二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

こらぼでほすと 闖入6

INDEX|3ページ/6ページ|

次のページ前のページ
 

「もう運んで来たものは諦めてください。それより、いい茶葉が手に入りましたの。さあ、ママ、味見してくださいな? 刹那、プリンもシュークリームも、たくさんあるから召し上がってください。」
 用意したお茶を畳に置いて、ヘルベルトとマーズに、歌姫様は合図する。ゆっくりと、布団から起こされて、マーズがニールの背後に座り込んで座椅子の代わりをしてくれる。
「まあ、文句言ってないで、この紅茶を飲みなよ、ママ。いい香りなんだ。」
 ヒルダも、ニールの抗議を遮るように声をかける。各人、カップを手にして、こくりと飲む。甘い香りの紅茶だが、人口甘味料の香りではなく自然なものだ。
「これ、オレンジティーか。」
「ええ、新茶の茶葉に、オレンジの皮を干したものが入っているのです。いかがです? 」
「うん、いい香りだ。」
「ママのアップルティーに対抗できるものを見つけたので持ってきました。」
「あれは・・・おまえさん。」
 ニールが作るアップルティーは、本物のリンゴの皮が入っている。それも、剥いたすぐのリンゴの皮を紅茶に浸して作るので、香りと味が染み出すのだが、とっても家庭的なものだったりする。 皮がもったいないから、なんていう理由で作る代物だからだ。
「でも、あれはフレーバーティーでは味わえません。」
「そりゃそうだろーよ。・・・オレンジの皮は生だと渋いからな。ちゃんと干すといい塩梅になるんだなあ。」
 もちろん試した結果、こりゃまずいと、オレンジの皮の再利用は諦めたので、干せばいいのなら、これも作れるな、とか、ニールは考えている。
「おまえ・・・また新しい再利用を考案しようとしてるな? それとこれを一緒にするな。これ、最高級の茶葉なんだぞ、ニール。」
 セレブリティーなイザークが、即座にツッコミだ。ここんちで出てくる飲み物というのは、そういう創意工夫系が多い。
「わかってるよ、イザーク。こんな大層なもんは、うちには向かないだろ? 」
 百グラム云々なんていう高級な飲み物は、寺では勿体無い。なんせ、年少組が大量に押し寄せるので、大量に消費することになるからだ。
「まあなあ、ここんちで、こんなもん出してたら、金がいくらあっても足りないよな。」
 ディアッカは大笑いで、そう肯定する。牛乳なんて、パック単位で消費されるのだから、最高級なんて言ってられない。プリンも、いかがです? と、歌姫様が差し出してくれたのは、親猫から黒子猫に渡された。
「先に食べてみな? 刹那。」
 スプーンで一匙掬って、黒子猫が口に入れたら、その勢いのまま、もきもきとプリンを食べる。相当おいしいらしい。
「あらあら、お気に召したみたいですね。では、ママも。」
 はい、あーん、と、歌姫様にスプーンを差し出された親猫も、それを口にする。するっと融けるように口当たりで、それほど甘すぎない。
「美味いよ、ラクス。」
「では、もう少し。」
「自分で食うから、おまえも食いな。」
 プリンの器を手渡してもらって、自分で口にする。溶けるような口当たりなので、食欲がなくても口にしやすい。

 ひとしきり、当たり障りのない話題で茶話会をして、時間が来たので、と、歌姫様ご一行は退席する。見送りしてくれ、と、親猫に命じられて、黒子猫が玄関までついていった。山門の前には、クルマがすでにスタンバイされている。
「刹那、報告のデータありがとうございました。現地の状況がよく掴めました。」
 振り返り、見送りに来た黒子猫に、歌姫様は礼を言う。あっちこっちの情報は掴んでいるが、現地の生の情報というのは難しい。そういうことも、実のところ、調べておきたいのだが、いかんせん、『吉祥富貴』のスタッフでは手が廻らないのが実情だ。
「礼はいらない。おかんの世話をしてもらっている。」
「いえ、ですが、危険なことはなさいませんようにね。それと、もう少し期間を短くしてください。・・・・・そろそろ騒がしくなって参りました。」
 アローズの動きが激しくなってきた。それに、組織の機体も二機目のロールアウトまで終った。他の機体も順次、仕上がっていくことを考えれば、時間は、そろそろなくなってきている。黒子猫が、いきなり宇宙に上がる事態も考えうるから、できるだけ、親猫に顔を見せるように、という、歌姫様からのリクエストだ。
「ギリギリまで上がるつもりはない。」
「今のところは、それで問題はありませんが、来年は難しいでしょう。来年の秋には全機ロールアウトするはずです。」
 つまり、来年の今頃には、刹那も宇宙に上がる算段をする時期になるということだ。後一年、その間、できるだけ、親猫に顔を見せて欲しいと思っている。その後、再始動すれば、帰って来れなくなるからだ。
「・・・・それほど悪いのか? 」
 親猫の具合は、間違いなく悪化していくのだが、それが、進んでいるのか、と、黒子猫は気になった。
「三蔵さんが、本山から持ち帰られた薬で、少し落ち着いていますが、それもいつまでかはわかりません。それに、再始動すれば長く逢えなくなりますでしょ? 」
「ああ。」
「あなたがたの代わりを、私くしたちがやるとしても、ママの寂しい気持ちまでは埋められません。ですから、逢える時は逢っていただきたいんです。」
 いろいろあって精神的に弱っているので、長く逢えなくなれば、勝手に弱るだろう。出来る限り、年少組がフォローするつもりだが、本物には敵わない。だから、なるべく、それまでは顔を合わせておいて欲しい。
「・・・わかった。なるべく、戻るようにする。」
「お願いいたしますね、刹那。明日また、お見舞いに参じますから。ママに、そう伝えてください。」
 それだけ言うと、歌姫様はクルマに乗り込んだ。イザークとディアッカは別のクルマで先行して走り出す。それを見送って、黒子猫も考える。もう、そんな時期なのだ。今までのように、長いこと一箇所で観察する時間も取れなくなる。どこもかしこも、世界は歪んでいる。人間の居ない地域だけは、そのままだが、それ以外は、アローズに限らず、弾圧や迫害がある。根本的な世界の歪みまで確認していたが、そうも言ってられなくなってきた。後一年で、その答えを自分なりに出さなければならない。


 トダカが出勤してしまうと、静かなものだ。今日は、レイとシンは店に直行の予定だから、誰も戻らない。黒子猫が、脇部屋に戻ると、親猫は横になってテレビを眺めていた。
「トダカさんも出かけたか? 」
「ああ。」
「晩飯は、なんかチンしろよ? 冷凍庫にあるからな。」
「ああ。」
 具合は、さほど悪くないらしい。普通に会話している。だが、まあ、この親猫、騙すのも上手いので信じてはいけない。親猫の横に座って、額に手をやる。あまり熱くないので、ほっとする。
「ラクスに、なんか言われたのか? 」
「・・・もう少し、あんたのところへ帰って来る頻度をあげろ、と、言われた。」
「・・・そっか・・・」
「だが、見たい場所は、まだ残っている。なるべく急ぐが・・・」
作品名:こらぼでほすと 闖入6 作家名:篠義