な賓客は、傍らの従者兼フィアンセを見上げた。
ジッリョネロファミリーのうら若い女ボスは、配下の男との婚約を報告に綱吉を訪問していた。
「人は見かけに縁らないですから。まして人形なんて、自分には判断がつきませんね。姫のものになるというならともかく、ボンゴレならば心配するのも失礼というものでしょう」
ファッション誌から抜け出たような見目良い男は、顎に手を当て軽く眉を寄せたが、人形の迷信染みた風評を気に病むというよりは困惑の表情である。
当の骸は、二人にひたりと視線を向けたまま動かない。どんな表情もそこにはなかった。
「あれー?僕の意見は聞いてくれないのかな、ユニちゃん」
「まあ、白蘭。すみません、この子に見とれてしまって。・・・・あなたはどう見ます?」
その場の3人目の大空、護衛と称してユニについてきた白い青年は、にこやかな笑みを口に浮かべたまま紫の瞳を探るものに変える。途端、びくりと骸が背を強張らせた。
断固として白蘭を振り向かない様子から、綱吉は膝に骸を抱き上げて肩を撫でてやる。
こんなにあからさまに誰かを恐れる人形を見るのは初めてだ。
(白蘭・・・・・やはり危険な男なんだろうな)
作品名:観用少年 作家名:銀杏