観用少年
こと、人を量ることにかけては人後に落ちない綱吉が、かつてなく判断に迷う相手でもあるのだ。この上なく強いと感じるし、決して温和な性質ではないと思う。掴みどころがなく、何を考えているのかよくわからない。加えて、性格や強さといったものではない、得体の知れなさがどうにも落ちつかない。
実際、出会いからしてボンゴレとジェッソ、両ファミリーの配下同士の諍いをユニが取り持ったのが初めだった。
そもそも白蘭が下っ端をけしかけた節さえ否めないと、ボンゴレ幹部の主だった者たちすべてが目下の仮想敵とする男である。
白蘭が人形の正面に廻ると、骸は俯いて対峙を避けた。
「んー、そうだねぇ・・・あは、ボク嫌われてるっぽいかなぁ?」
よくわかってるじゃないか、白蘭。胸中でだけ、綱吉は呟く。大丈夫だよ、と骸には語りかけながら。白蘭は骸の正面に膝をつき、顔の高さを合わせた。
「この子自身が良いか悪いかっていうのは、ボクにはちょっと難しいなぁ。ただ、圧倒的に綱吉クンの味方ではあると思うよ・・それこそ、全ての次元で、ね♪」
それから声を潜め、綱吉にも聞こえない声で言葉を紡いだ。
「そんな姿を選んでまで、綱吉クンの傍にいたいんだね。いっそいじらしいなぁ・・・安心してよ、骸クン。ここでは誰も殺す気はないからさ。って、キミ、覚えてないんだっけか」
その日、夕方。
「わー、ちょっと待ってビアンキ!」
「うるさいわね、男のくせに」
胡乱そうに振り返る赤毛の女の一睨みにたじたじとなりながらも、綱吉は粘る。
だって足早に歩く女の手には、
「骸持ってかないで!そいつまだ借り物なんだよ!」
「だからうちの城とワイン畑を担保にしていいって言ってるじゃない。隼人もいいって言ったんでしょ」
そう。ピアノを弾く獄寺の傍で微笑する人形を、リボーンに会うべく本部を訪れたビアンキが見てしまい、即座に抱き上げ連れ去ろうとしている。
悪いことに彼女は素顔だった。途端に腹を抱える獄寺の肩に手を置き、口が利けないなりに心配を表現する極上のドールの姿は、毒サソリの母性愛を刺激するに十分過ぎた。申し分のない容姿を備えた女だけに、人形は似会わなくもないのだが、当の骸は困惑を隠さない。
「持っていってもビアンキのものになる訳じゃないんだってば」
「わかってるわ。借りるだけよ、ほんの一年かそこら」
「長いよ!」
わあわあと廊下で言い合いを始めるふたりに、リボーンが割り込んだ。
「悪いがビアンキ。そいつはオレと相性が良くねぇんだ。オレかそいつか、どっちか選べ」
「あら・・・・・残念ね、愛には替えられないわ」
あっさりと骸を絨毯に下ろし、「むさい男の中には勿体無い子ね、連れていけなくてごめんなさい」と呟いた。
そして、深夜。
「結局朝から晩までそいつの日でしたね、10代目。・・・・・・まあ、姉貴がお前をあっさり諦めただけ良かったぜ、骸」
肩をぐるりと回して、獄寺は椅子で眠るドールに微笑みかける。当初と打って変わり、今は弟分以上ではないかと思うほどの溺愛ぶりだ。
余分な用事が増えた分、手が回らなかったボスの仕事を片付けてくれた右腕の言葉に頷くと共に、綱吉は獄寺にコーヒーを差し出して労った。
「うん、本当にありがとう、獄寺くん。あと、わかったこともあったよ。やっぱりこいつに、呪いとかの力はないってさ。ユニは大抵のことは俺より勘がいいから」
―――――確かにこの子には、強い力と意思、悲しい過去があるようです。でも、主を不幸にする類の力ではありません。あまり詳しいことは、この子が嫌がるようなので・・・
「はい、俺も同じ意見です。どんな結果があったにせよ、骸に悪気はなかったでしょう。それと、クロームのメールに、気になる返信が」
獄寺は、メールをプリントアウトしたらしい紙を、綱吉に差し出した。
返信者の名前と所属に目を走らせると、2代目からの子ファミリーを仕切るボス。情報はまずソースを確かめる、家庭教師から帝王学の一貫として叩き込まれた基本だ。
忠犬とすら渾名される男が、手書きで加えた訳文を一読し、息を呑む。
曰く、
「この子は初代の霧の守護者、D.スペードによく似ていると思います」